本編のギスギスとは全然違う? ミニアニメ『MyGO!!!!!メンバーの日常』はなぜ生まれたのか制作者に聞いた

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2023年6月にスタートし、これまでの『BanG Dream!(バンドリ!)』アニメシリーズとは一線を画したストーリー展開で話題を集めるTVアニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』。
これまでのシリーズ作品はキラキラとしたガールズバンドの物語が描かれてきたが、本作では”ギスギス”という言葉がうまく当てはまる。MyGO!!!!!のメンバー間にある考え方の違い、そこから生まれる焦りや苛立ちが丁寧に描かれ、これまでシリーズに触れてこなかった層にも広がっている。

その一方で、本編で見せることのないMyGO!!!!!メンバーの一面を楽しめるコンテンツもある。それがYouTubeで展開するミニアニメ『MyGO!!!!!メンバーの日常』だ。
本作はタイトルに「日常」とある通り、メンバーのちょっとした日常の出来事が描かれている。お花見やハロウィンといったイベントを楽しんだり、動物園やファミレスへ行ったり、あるいはパン派かごはん派で盛り上がったり…。『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』では絶対に見られない会話が次々に飛び出してくる。

今回は、そんな『MyGO!!!!!メンバーの日常』を制作するスタジオモリケンの森井ケンシロウ氏にインタビューを実施した。なぜミニアニメを作るのか、そして制作者としてMyGO!!!!!をどのように見ているのか、さまざまな質問をぶつけてきた。

ミニアニメ制作の始まりは「フラッシュ職人」

――本日はよろしくお願いします。まずはスタジオモリケンさんについて、そもそものショートアニメを制作するようになった経緯を教えてください。

もともと、30分アニメを作っていたわけではないんです。20年ほど前、ネット上でフラッシュアニメが流行ったのは覚えてますか? 「フラッシュ職人」なんて呼ばれたりもしましたが、僕自身もそんな「フラッシュ職人」だったんです。
さまざまな楽曲にアニメ―ションを付けるっていうのがすごく好きで、ニコニコ動画にアップしていたんです。

もちろんそれは個人で楽しむレベルでしたが、ある日『鋼の錬金術師』の入江泰浩監督から「一度ボンズに遊びに来ないか」とメールが来たんですよ。最初は「動画で好き勝手やったのが怒られるのかな」と思っていたんですけど、実際は「『鋼の錬金術師』のエンディングを作ってみないか」という提案で、それがアニメ業界に入るきっかけになりました。

――そんな経緯が…。きっかけは『鋼の錬金術師』だったのですね。

そうです。その後は『鋼の錬金術師』第2期でもエンディングを担当して、その流れでDVD用のミニアニメを作ることになりました。だから、最初からミニアニメを作りたかったというより、流れの中で行き着いたのです。

――差し支えない範囲で、当時はどんなフラッシュアニメを作っていたのでしょう。

ミュージックビデオだとCAPSULEさんの楽曲は、勝手ながら作っていました。あとは「トンチキ&グレミーオ」という2人の猫が会話をする、今のショートアニメに近い作品もあります。

もともと僕自身が猫好きで、『ハガレン』のエンディングにも実は猫を入れてるんです。怒られたらやめようと思ったんですけど(笑)

――(笑)。ちなみにMyGO!!!!!のミニアニメにも猫は何回か出てきますよね。

MyGO!!!!!だと特に楽奈の雰囲気は猫に例えられることが結構多くて、「じゃあ猫ネタもありだよね」と提案したのが始まりです。
もちろん僕が猫好きというのも多少は関係していると思います。このミニアニメはMyGO!!!!!という原作があるので、極力世界観はいじらないようにしたい。その中でどのくらい遊べるかを考えると、猫は世界観的にも出して問題なかったんです。

――そんなMyGO!!!!!にも関係してきますが、ブシロードとの出会いはいつごろになるのでしょう。

『ハガレン』のミニアニメを作る流れで、いろいろなところからお仕事をいただくようになったので法人化したんです。
ブシロードさんから『バンドリ!』関連のお仕事をいただいたのは、その後のこと。ミニキャラを使ったミニアニメ『BanG Dream! ガルパ☆ピコ』の提案で、第1期では自分が総監督、第2期以降は後輩である宮嶋(宮嶋星矢氏)が監督を務めました。

――その当時は、『バンドリ!』に対してどんな印象を持っていましたか?

基本的にゲームのストーリーがアニメよりかなり進んでいて、キャラクターの数もかなり多い。アニメの特徴を知るのはもちろんですが、まずはキャラクターの特徴とか覚えなきゃ、ゲームをプレイしてストーリーを覚えていかなきゃ、というのが最初に考えたことです。

ブシロードさんのコンテンツは相関図が公式サイトに掲載されることも多いですけど、それぞれの関係性を知るために自分で一から相関図を作ったりもしました。自分なりの相関図と公式の相関図を見比べて、答え合わせをすると、「実はこの子はこんな性格なんだ」「この子とこの子は過去になにかあったんだ」といった、見えなかった部分が分かるようになるんです。

――スピンオフアニメを作る場合、後から作品に入ることの方が多いわけで、そういった歴史を知る作業も重要になってきそうです。

そうですね。やっぱり本編の内容と、それを見てくれた視聴者のみなさんとの解釈違いが起こると、全員が楽しめないですから。相関図という形でリサーチしつつ、自分は彼女たちをどう見たかを積み重ねます。
新しいコンテンツに触れるのは、これが楽しいんですよね。1人の視聴者として入って、自分で楽しんでみて、良かったと思った部分をミニアニメで押し出していけるのは、この仕事の魅力だと思います。

MyGO!!!!!は「資料の時点でちょっと不穏だった」

――その流れで、「MyGO!!!!!メンバーの日常」を展開することになったのはなぜですか?

ちょうど『ガルパ☆ピコ』を作ったチーム一旦抜けて、スタジオモリケンとして活動しようと考えたときにブシロードさんからお話をいただきました。
自分自身が暇な時期でもあったし、なによりまったく新しいMyGO!!!!!のメンバーを動かせるということで、これはちょっと面白いなと思い引き受けました。

――ただ、すでにアニメもゲームも動いていた『ガルパ☆ピコ』と違い、MyGO!!!!!はなにも情報がないところからのスタートでしたよね。

まったく逆の流れですね。イメージをあまり強くつけてしまうと、視聴者さんはその流れでアニメを見てしまうんじゃないかと怖い部分もありました。
MyGO!!!!!に興味を持ってもらいつつ、一番美味しいところはちゃんと本編の楽しみに取っておく、そのコントロールが結構大変でした。

本編はかなりギスギスとした展開も目立ちますが、ミニアニメはコミカルなこともできて、ときには少しキャラから逸脱したギャグも、少しだけ許してもらえたので、そこはしっかり魅せられていると思います。

――初期のころ、作品に対する印象はいかがでしたか?

いただいた資料の時点で、相関図がちょっと不穏だったんです。その後、脚本の完成していた部分も読ませていただいたのですが、もうお腹が痛くなるくらいで(笑)。
とにかく重たい本編だったので、ミニアニメではキャラクターの関係性はあまり出さず、先入観を持たせないほうがいいと感じました。

――そんな不穏な資料から日常アニメを作るというのは、ちょっと難しそうな印象もあります。

いや、『バンドリ!』に登場する他のバンドも、最初から仲良かったわけではなく、さまざまな困難を乗り越えた経緯があるじゃないですか。
そこは他のバンドも、今回のMyGO!!!!!も同じだと思うし、僕らがコンテンツを作る上では、そこまで違いはないんじゃないかと。

――では、各キャラクターはどのように描こうと考えたのでしょうか。

楽奈はやっぱり猫っぽいニュアンスを感じたので、視聴する方々にも、そこは先に見ておいてもらいたいと考えました。
とにかくキャラクターを覚えてもらうことを第一にあったので、猫っぽさをコミカルに表現できるよう意識しました。

燈は…初期の段階から不思議ちゃんな印象が強かったです(笑)。それに反して立希はキツいところがあるけど、燈に対してはめちゃくちゃ優しいんです。アニメ本編でもその描写はありますけど、ミニアニメでは立希の燈好きをより強調しています。
あと、資料によると立希はパンダのグッズを集めることが好きとも書かれていたので、動物園のネタを入れてみたり、意外と楽奈とも相性がいいのでは…と思ったので絡ませてみたり、たくさんの動かし方ができるキャラクターです。

そよは本編の中でも、前半と後半でガラッと変わってくるキャラクターじゃないですか。だからこそ、本編が放送されるまでは、前半の優しい雰囲気でまとめました。
愛音は救世主というか、自分が一番楽器できていないと分かっていて、だからバンドに一番向き合っている人物ですよね。

5人の中でいうと、愛音は僕らとしても心の支えというか、ミニアニメが作りやすかったです。逆に愛音の話ばかり考えてしまって、「愛音が出てこない話も考えてください」と言われることもありました(笑)。

――(笑)。愛音はバンドのまとめ役ですし、物語に組み込みやすいのはなんとなく分かります。

なにかあったら愛音が助けてくれるというか、話が進まないときは愛音が口火を切ってくれる印象があります。
あとやっぱり、一番普通の女子高校生っぽいのも愛音だと思うんです。僕はミニアニメのテーマを決めるとき、今の女子高生はどんな流行があるのかを切り口にします。MyGO!!!!!メンバーと同じ時間体験をしてる人たちは、なにに興味を持っているのか、探るところがスタートなんです。
そして、女子高生の流行りにもっとも敏感そうなのが愛音じゃないですか。例えばおしゃれピクニックとか、SNS映えする食べ物とか。そういった女子高生っぽいネタを愛音が切り出すのは、ミニアニメでよくやる手法でした。

――脚本を作るというより、ネタをリサーチする感覚なんですね。

一から脚本を作ると、どうしても音楽方向の話が多くなるんですよ。だかえどそれは本編の方でしっかり見てほしいですし、逆に本編でできないことをやりたい、彼女たちの違った一面を拾っていきたい。そう考えると、やっぱり女子高生らしさは重要だと思ったんです。

ギスギスした本編に対する癒しの存在

 

――「MyGO!!!!!メンバーの日常」は、1つの作品が30秒程度なのも特徴だと思います。一般的にテレビやYouTubeのショートアニメは3分から5分程度ですよね。

「タイパ」なんて言葉もありますけど、最近のトレンドとして、サクサク見れることがポイントになっています。もちろん長めの動画にすることもできますが、今回は需要にマッチした作品を目指しました。
短めにすると、僕たちとしても間延びせず、一つのシチュエーションしっかり見せられるメリットもあります。なにより視聴する方々に、すぐ美味しいところを見せてあげられますから。

――ちなみに、現在までに作ってきたミニアニメを振り返って、特に見てもらいたいエピソードはありますか?

「楽奈のグルメ」という、楽奈がひたすら抹茶プリンと抹茶パフェをモグモグ食べる回は特に評判が良かったです。なんとなく楽奈はいじっても怒られないかなと思っていて、ギャグを強めにすることが多いです。コミカルなことをやっても不自然ではないですし、新しい一面を見せるのは僕も楽しかったです。

あとはすべてに言えることですけど、6月に本編の放送が始まってからは、視聴者のコメントの傾向が大きく変わりましたよね。ギスギスしたまま終わった回のあとには、癒やされに来る人が結構いるんです(笑)。
元々ミニアニメって、本編の語られなかった部分をサポートしてあげるのが役割だと思うんです。シリアスな方向に行ったときの揺り戻しというか、落ち込んでしまったテンションを上げるというか。

「MyGO!!!!!メンバーの日常」でも、少しクスッと笑える映像を提供できてる、そんな役割を担えていると分かったのは嬉しかったですね。

――それでは、スタジオモリケンさんとしての今後の目標があれば教えてください。

最近はTVアニメからは離れていますけど、テレビ媒体はもちろんWeb媒体でも場所を限定せずにたくさんのアニメを作っていきたいです。
あと、Poppin’Partyの「最強☆ソング」ではアニメーションMVを担当させていただいて、本当に嬉しかったので、こういった仕事も続けていきたいです。元々、楽曲にミュージックビデオを付けるところから始まったキャリアですから。

――確かに、「最強☆ソング」のミュージックビデオは本領発揮とも言える仕事ですよね。

そうですね。ただ、やっぱり等身が高いと絵の枚数を増やす必要があって、大変な思いもありました(笑)。
そういう意味では、SDキャラになったMyGO!!!!!のメンバーをグリグリと動かすアニメもいつかは作ってみたいです。今までやってこなかったキャラクター同士の絡みも見せていきたいし、やりたいことはまだまだ多いです。

――ありがとうございました。

MyGO!!!!!公式YouTubeチャンネル