この作品は見る人によって印象に残るシーンや、刺さる言葉が違う 『ブルーピリオド』峯田大夢さん、花守ゆみりさんにインタビュー

TVアニメ

2021年10月より放送中のTVアニメ『ブルーピリオド』。本作は高校生・矢口八虎が美しくも厳しい美術の世界へ身を投じ、美大を目指して青春を燃やす物語が描かれている。
今回、本作で「美術」の面白さに目覚めていく主人公・矢口八虎役の峯田大夢さん、八虎を美術部に招き入れた同級生の美術部員・鮎川龍二役の花守ゆみりさんへインタビューを実施。クライマックスへと向かうTVアニメに対する思い、そしてこれまでのストーリーで見られたキャラクターの変化について伺った。

『ブルーピリオド』は現実から切り取ったかのようなリアルさが魅力

――TVアニメは中盤からクライマックスに差し掛かるタイミングですが、現在の心境はいかがですか。

峯田さん:アフレコのときはがむしゃらに毎回臨んでいたので、実際のオンエアを見ると自分ではないような、不思議な感覚になりますね。不思議な感覚はどの作品でもなるのですが、『ブルーピリオド』は特に強いです。

――八虎が絵を描いているときのような感覚なのかもしれませんね。

峯田さん:確かに、オンとオフの差がはっきりしているのは似ているかもしれませんね。

――花守さんはどうですか?

花守さん:ユカちゃんの立場的にも、八虎の目線からどんどん外れていくんですよね。戦う場所も変わってきますし。後半につれて八虎が自分の心のなかで葛藤を初めて、いろいろなものが見えているようで、見えなくなっていくじゃないですか。「どうやったら上手くなれるんだろう」と無我夢中になる姿は魅力的でもあり、危うくもあって、見ていてドキドキします。ユカちゃんはユカちゃんで、気まぐれにしていると思ったら、家庭環境や恋愛といったバックグラウンドを垣間見せるシーンもあって。そういった心の隙間を見て、人間としての形が分かってきたと思います。

――実際のアニメ映像を見ての感想はありますか?

峯田さん:完成版を見るのはファンの皆さんと同じタイミングで、TV放送やNetflixの配信を、皆さんと同じように楽しんでいます。最初に見たときは劇伴が特徴的で、とにかく驚きましたね。

花守さん:そうだね。予備校のシーンとか、特に印象に残ってます。

峯田さん:やっぱり、八虎が美術に触れるシーンとか、作品の象徴的な場面で劇伴が使われているんですよね。でも逆に言うと、無駄な音があまりない。音楽を極力使わないで、学校で聞こえる騒ぎ声や足音、吹奏楽部の演奏が使われていて、それがとにかく印象的ですよね。スタッフの方に、環境音はすべて実際の予備校で収録したと聞いたので、最大限に活かされていると感じました。

――確かに劇伴と同時に環境音も印象に残っていましたが、そういった作業があったのですね。

峯田さん:鉛筆を削る音も、キャンパスに筆が乗る音も、実際の音なんです。実際に見ると細部へのこだわりがよく分かったし、「こういう仕上がりになるんだ」という驚きもありました。

花守さん:『ブルーピリオド』のアニメって、現実に限りなく近い、それどころか現実から切り取ったかのようなリアルさが魅力ですよね。環境音の生々しさと、アニメとしてのキャラクターを映す映像のバランスが新しい挑戦だなと感じました。個人的には、森先輩の絵を初めて見たときの衝撃をどうやって表現するのかがとても気になっていたんですけど、それも見事に描かれていて、スタッフの方々の理解が深いことを感じられました。
音に対する驚きという意味では、私たちの声も同様です。「このときの息遣い、そのまま使うんだ」とか、今までにはない新鮮な気持ちでアニメを見ています。

――物語が進むにつれて、八虎と龍二の関係性も変化していきます。そんな2人のターニングポイントはどこにあったと見ていますか。

峯田さん:八虎と龍二は10個ある個性のうち9個が違っても、ひとつだけ根っこの部分が一緒だと思うんです。だからこそ距離感を確認しあえるし、お互いを助け合うこともできるのかなと。

ターニングポイントと言われるとたくさんありますけど、やっぱり最初に美術部に誘った場面かなと思います。きっかけは森先輩の絵ではあるものの、徐々に龍二という人間の難しい部分に踏み込めるようになったのは、美術部という場所があったからだと思います。

花守さん:ユカちゃんにとってのターニングポイントと言われると、結局9話、10話が大切だったのかなと思います。ここで八虎の捉え方が変わったというか。
それまでは八虎がユカちゃんからなにかを得ることはあっても、ユカちゃん目線だと、なぜか視界に入ってくる悪友くらいの感覚だったと思うんです。「この先卒業したら会うこともないだろうな」くらいの存在。

だけど9話、10話で踏み込んではこないものの、一緒に海を見てくれる仲間になったのは、ターニングポイントと言えるんじゃないですかね。
ユカちゃんは自分が孤独だということを理解していて、でも自分には理解できない別の孤独を八虎も抱えていて。それを知れたのが小田原の海だと思うし、ある意味自分の一番恥ずかしい部分をさらけ出せたんだと思います。さらけ出しても理解されない、でも知ってほしいというエゴかもしれないですけど。

この一幕は、ユカちゃんの成長というより変化だと思います。あのシーンから視界が広くなったというか。

――八虎の「俺は一緒には溺れないよ」とか、印象的な会話も多かったですね。

花守さん:ユカちゃんの目線だと、心の弱いところを突かれた10話より、思わず罵倒しちゃう9話のほうが黒いものを詰め込んでいましたよね。演じるときも暗唱できるくらいすべてのセリフを頭に詰め込んで臨んでいました。試験の前日みたいな気持ちで過ごしていました(笑)。

峯田さん:9話の収録はご飯が喉を通らない状態でしたよね(笑)。

花守さん:そう、『ブルーピリオド』の収録はしんどかった(笑)。登場人物が受験とか、いろいろなものと戦っている影響もあるんでしょうけど、台本のセリフを読みすすめるたびに「今日はここか…」って(笑)。でも、そんなシーンに燃える自分もいて、緊張感や苦しみ、熱さ、たくさんの感情が活かされた現場でした。

見る人によって印象に残るシーン、刺さる言葉が違う

――演じていて、キャラクターから刺激を受けることはありますか?

峯田さん:それはいつもあります。僕よりも遥かに緻密で、それでいてアグレッシブに攻めている姿は、常に背中を押してくれる感覚があります。演じていて、八虎のようになりたいと本当に思いましたから。天才肌で、それでも努力を忘れないで。僕も努力で周囲の才能をねじ伏せるような存在になりたいです。

花守さん:八虎を見てると、悩めるのも才能のひとつだと痛感します。なにに悩めばいいかを理解して、手を動かし続けるのがどれだけ凄いことか。
私自身も、たくさんのキャラクターから刺激を受けていると思います。みんな壁にぶつかり、そのたびに新しい武器を手に入れ、強くなっていく。パーフェクトな人物がいないからこそ、私たちもそれぞれの目線になれるんです。『ブルーピリオド』はすべてのキャラクターが誰かの目標や指針になっているから、どの目線になってもしっかりと刺激をもらえるのではないでしょうか。

――収録前と収録後で、『ブルーピリオド』の魅力に変化はありましたか?

峯田さん:僕自身はありませんでした。原作とアニメでは技法が変わっただけで、本質は変わらないです。アニメになって声や音楽が付いても、それは切り取り方が変わっただけですから。

――ちなみに、キャストの皆さんにとって『ブルーピリオド』の本質はどこにあると感じましたか。

峯田さん:見る人によって印象に残るシーンや、刺さる言葉が違う点だと思います。

花守さん:限りなくリアルに近いフィクションだから、人それぞれの感じ方があるのだと思います。私は純粋に原作を楽しく読みましたけど、美術に関わる人からすると、辛い現実を連想するから「『ブルーピリオド』を読みたくない」と思う人もいるらしいんです。

峯田さん:「読みたくない」っていう感想、友達にも言われました。

花守さん:やっぱり! 共感できる部分が少ないからこそ楽しめる作品で、実際に突き落とされた人には辛い作品なんだと思います。演じる前は「美大生にも楽しんでもらえる作品にしよう」と意気込んでいましたけど、演じるうちに「絶対無理だ」となってしまいました(笑)。今では「読みたくない」という感想もすごく分かるし、フィクションの中にリアルがあることもはっきり感じます。

峯田さん:好きなことをやるって、いつも楽しいわけじゃないと、演じるうちに身を持って思いましたね。

花守さん:演じるのが辛いシーンもありました。もう一度同じシーンを収録しろと言われても、難しいかも。

――ちなみに、お二人が普段の生活で美術に触れる機会はありますか?

峯田さん:僕はこれまでなかったのですが、『ブルーピリオド』をきっかけに山田五郎さんのYouTubeチャンネルを見るようになりました。絵の面白さ、奥深さをとても分かりやすく教えてくれるんです。だからTVアニメの最後に山田五郎さんの解説が入るのを知って、本当に嬉しかったですね。

花守さん:実際に美術の世界に触れたことはないのですが、中学時代まで遡ると、美大に進学したいと思っていた時期はあります。当時は絵がとても上手い友達がいて、「美大に進めるのはこういう人だ」と、打ちのめされてしまったんです。私が持っていないものを持っていて、凄い憧れがありました。結果的には声優という仕事ができているし、『ブルーピリオド』という作品にも出会えたからよかったのかもしれません。もしも美術の世界に入っていたら、『ブルーピリオド』をまともに読めなかったかもしれないですし(笑)。

――アニメはこれからクライマックスへと向かいます。

峯田さん:まず、ここまで見てくださったファンの皆さんには感謝しかないです。終盤の物語も、オンエア版は皆さんと同じくTV放送で初めて見るので、皆さんと同じくワクワクしながら待っている状態です。
映像も音も、そしてもちろん演じたキャスト陣の演技も細部までこだわった作品です。僕もがむしゃらにぶつかっていきました。苦しみも喜びも、すべてが繊細に描かれているので、ぜひ最後まで楽しんでいただけたらと思います。

アニメとしては一旦の区切りだと思うので、どういった形で区切りがつけられるのか、というところにも注目してほしいですね。

花守さん:第1話から見ていると、八虎は視聴者目線のキャラクターと思いきや、他の誰よりも天才、一番狂ってる存在なんですよね。その才能で周囲の人を狂わせていると思うんです。そんな彼がフラフラになりながら絵を描き続ける、その姿がファンの皆さんの心を掴んで離さないのだと思います。終盤でも八虎の生き様はしっかりと描かれているので、苦しんでいる表情も含めて見てもらいたいです。

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