TVアニメ『オルタンシア・サーガ』制作プロデューサー陣にインタビュー

TVアニメ

2021年1月から3月に放送されたTVアニメ『オルタンシア・サーガ』。f4samuraiが配信する戦記RPG『オルタンシア・サーガ -蒼の騎士団-』を原作としており、アニメでは
ゲーム同様、様々な宿命を背負った登場人物たちが繰り広げる王道ファンタジーが展開した。

本作で制作の中心的な役割を担ったのが、f4samuraiの佐藤允紀氏、アニプレックスの中山信宏氏。今回はこの2名にインタビューを行い、『オルタンシア・サーガ』をアニメ化することになった経緯や、アニメに落とし込まれたキャラクター、そしてストーリーなどを振り返ってもらった。

アニメならではの肉付け、そして削ったものとは

――本日はよろしくおねがいします。まず、『オルタンシア・サーガ』をアニメ化することになった経緯から教えて下さい。

佐藤氏:『オルサガ』はもともとセガさんが配信、弊社が開発・運営していて、当時は『チェンクロ(チェインクロニクル)』に続く王道RPGというふれ込みでスタートしました。当時は我々として『チェンクロ』をどうやって超えるかが目標にあり、、「『チェンクロ』がTVアニメになったのだから『オルサガ』も」という思いは4、5年前からあったのです。

とはいえ思いだけではアニメ化にはたどり着けないので、まずは制作してくれるスタジオを探さなければいけません。そこでご縁いただいたのがライデンフィルムさんで、将来的なアニメ化の気持ちをお伝えしつつ、まずはゲームの方で第3部のオープニングムービーを作っていただくことになりました。

――3、4年前からというと、かなり以前からアニメ化の考え自体はあったのですね。

佐藤氏:『オルサガ』は弊社にとって初のオリジナルタイトルで、メンバーの思い入れも強かったですからね。「誰も協力してくれなくても絶対に成立させてやる」くらいの気持ちでした。その後、本格的に動き始めたのは『マギアレコード』をアニプレックスさんとご一緒したときですね。アニプレックスさんがスタジオやクリエイターとどう向き合っているのか、監督を始めとしたスタッフの方々とどんなやり取りをしているのかを傍で見て、とにかく学ばせてもらって。

そこで改めて知ったのはゲームとアニメの業界慣習の違いです。ゲーム会社は費用を負担する発注者と受注者の関係性が強く、同じ感覚でアスタジオとやり取りしてしまうケースがあります。だけどそれではダメで、クリエイターの方々が貴重な人生の一部をオルサガに割いてくださる以上、ゲーム側のエゴをすべて捨てて、アニメ作品として「作ってよかった」、「良いものができた」という案件にしなければいけないなと。

――その流れで制作を任せたのがライデンフィルムだったと。

佐藤氏:オープニングムービー制作からアニメ化を正式に決めるまでの間は、いろいろ奔走しつつも、ライデンフィルムさんから「アニメ化いけるの?」「ライン空けるけどどうする?」と仰っていただけて(苦笑)。

――『マギレコ』でアニプレックスと組んだのも、『オルサガ』のアニメ化に影響があったのですね。

佐藤氏:そうですね。アニメ化を実現するためには、計画をひいて予算を捻出したり、ゲームの盛り上げをどう併せるかだったり、宣伝だけでなくコミカライズや周辺展開を方々にご相談したり、と複合的な動きをしなければいけません。アニプレックスさんのやり方を学びつつ、一生に一度かもしれないという思いでアニメ企画を立ち上げました。

――ということは、企画自体が生まれた当初アニプレックスは関わっておらず、あくまでf4samurai独自のものだった、ということですか。

佐藤氏:はい。本読みも制作進行も弊社単独でした。『オルサガ』のアニメ化を発表したのは2019年のファンイベント(f4ファンフェスティバル)でしたが、アニプレックスさんにお声がけもらったのは発表の1ヶ月前でした。拾ってもらわなかったら、弊社単独で放送準備や宣伝など試行錯誤を続けていたはずです(笑)。

――そこでアニプレックスの中山さんが登場すると。

中山氏:『オルサガ』はプレイこそしていなかったもののゲーム自体はもちろん知っていて、さらにライデンフィルムさんからも話は聞いていたんです。「製作委員会の座組みがなくて、佐藤さんがほぼ1人でやっている」という話を(笑)。それ自体は剛毅なことをするなと驚いたと同時に、なにか手伝えることはないかと伺ったのが始まりでしたね。

中山信宏プロデューサー

――そのタイミングで『オルサガ』にはどんな印象をお持ちでしたか?

中山氏:その時点で出来上がっていた制作物を見せていただく機会があって、ゲームファンに向けた内容でありながら、オリジナルのファンタジー作品としての魅力も持っていると感じました。

――原作のゲームは第3部まで含めるとかなりのボリュームですが、アニメにどのように落とし込もうと考えていきましたか?

佐藤氏:西片監督(西片康人氏)と相談しながら決めていきました。制作が始まった当時はゲームのスクリプトに載せるcsvファイルしかなかったので、読みやすいよう台本風に縦書きに作り直してお持ちしたり。監督は第3部の結末まですべて読んでいただいた上で、第1部を12話で完結させる選択になりました。
ライデンフィルムさんはかつて『アルスラーン戦記』を制作しており、戦記作品を作られた実績、またひとつのエピソードを凝縮してまとめることも非常に上手いと感じていたので、その判断におまかせした形です。

――アニプレックスさん側からストーリーにオーダーを出したということは?

中山氏:いえ、私たちが入ったころにはストーリーが固まっていたので、そこに途中から介入することはありませんでした。

佐藤氏:相談したタイミングが遅すぎましたね(笑)。

中山氏:(笑)。ただ、以前からライデンフィルムさんから「ゲームのシナリオを忠実に再現する」という方向性は聞いていて、すでに把握している状態ではありました。ゲームのアニメ化は色々なやり方があって、ゲームのストーリーをそのままなぞるのか、オリジナルに変えるのか。またストーリーが薄いゲームの場合は一からストーリーを考える工程が生まれます。

『オルサガ』の場合は幸いにもしっかりとしたストーリーが最初から存在していて、それが好きなファンが大勢いることも聞き知っていました。まずはファンの方々を裏切ることはしたくないと思いましたし、その流れを汲んだストーリーには納得しました。

――逆に、アニメならではの肉付けなどは考えたのでしょうか。

佐藤氏:主人公をどうしようか、というのは真っ先に考えたことです。アニメではアルフレッドという名前になりましたが、原作のゲームでは名前もなく、朴訥な印象の持ち主でした。主人公像をどこまでアニメに引き継ぐかは課題でした。
そこで考えたのがアルフレッドとマリユスのダブル主人公という形で、マリユス視点でも物語を描くことでした。これはゲームとはちょっと違ったアレンジで、ゲームのユーザーさんにどう映るのか、期待しながらの制作でした。

肉付けとは逆に、削ったものもあります。ゲームだとバトルが自然と挟まってきますが、アニメでは無駄なバトルをしないように構築し直しました。

――RPGをアニメ化するときの課題ですよね。ゲームのバトルをすべて再現すると、展開がワンパターンになってしまいます。

佐藤氏:そうなんです。さらに剣と魔法の世界で派手なアクションを見せる、という選択肢もあったとは思いますが、ストーリーと等身大のキャラクターをしっかり見せたい当初のコンセプトと両立するのは難しいです。だからバトルは、1話の中に1回程度と絞るようにしました。

――派手さよりも、ストーリーをしっかり見せることを優先したと。

佐藤氏:ストーリーの見せ方は本当に様々な議論をしました。『オルサガ』の中に異世界転生する形にした方が良いというアドバイスをくださる方もいらっしゃいました。 最終的には、このご時世に珍しいあえて“王道“にして記憶に残してもらおうというのと、ユーザーさんを裏切りたくないという思いから、今回の形にまとめました。

――中山さんはバトルシーンに関して、なにか考えはあったのですか?

中山氏:バトルシーンを抑えめにするという方針は、先程も話したとおり私たちが入ったころには決まっていたことなので、変に注文をつけることはしませんでした。それでも要所では戦いを描かなくてはいけなくて、これが鬼門なんですよ。ファンタジー世界の集団戦、しかも鎧を着ているとなると、描くのが本当に大変で。

――あぁ…確かにそうかもしれません。

中山氏:CGを使うのもひとつの手ではありますが、今のCGは情報量の補強でしかないんです。CGが使われ始めた初期のころは、CGを使うだけですごいと言われていました。でも今だと、仮にPS5並のCGを使ってもすごいと思われなくなってしまいました。

――CGそのものが自然に受け入れられる世界になってしまったというか。

中山氏:はい。だからこそアニメチックといいますか、セル画風の動きに集中したんです。そこは真正面からやりきれたと思いますし、さすが『アルスラーン戦記』のスタッフだなと感じました。

佐藤氏:僕はもともと違和感はあれどバリバリの3Dで戦闘を表現するのもあり得るのかな、と思っていました。しかしアニメが完成した今だと、特にディディエの戦闘シーンなど凄いクオリティで、キャラクターの表情もしっかり描いていただけたと思っています。

――ライデンフィルムのノウハウもかなり生かされたアニメだったんですね。

佐藤氏:『オルサガ』アニメ化にあたって本当に気を使っていただきました。ソーシャルゲームのアニメ化の成功例は決して多くない中で信頼してくれて、なによりアニメの制作が終わったあとも「また一緒にやりたいですね」と声をかけてもらえて、それがなによりも嬉しかったです。

中山氏:現実をしっかり見てくれるスタッフが揃っているんですよね。無茶な要望にはしっかり「無茶です」と返してくるし、それでいて決してハードルを下げすぎることもない。アニプレックスとしては過去に『ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。』でも一緒に仕事をしていて、そのときも決められたスケジュールの中でやるべきことをやってくれる、信頼できるスタジオですね。

後腐れないハッピーエンドに変える案もあった

――ストーリーに関してもお聞かせください。もちろんゲーム版がベースにあることは大前提ですが、それでもグッドともバッドともとれるエンディングには驚かされました。

佐藤氏:後腐れないハッピーエンドに変える案ももちろんありました。でもアルフレッドもマリユスも未成熟な10代の若者なんです。幼さが残るからこそ、個人的な思いと感情から誤った選択をしてしまう。そこを否定してしまうと、築いてきたキャラクターの人物像も変わってくると思うんですよ。若さからくる過ちを含めてアルフレッドとマリユスのストーリーだと思い、あの形になりました。

中山氏:普通はやらないと思うんですよ。それでも佐藤さんを始め監督もやろうと決めた以上はそれが正しいはずなので、あとから入った私たちが注文をつけるべきではないと思っていました。とはいえ、仮に最初から自分がいたとしても、結末は変わっていないでしょうね。ゲームはまだまだ続いている中で、アニメだけがピタリと終わってしまうのも変な話ですし。

――視聴者、特にゲームファンからの反響はいかがでしたか?

佐藤氏:こういったエンディングにしたこともあって、ユーザーの方は「このあとのストーリーも知ってるぜ」と自慢できると言いますか。ゲームを遊んでいたことの特権を味わっていただいたのは嬉しかったです。

――逆に、ゲームを知らない層へのアプローチはどのように考えたのでしょう。

佐藤氏:ゲームのストーリーをなぞってはいるものの、ゲームの宣伝で終わらないアニメにしよう、というのは最初から考えていたことです。アニメ単体で皆さんが気になる作品にしようと。実は第1話が放送されたとき、Twitterのタイムラインをずっとチェックしていたんですよ。そのときもアニメで『オルサガ』に初めて触れる人の反応が凄く気になっていました(笑)。

中山氏:プロモーションに関しても考えは同じで、まずはゲーム抜きで、アニメ単体の魅力をアピールしていこうという考えでした。とはいえゲームを完全に無視するのもおかしな話なので、放送前の段階では間口を広げる意味で、アニメファンに届くプロモーションを意識しました。細谷佳正さんや堀江由衣さんに出演していただいた放送前特番もその一環で、視聴数も良かったですし、ひとつの起点になれたのかなと思います。

佐藤氏:キャストの方々の力は本当にありがたかったです。細谷さんも堀江由衣さんも、すごく『オルサガ』と弊社メンバーのことを気にかけていただいていました。ゲームで楽曲を担当したアーティスト方も一様にアニメ化を喜んで参加してくれましたし、オルサガに関わってくださった方々の「オルサガ愛」を感じられたのは嬉しかったことの一つですね。

――ゲームはもちろん、アニメのBlu-ray/DVDがリリースされたり、「オルサガ展REVIVAL」を開催したりと、展開はまだまだ続きます。

佐藤氏:Blu-ray/DVDに関してはビジュアルブックに設定資料、年表、サントラと、『オルサガ』に関わるものをすべて詰め込みました。これもまたアニプレックスさんにご迷惑をかけつつ、入れたいものを全部入れさせてもらったところです。
「オルサガ展」に関しては2年前に始まって、今回は過去最大規模での開催になります。アニメの原画や、北京で開発しているリメイク版、それに現行のゲームの6年間も含めて、私たちの仕事の集大成をまとめた内容です。

「オルサガ展」を3度に渡り続けてきて、本当にいろいろな方が『オルサガ』に触れてくださっているんだと実感しますね。ゲーム内で知り合った方同士が会場で初めて会ったとオフ会的に機能しているという話も多く聞きました。デジタルとは違った出会いは多くの人に影響を与えますし、オルサガのオフ会に参加していた学生が、f4samuraiに入社して「マギレコ」に携わってたり(笑)、今後も続けられるかは分からないですが、こういうゲーム外での接点も大切にしていきたいです。

中山氏:アニメは最初から最後まで、やるべきことをやりきれた作品だと、実際の放送を見て思いました。ゲームを知らない人もアニメを見てれば作品の良さを分かっていただけると思います。映像商品や各配信サービスなど視聴する手段は多いので、ぜひチェックしてもらいたいですね。

公式サイト 公式Twitter 作品概要
(C)オルタンシア・サーガ製作委員会