【GONZO30周年】『カレイドスター』アクションはシルク・ド・ソレイユ、そらの私服は広末涼子がヒント? 佐藤順一監督ら制作スタッフ陣にインタビュー

インタビュー

2022年9月11日に設立30周年を迎えたGONZO。『LASTEXILE』や『ぼくらの』『ストライクウィッチーズ』など、数々のアニメ作品を世に送り出してきたスタジオだ。

現在は、30周年限定グッズが手に入るクラウドファンディングなど、往年のファン垂涎の「GONZO 30th アニバーサリー」と題した記念企画も進行している。
そして今回AnimeRecorderでは、2003年から2004年にかけて放送された『カレイドスター』の制作スタッフにインタビューを行った。GONZOの元、今なお多くのファンが存在する本作はどのようにして制作されたのか、当時を振り返ってもらった。

登壇者プロフィール

佐藤順一
『カレイドスター』原案・監督。
90年代から『美少女戦士セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』でシリーズディレクターとして活躍し、その後も監督として『ARIA』『たまゆら』シリーズなどを手掛けた。

渡辺はじめ
『カレイドスター』キャラクターデザイン。
過去には『おじゃる丸』『スクールランブル』などでもキャラクターデザインとして活躍。佐藤順一氏が監督を務めた『たまゆら~hitotose~』では総作画監督を担当した。

追崎史敏
『カレイドスター』総作画監督。
同作では渡辺はじめ氏と共同でキャラクターデザインも担当。また『アスタロッテのおもちゃ!』『蒼の彼方のフォーリズム』『であいもん』などでは監督も歴任した。

アニメでできる華やかさを追求した『カレイドスター』

――本日はよろしくお願いします。まず、『カレイドスター』を制作することになった経緯から教えてもらえますか。

佐藤氏:スタートは僕が池田(プロデューサーの池田東陽氏)に出したペライチの企画書でした。もともとは子供向けのテイストを想定していて、「子どもたちが知っているけど、あまり見たことがないもの」として、サーカスに着目したんです。そこにスポ根の熱血要素も取り入れたのですが、段々と池田自身の熱血に引っ張られていったのも覚えています(笑)

――渡辺さんと追崎さんは、その後チームに加わったと。

追崎氏:佐藤さんとは『カレイドスター』以前に何度か一緒に仕事をしたことがあり面識はあったのですが、声をかけてくれたのはプロデューサーの池田です。自分に話が来た時はすでに、はじめさんの名前はあったかと思います。

――お二人は『カレイドスター』の企画に対して、どんな第一印象でしたか?

追崎氏:初期はそもそも、タイトルが違いましたよね。『青空イリュージョン』だったかな?

佐藤氏:『カレイドシンデレラ』とか、そんな名前だったよね。

追崎氏:最初はサーカスというものに対してちょっとネガティブなイメージがあったのは事実です…。「それを、あの”佐藤順一”が!?」という意外性も強かったです。

渡辺氏:キャラクターデザインの指示も具体的な絵がなくて、しかも佐藤さんははっきりと「こういう絵」とは言ってくれない人だから大変でした(笑)。佐藤さんの頭の中がわからないので、本当に手探りでしたね。

佐藤氏:「あーしろ、こーしろ」はほとんど言わないようにしてるんです。

渡辺氏:絵のうまい人なのでイメージは表現できるはずなのにあえてやらない人ですから。佐藤さんほどの人に細かく指示されたら萎縮してしまうし、今振り返ると一種の優しさなのかもしれません。

追崎氏:衣装のデザインもゼロの状態から考えて、佐藤さんに「どうですか?」と確認してもらう作業の繰り返しでした。

渡辺氏:追崎君はアイディアマンなんですよ。キャラクターに関しては彼のアイディアがかなり活かされているし、作品全体の雰囲気も追崎君が生み出したと言っていいです。特にキャラクターにまつわるいろいろなもの、衣装とか小物とかのグレードを上げてくれましたね。

――私たちが見ている『カレイドスター』のキャラクターは、本当になにもないところから生まれてきたと。

渡辺氏:その通りです。作り始めた当時は、90年代の延長線上みたいな絵でした。

佐藤氏:そらの私服のビジュアルも、広末涼子から発想でしたよね。

渡辺氏:佐藤さんが写真集を見せてくれて、「これだ!」となったんです(笑)。

――サーカスというテーマを描くのも難しさがあったと思います。

追崎氏:ちょうど企画を立ち上げている頃に、初めてシルク・ド・ソレイユのサーカスを見たんです。それまでのサーカスのイメージとは全然違うステージがそこにはあって。「これだ!」と。演出や衣装などとてもビジュアルイメージの参考になりました。

佐藤氏:だけど、単純にシルク・ド・ソレイユが原点かというとそれも違うんです。もっとハードルが低い娯楽、歌とか踊りとかを含めたエンターテインメントを目指しました。現実的な問題として、作画で難易度の高いサーカスのパフォーマンスを表現できるのか、というのもありました。アニメでできる華やかさを追求した結果が『カレイドスター』でした。
それに、アニメでしかできないと思ってた技って、シルク・ド・ソレイユで実際にパフォーマンスとして見せていたんです。アニメが現実に負けてしまうので、そこはアレンジを加える必要がありました。

苦労ばかりだった制作…内容自体を変えるケースも

――放送当時のファンからの反響は覚えていますか?

佐藤氏:少なくとも放送当時は決して大きな反響ではなかったです。放送枠も夕方の珍しい時間帯で、一番のターゲットだと思っていた子どもたちが、みんな習い事に行っているタイミングだったんです。視聴率も決して高くはなかったですしね。

――みなさんが人気の高さを実感したのは、放送後のことだったと。

佐藤氏:以前に雑誌で、GONZO作品の人気投票があったんです。そこで『カレイドスター』が上位にランクインして、GONZOのスタッフが大騒ぎしたらしいです。

追崎氏:当時のGONZOはSF作品が多くて、『カレイドスター』のような泥臭いスポ根アニメは珍しかった印象です。だからなおさら、ランキングの中で異彩を放っていましたね。

追崎氏:放送が終わってからじわじわと反響が大きくいくイメージでした。随分後になって「実は大好きだったんです」と言われることも多かったです(笑)。
大人になってからハマる人も沢山いたり、「人生が変わりました」という声もいただきました。

佐藤氏:『カレイドスター』がきっかけで、実際にサーカスを始めた人もいましたね。

――制作時を振り返っていただきたいのですが、苦労したことはありましたか?

佐藤氏:苦労ばかりでした(笑)。スケジュールが厳しかったのはもちろん、第2期(3クール目「新たなる翼」)を作れるのかどうか、決断がなかなかおりなくて。「早く決めないと間に合わないぞ!?」って。「95%は決まりなんですけど…」「99%決まりです」みたいな。いいからもう100%ってことにして進めさせてくれって言ってスタートしたときはすでにギリギリ(笑)。

追崎氏:前半から決して楽ではなかったですけど、後半は特に大変でした。

佐藤氏:だから、作画の枚数を抑えつつ華やかに見せる演出を考えました。動かすところは動かすけど、ときには勇気を持って止める。ファンの方は「すごく細かく動いている」と評価してくれますけど、実は動かさない工夫もしているんです。

――確かに、かなり動いている印象のほうが強いです。

渡辺氏:その印象が強いのは、やっぱり和田さんの頑張りが大きいのではないかなと思います。総作画監督の僕はチェックする側の人間だったので、出来上がった映像を見るたびに拍手を送っていました。佐藤さんも追崎さんもすごい仕事量で、それに引っ張られる形で徹夜することもありましたね。佐藤さんなんか、自宅に帰らないこともしょっちゅうあったでしょ?

佐藤氏:あったあった。痛風で、水に足を突っ込んで作業したこともありました(笑)。

追崎氏:朝になったらコンビニで氷を買って、足を冷やしながら仕事してました(笑)。

佐藤氏:とりわけスケジュールが厳しい週もあって、そのときは間に合わないので内容自体を変えるケースもありました。スケジュール次第では、まったく違った内容のエピソードが生まれていた可能性もあったんです。

追崎氏:当時のGONZOさんは50話以上のTVアニメシリーズを作るのが初めてだったので、パワーバランスの配分が難しかったんだと思います。

――サブタイトルはすべてに「すごい」が付く独特のものでした。これはどういった発想から生まれたのでしょう?

佐藤氏:あれは確か…第6話の「小さくて すごい オットセイ」というサブタイトルが初期に決まって、そこで「ほかのサブタイトルも『すごい』を付けたら面白いのでは」と思い、第5話以前のサブタイトルも考え直していったのです。

サブタイトルの付け方は作品によって様々ですけど、僕の場合はプロデューサーや脚本家と相談することが多いです。仮シナリオの段階で考えていたサブタイトルをそのまま採用することもあるし、『カレイドスター』のように一から考え直すこともあります。

――みなさんは長くアニメに携わっていますが、『カレイドスター』を制作した20年前と現在とで、業界はどのように変化したと感じますか?

佐藤氏:作画監督が何人もいないと完成しないとかは、現代のアニメならではかもしれないです。作画監督に関しては『カレイドスター』も相当多かったけど(笑)。

渡辺氏:班で分けるのではなく、毎話みんなで頑張るスタイルでしたね(笑)。

追崎氏:全話全力投球で、なんとか終わらせました(笑)。作り方そのものもどんどん変わってきてますね。現場にいると自然に変化を受け入れちゃってる感じですけど…。

佐藤氏:アニメの売り方も変わったかな。『カレイドスター』のころは放送したアニメの版権でビジネスするやり方と、アニメそのものをパッケージ化して売るやり方の2種類がはっきり分かれてなかった。『カレイドスター』も当初は版権ビジネスを展開する方法を考えていたのですが、メインのターゲットとして想定していた子供が見ていなくて(笑)。だから途中からパッケージを売る方にシフトしたのです。

当時は『カレイドスター』に限らず、多くの作品がターゲットを定められずに右往左往していた時代でもありました。現在は右往左往することも減り、どちらのビジネスをメインにするかはっきりできたのかなと思います。

――それでは最後に、30周年を迎えたGONZOに向けて、メッセージをお願いします。

佐藤氏:まだあったんだ…というのは冗談で(笑)。紆余曲折ありながら30年続けてきたのは純粋に凄いことだと思います。『カレイドスター』を制作しているときに思ったのは、本当にチャレンジングなスタジオだな、ということです。

追崎氏:今思えば、他のスタジオさんでは『カレイドスター』の企画を通すのは難しかったのかなと思います。 カレイドだけでなく、色々な作品とスタッフに巡り会わせてもらってとても感謝しております。

――ちなみに…『カレイドスター』の続編を制作する考えはありますか?

佐藤氏:「やりますか?」と聞かれたら、「やります」と言うと思いいますよ。。『カレイドスター』はエンターテインメントに身を置くキャラクターを描いていて、その姿は自分たちにも跳ね返ってきます。だから制作時は独特の高揚感があり、他の作品ではなかなか得られない体験でした。今の時代にまた経験してみたいかもな、とは思います。

――次の展開にも期待しています。ありがとうございました!

『GONZO30周年アニバーサリー』応援クラウドファンディング

■実施期間
2022年9月11日 (日)18:00 ~ 2022年10月15日(土) 24:00

クラファンページはこちら
https://animefund.com/project/gonzo30th

(C)️2003 佐藤順一・HAL・GONZO/カレイドステージ