アニメ制作を支えるアニメーターの仕事内容とは? 目指す上で知っておきたい作業の流れ、必要なスキルを紹介

業界ニュース

年間で約300作品が制作され、劇場版アニメのヒットも珍しくない現在の日本アニメ。その制作は、”アニメーター”と呼ばれる大勢のスタッフに支えられている。しかし一言でアニメーターと言っても、具体的にどんな仕事をしているのかはあまり知られていない。

この記事では、そんなアニメーターが一体どんな仕事をしているのか、その内容や、なるための方法を紹介する。

アニメ業界の現状は…環境はコロナ禍によって一変

帝国データバンクが発表したアニメ制作業界の動向調査結果によると、2021年の市場規模(事業者売上高ベース)は2495億8200万円。過去最高だった2019年から10年ぶりに減少に転じた2020年に続き、2年連続で市場が縮小したという。

19年まで9年連続で拡大していたが、コロナ禍による制作スケジュールの遅延や制作見合わせの影響などが響いた。また、放映タイトル数も減少したことで仕事量も減少し、多くの制作企業が減収や、前年並みの売上高水準にとどまったケースが多く発生した。

2022年以降はコロナ禍の影響が緩和され、市場は一転して増加の傾向に入ると見られている。しかし、コロナ禍で制作遅延となった作品の「繰り延べ」による影響が多く含まれるため、過去最高だった19年の水準には届かない見通し。アニメ制作市場は頭打ちの傾向があると言える。

アニメを制作するスタジオに目を向けると、若手アニメーターの確保難など人手不足に伴う受注の制限に加え、人件費や外注費などが増加し、減収効果も重なって赤字となった企業が多かった。
その一方でアニメーターの積極採用や外注増加、老朽化に伴う機材更新やデジタル化対応設備の導入など、積極的な設備投資が行われてきた。その効果として受注消化能力が向上していることや、3DCGなどでは最新設備の導入で制作現場の付加価値が高まり、請負単価の上昇といった恩恵を受ける専門スタジオもあった。制作ニーズは引き続き旺盛だが、最新の技術を利用できるデジタル人材不足など課題も垣間見える。

アニメーターとは?

アニメーション制作はさまざまな工程に分かれている。企画の立ち上げに始まりシナリオ執筆、絵コンテ、音声、編集など、いくつもの作業を経て完成するものだ。その中でアニメーターは、アニメの「作画」を担当するスタッフを指す。

作画とは、シナリオや絵コンテをもとにキャラクターや背景を描き、作品に動きを生み出すこと。基本的にシナリオや絵コンテの指示通りに描くことが多い。そして作画は大きく分けて、「原画」と「動画」の2種類が存在する。

アニメの要所を描く「原画」

「原画」は、アニメーションの中でも特に要所となるポイントを描く仕事。この原画をもとに、後述する「動画」のスタッフが細かい動きを付け加えていくので、作品全体のクオリティを左右する仕事と言っていい。
動画のスタッフが後々描きやすくなるよう、キャラクターの配置や距離感、服装や表情といった細かい部分まで考慮する必要がある。そのため、ある程度の経験を積んだ人物を起用するケースが多い。

原画をつなぎ、動きを生み出す「動画」

原画スタッフが描いた要所となるイラストをもとに、その間を描いていくのが動画スタッフの主な仕事だ。まずは原画をトレースし、それを参考に少しずつポーズや表情に変化を加えていく。
原画スタッフの意向を忠実に汲み取る能力はもちろん、人体の細かい動きを正確に再現する能力も求められる。
こちらは原画スタッフと比べて、経験の浅い人物が起用されやすい。しかしTVアニメの場合、1話につき3000~5000枚の作画が必要とされており、それが全12~13話に及ぶ。縁の下の力持ちとも言えるポジションだ。

アニメーターの仕事の実態は?

「一般社団法人日本アニメーター・演出協会」は定期的に「アニメーター実態調査」を行っており、2019年のデータではフリーランスが約50%を占め、正社員は15%に満たない。自宅作業でスタジオに机がないスタッフも存在するようだ。「個人事業主扱いだが社内スタッフとして勤務 福利厚生なし」という回答も確認できる。

1日の作業時間は8時間から10時間…一方で休日が少ない課題も

また、契約社員やフリーランスの契約形態としては作品ごとの契約がもっとも多く、次いでカット単位での契約が多い。
そして1日あたりの平均作業時間は8時間から10時間が最も多い結果に。1ヶ月あたりでは160時間以上、240時間以下が主な働き方になっている。

気になるのは1ヶ月あたりの休日で、もっとも多いのは4日。3日以下という回答も約17%存在する。決められた製作期間の中で膨大な作画を完成させなければならないため、長時間労働になりやすい実態が浮かび上がる。

スタッフの意見から見えてくる収入格差

収入面に目を向けると、2019年の「アニメーター実態調査」では年間収入600万円以上が全体の19.4%、次いで500万~600万円、250万~300万円の層が多い。
その一方で、作画スタッフからは1枚あたりの単価が低いという声もある。「アニメーター実態調査」には仕事上の問題に関して回答する項目があり、そこでは「原画や動画は作業量が千倍違っても単価がほぼ同 じ(1枚、1秒、1カット)。 自分は時給にすると400円くらい」「そもそも作画セクションの単価が安い」「処理演出は話数単位の単価のため、 長期作業になるとその分月ごとの給料が減ってしまう」といった意見が見受けられる。会社ごと、スタッフごとの格差が大きい印象だ。

労働時間削減のための「デジタル作画」

「デジタル作画」が注目されているのも、労働環境の改善という観点がある。デジタル化が進めば作業効率が上がり、労働時間を削減できる。また、デジタルに対応できるアニメーターは多くの制作現場で求められるため、アニメーター側から働く場所を選択できる可能性も生まれる。

アニメーターの仕事の流れは?

ここからは、各アニメーターが行う具体的な仕事の流れを紹介していく。先に紹介した「原画」「動画」のスタッフはそれぞれ仕事が割り振られるタイミングに違いがあり、他のスタッフと連携を取るケースもある。それぞれの流れを知っておくことは決して無駄ではないだろう。

①絵コンテをもとに原画スタッフが作業

アニメの制作は、まずは脚本家が脚本を執筆し、続いて演出家や監督が絵コンテを描く。その次のフローで登場するのがアニメーターだ。原画スタッフは絵コンテをもとに、作品の要所となる原画を描く。このとき、原画と原画の間に入る作画の枚数を決めるのも仕事のひとつだ。

②タイムシートを元に動画スタッフが作業

そして動画スタッフは、原画スタッフによって決められた枚数をもとに細かな動きを表現する作画を制作する。このとき原画に加えて、セリフやカメラワークの指示が書き込まれたタイムシートを受け取ることになる。動画スタッフにとってこのタイムシートが重要だ。

③ときには修正作業の「リテイク」が舞い込むことも

こうして出来上がった一連の作画は仕上げ担当者に送られる。ここで色が付け加えられて、私たちがよく見るアニメに姿を変えていく。ときには修正作業の「リテイク」を受けつつ、アニメーターの仕事はひとまずここで終了。次の話数、あるいは次の作品へと移っていく。

一般的にTVアニメの場合は、1話あたり1ヶ月から3ヶ月ほどかけて制作する。劇場版の場合はさらに長く、1年から2年かかることも珍しくない。
こうして動画、原画でスキルを磨いたアニメーターは、やがて「作画監督」という、原画におけるリーダーとも言える仕事に就く。アニメーターと言っても全員が同じ実力を持っているわけではなく、人それぞれの好み、癖もある。作画監督はバラつきが生まれる作画をチェック、ときには修正を行い、映像としてまとまりが生まれるように仕上げていく。

アニメーターに求められるスキルは?

ここからは、今のアニメーターに求められるスキルを紹介していく。画力などイメージしやすい能力はもちろん、最新の技術に対応する力も求められる。

画力はもちろん、スムーズに作業をこなすための能力

アニメーターに求められる最大のスキルはもちろん画力だ。特にデッサン力や画面構成力は特に重要とされている。絵コンテや設定資料からキャラクターの動きをイメージし、イラストに落とし込む能力が問われる。
また、コミュニケーション能力も大切。監督や脚本家、演出家とコミュニケーションを重ね、他のスタッフが想像する通りの作画を生み出さなければならない。
そしてもうひとつ、大量の作画を生産するスピード感も問われる。特に動画スタッフは、原画の構造やキャラクターの動きを理解し、素早く膨大な枚数を描くことが求められる。

デジタルへの対応

最近では、「デジタル作画」への対応も重要なスキルになりつつある。かつては紙と鉛筆を使った「アナログ作画」がメインだったが、徐々にペンタブレットで描く「デジタル作画」も盛り上がりを見せている。
「アナログ作画」をメインに据えるアニメはまだまだ多いが、「デジタル作画」も徐々に頭角を現し、求人でも「デジタル動画」を条件にするケースが増えてきた。

アニメーターに役立つ資格は?

アニメーターは画力が求められる一方で、絶対に必要な資格は存在しない。一般的には専門学校や美術大学で専門知識や技術を学び、それを仕事にするケースが多い。
専門学校は制作現場で必要なノウハウを実践的に学べるだけでなく、就職先を積極的に紹介してもらえる強みがある。美術大学は一般教養も含め、幅広い分野を学べるのが利点。その代わり、専門学校に比べるとはるかに入学試験が難しく、ハードルの高さにつながっている。

また、必須の資格はないものの、アニメーターに役立つ資格は数多く存在する。

CG-ARTSアニメーション実技試験

「アニメーション実技試験」は、将来アニメーターを目指す学生向けの試験。プロとして活躍するために、課題から指示を正確に読み取り、CGアニメーションを制作する実践力を測る。
2019年度に第1回目の試験が開催され、2022年度には276名が参加した。試験では提出課題をCGプロダクションが審査し、ポージング、アニメーション、演出などをチェックする。また評価後、企業からもらったアドバイスを元に、課題を修正して提出するリテイクチャレンジも実施している。

CGクリエイター検定

公益社団法人画像情報教育振興協会が行う「CGクリエイター検定」は、アニメーターはもちろん、ゲームや映画でも活用できるCG技術に関する能力を判断するための資格。
こちらは2次元CGと3次元CG、デザインに関する基礎的な理解と、CGの静止画制作に知識を利用する能力を測る「ベーシック」と、次元CGと映像制作に関する専門的な理解と、3次元CG映像の制作に知識を応用する能力を測るエキスパートの2種類がある。

CGエンジニア検定

こちらもCGクリエイター検定と同じく、公益社団法人画像情報教育振興協会が行っている検定のひとつ。プログラミングやCG技術に関する知識を測るもので、基礎的な知識が問われる「ベーシック」、専門知識の応用も問われる「エキスパート」の2種類が用意されている。

色彩検定

公益社団法人色彩検定協会が開催する「色彩検定」は、その名の通り色彩に関する知識、技能を測る検定。作品を鮮やかに見せるために、色彩に関する知識は必要不可欠。アニメーターはもちろん、ファッション関係、書籍や雑誌の編集者といった多くの分野で活用できる資格だ。

Illustrator・Photoshopクリエイター能力検定試験

Illustratorクリエイター能力検定試験、Photoshopクリエイター能力検定試験はどちらもサーティファイが開催している民間資格。
原画を描く上では使う機会が少ないものの、キャラクターデザインなどを任された際には使う場面も生まれてくる。アニメーターにとどまらず、アニメに関する幅広い仕事を請け負うのであればこれらの知識は無駄にならないだろう。

アニメーターのキャリアアップは?

アニメーターはその能力が認められると、さまざまな職種へとキャリアアップしていく。さらには、自らアニメ以外の世界へ飛び込んでいく人も珍しくない。多くのスタッフと関わる仕事なので、別の働き方に興味を持つ機会も少なくないからだ。

作画を統括する作画監督

新人のアニメーターは動画担当から始まり、実力を身に着けた段階で原画、そして作画全体をチェックする作画監督へと徐々にステップアップしていく。作画監督は、「監督」と呼ばれることからも分かる通り、キャラクターデザインや絵コンテをもとに、アニメーションの作画を統括する役割を担う。アニメーターたちに、アニメーションの作画指示を出す仕事、アニメーターたちが描いた原画を修正指示する仕事もあり、アニメ制作には欠かせない存在だ。

表現方法を決める演出家

アニメーターから別の工程へ仕事を変えていくケースも見られる。そのひとつは演出家への転身だ。演出家はアニメーションの演出や表現方法を指示する役割を担う。世界観にあった演出を考えるのはもちろん、キャラクターの動きや表情、カメラアングルまで設計する。シナリオに合わせた演出を考える必要があるため、脚本をチェックすることも多い。これはアニメーターとは大きな違いと言える。

アニメ制作のリーダーである監督

ときにはアニメーターから監督が生まれるケースもある。監督は監督は作品全体を統括し、制作のスケジュールや方向性を決定する重要なポジションだ。仕事内容は作画だけでなく、企画や脚本、音楽、編集にも関わり、作品全体の方向性を定める。作品の全体像を把握し、スタッフの作業を調整しながら、作品のクオリティを高めるために尽力する。

スケジュールを管理する制作進行

アニメの制作からは少し離れ、制作進行に移る人も存在する。アニメ制作における制作進行は、スケジュール管理や進捗管理を担当するポジション。アニメーション制作のスケジュールを策定し、各スタッフの作業状況が正しく進んでいるかを把握する。スケジュール状況に合わせてスタッフに指示を出し、作業を調整するのが主な仕事だ。スケジュール通りに作業が進んでいなかったケースや、納期が急に前倒しになったケースでも柔軟に対応する能力が求められる。

アニメ業界以外で活躍するケースも

また、アニメーターといってもTVアニメや劇場アニメだけが活躍の場とは限らない。ゲーム会社や遊技機メーカーがアニメーターを募集するケースも見られる。2Dの画力だけでなく、デジタル作画や3DCGにも精通していれば、活躍の場はより幅広くなるだろう。

アニメーターの今後…時代に合ったスキルは働き方にも影響する

以上がアニメーターの仕事内容、そして今のアニメーターに求められる能力となる。時代とともに働き方が変わっていくのはどんな職種にも言えることで、アニメーターもそれは同じ。その一方で、休日が少ない労働環境は、アニメ業界全体でなかなか変わらない課題となっている。
しかし「デジタル作画」の導入など、環境改善に向けたヒントが見えてきたのは、アニメ業界にとって嬉しい変化と言えそうだ。これからアニメーターを目指すのであれば、時代に合ったスキルを身に着けておくことが大切になるだろう。

AnimeRecorder編集部
岸由真