アニメ放送20周年を迎えた『NARUTO -ナルト-』を伊達勇登監督、朴谷直治プロデューサーが回顧。目指したのはアクション作品ではなく「大河ドラマ」

左から朴谷直治プロデューサー、伊達勇登監督
インタビュー

2002年に放送がスタートし、今年で20周年を迎えるTVアニメ『NARUTO -ナルト-』。『NARUTO -ナルト- 疾風伝』は2017年にエンディングを迎えたが、その後も多くのファンに愛され、12月10日からは展示イベント「NARUTO THE GALLERY」が開催されているなど、未だに抜群の人気を誇っている。

そんな本作に長く携わってきた、伊達勇登監督、そして朴谷直治プロデューサーにインタビューする機会が得られた。20周年という節目のタイミングで制作当時を振り返っていただいた。

僕の中で『NARUTO -ナルト-』は、大河ドラマなんです

――まず、20周年を迎えたアニメ『NARUTO -ナルト-』を振り返っていただければと思います。

伊達監督:僕が2002年から2016年まで携わっていたので、もう6年も前になりますね。この6年間は新型コロナウイルスの影響もあって家にいる時間が増えたので、この20年を振り返ると、そっちのほうが印象深いです(笑)。『NARUTO -ナルト-』の制作中は、のんびりする時間なんてほとんどなかったですから。

朴谷プロデューサー:実は僕も『NARUTO -ナルト- 疾風伝』が終わってから、あっという間だったことが最初に思い浮かんだ感想です。作っているときは長く、濃密な時間でしたけど、放送終了後は一瞬で時間が流れていきます。
アニメも原作も終了している『NARUTO -ナルト-』が、今も多くの方に愛されているのは素晴らしいことですし、原作の力は強く感じます。

――アニメの制作時を振り返っていただけますか

伊達監督:放送し続ける苦労は常に感じていました。3ヶ月放送したら少し休んで、次の制作に取り掛かるのではなく、とにかく新しいエピソードを絶やさない手段を選んだので、えらい目に遭いました(笑)。

朴谷プロデューサー:原作に追いついてしまって、オリジナルエピソードを挟んだりもしましたね。ただ、オリジナルエピソードだと演出家や原画マンが、「原作通りじゃないなら辞めます」と言われることもありました。「原作通りになったらまた戻ってきます」とは言うんですけど、その間はどう作ればいいんだ、と(笑)。スタッフを引き止めること、十分なクオリティを維持することは特に苦労しましたね。

伊達監督:そんなスタッフも終盤になると、オリジナルエピソードでも頑張って描いてくれました。粘り強く作り続けて、僕の思い描くものがみんなと共有できたからなのかなと思います。

――やはり、スタッフの皆さんも原作へのリスペクトが強かったのですね。

伊達監督:そう、みんな原作が大好きなんです。僕自身も原作の凄みを感じる機会は多かったです。岸本先生としても、作品の人気が高まる中で、「どこで連載を終わらせるか」を悩んだこともあると思うんです。以前お話を聞いたとき「ラストの敵は再不斬の双子の兄弟です」とおっしゃっていたくらいですから。
それでもブレずに連載を続け、一連の流れを生み出したのは、「よく作り上げたな」と感心してしまいます。

朴谷プロデューサー:ラストに関する話は僕も聞いたことがあります。“暁”の登場も当初は予定になかったとか。

伊達監督:サスケは里抜けして、サクラが一緒にいるかどうかは「まだ考えてないんですよね」という話はされていました。先生としてはストーリーの最初と最後が決まっていて、その間を肉付けしていったのだと思います。それにしても、よくあそこまでの大河ドラマ、壮大な兄弟喧嘩を描かれたなと感心します。

――先生とそんなやり取りが…。

伊達監督:なんとなくストーリー展開に変化が見られるようになったのは、先生がご結婚されてからです。というのも、ストーリーに関して奥さんに相談することが多くなったとか。打ち合わせ中に「奥さんがこう言うんだよ」と話す機会も多くなりましたね。

――やり取りというと、監督とプロデューサーの間では何かあったのですか?

伊達監督:長年の付き合いなので、2人で対立することはほぼなかったですよね。

朴谷プロデューサー:1回もないと思いますよ。

伊達監督:僕が初監督した『レレレの天才バカボン』のころから、四六時中一緒ですもの。プロデューサーから要望を受けることもなく、逆にこちらから要望を出すこともなく、やりたいことをやらせてもらいました。

朴谷プロデューサー:インフルエンザになったとか、休みの相談くらいしかされてないですね(笑)。監督がやりたいことは、絵コンテさえ見れば「こう来たか」とすぐに分かりますから。

――監督としては、『NARUTO -ナルト-』に対してどんなこだわりを持っていたのでしょう。

伊達監督:スタートの段階で、「アクション作品にするつもりはないです」と話していました。ひょっとしたらアクション作品と思っている方もいるかも知れませんが、僕の中では大河ドラマなんです。
だからアクションシーンに関してはアクションが好きなスタッフに「自由にやって」とお願いするだけ。「どんなに枚数使ってもいいからね」というお願いのしかたでした。その代わり、ドラマ部分に関しては僕が責任を持ってやります、こんな形で作業が分かれていきました。

朴谷プロデューサー:ポイントとなるアクション回は若林さん(若林厚史氏)、黒津さん(黒津安明氏)に振ってきたので、こちらももちろん力を入れてきました。彼らのこだわりも強いので、僕はとにかく意見を吸い上げ、ときになだめるのが主な仕事でした(笑)。視聴者の皆さんからの評判もよく、「またこのスタッフの作品が見たい」と言われたときは、『NARUTO -ナルト-』を作ってよかったと思いました。

伊達監督:スタッフで言えば山下君(山下宏幸氏)はどんどん力をつけていきましたね。人の成長をリアルタイムで見届けられたのは嬉しかったです。

朴谷プロデューサー:彼は最初動画から始まって、すぐに原画、そして絵コンテまで任せられるようになりました。今では監督までやるようになりましたから。『NARUTO』で成長した人たちが、まったく関係のない作品でどんな映像を作るのかも楽しみにしています。

――お二人が制作に携わってきた中で、特に印象に残っているエピソード、シーンはありますか?

朴谷プロデューサー:ナルトに九尾を封印したシーンは収録中に泣きました。他にもナルトが螺旋丸を出せるようになったときとか、印象深いエピソードはたくさんありますけど、泣いたのは一度だけです。

伊達監督:僕もあのシーンは、アフレコだけで涙が出そうになりました。僕は収録中に泣くわけにもいかなかったのでグッとこらえましたけど(笑)。実はあのシーンは劇場版でも使用したのですが、再収録はせず、TV放送のバージョンをそのまま使用しました。劇場版を制作するにあたって、TVアニメの音声を使えるか、確認するのが最初の作業でした。あのシーンだけを抜粋して役者さんに演じてもらうのは忍びなくて。

――7年ぶりの展示イベントとして「NARUTO THE GALLERY」も開催中ですが、お二人はどんなところに注目していますか?

伊達監督:やっぱりクリエイターの方々が制作したムービーは注目したいです。きっと僕たちが考えたこともない角度から『NARUTO -ナルト-』を捉えていると思うんです。

朴谷プロデューサー:完成した映像が、アニメを見てから考えたものならよりいっそう嬉しいですね。

伊達監督:新しい『NARUTO -ナルト-』を発見するきっかけになり、そこから僕たちが作ったアニメを見比べてもらえたら嬉しいです。20年前の映像なので、ちょっとしたことは大目に見ていただきながら…(笑)。

――今後も『NARUTO -ナルト-』というコンテンツは続いていくと思います。1人のファンとして、どんな展開に期待しますか?

伊達監督:ファン目線だと…フィギュアを集めて並べたい(笑)。個人的にはフィギュア化したら人気が出そうなキャラクターはもっといるのに、なかなか発売されないのがもどかしいです。
それとは別に、日本向けのグッズももっと増えたらいいのにと思っています。海外人気が高い影響もあって、Tシャツを買ってもサイズが合わないことがあるんです。日本のブランドからもっと発売されるよう、ぴえろさんから働きかけていただきたいです(笑)。

朴谷プロデューサー:僕は『BORUTO -ボルト-』の放送中に、『NARUTO -ナルト-』の映画をもう一度作ってほしいかな。

伊達監督:あ、映画なら自分もやりたいな(笑)

朴谷プロデューサー:(笑)。いちファンの願望として、『NARUTO -ナルト-』をもう一回みたいなと。それができたら最高ですね。

――ありがとうございました。

■「アニメ『NARUTO-ナルト-』20周年記念 NARUTO THE GALLERY」開催概要

アニメ『NARUTO-ナルト-』20周年記念 NARUTO THE GALLERY
会期:開催中~2023年1月31日(火) 10:00~20:00(最終入場19:30)
会場:AKIBA_SQUARE (秋葉原UDX内)
主催:NARUTO THE GALLERY実行委員会

◆公式サイト:https://naruto-20th.jp/gallery/
◆公式Twitter :@naruto_20th

©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
©NARUTO THE GALLERY実行委員会