『装甲娘戦機』元永監督インタビュー 過酷な世界での“修学旅行”はいかにして作られたのか

TVアニメ

2021年1月から放送されたTVアニメ『装甲娘戦機』。本作は、レベルファイブの「ダンボール戦機」を基としたプロジェクトで、LBXユニットと呼ばれる 戦術兵器を纏う5人の少女・戦いを描いた作品だ。

金属生命体・ミメシスとの戦闘、過酷な傭兵暮らしの様子を描いた一方で、日本各地を転々と旅するロードムービーの側面も持つ本作。今回、監督を務めた元永慶太郎氏にインタビューを行い、この「命がけの修学旅行」はいかにして生まれたのかを伺った。

「リアリティのあるものを破壊しよう」から始まった世界観

――本日はよろしくお願いします。まず、監督が『装甲娘戦機』に携わることになった経緯から教えてください。

もう3、4年前のことになると思います。知り合いのライターから「studio A-CATが監督を探してる」と言われて、紹介してもらったのがきっかけでした。当時からゲーム版が同時進行で動いていたものの、4年の歳月の中でパラレルワールドといいますか、ほぼオリジナルの作品として制作することになりました。

――元永監督はライトノベルやコミックが原作のアニメを手掛けることも多いですよね。今回のようなオリジナルのストーリーを描くときとで、作り方に違いはありましたか?

まるっきり違いますね。原作がある場合は、原作の面白さをどう引き立てるかがメインになります。言い換えると、原作という答えがある状態なんです。それに対して今回の場合はクライアント、『装甲娘戦機』だとDMM GAMESさんからある程度のオーダーはもらうものの、最終的な答えを自分たちで作らなければいけません。

――『装甲娘戦機』に決まったあと、まずはスタッフを集めることになると思いますが、そのときはどんな流れでしたか?

スタッフに関しても4年間の中で変わっていきましたね。当時作画は別のスタジオが担当する予定でしたが、スケジュールの都合などで難しくなり、僕の知っているスタッフで固めた経緯があります。シリーズ構成のむとうさん(むとうやすゆき氏)、メカニカルデザインの安藤さん(安藤賢司氏)は、当初担当する予定だったスタジオの紹介でしたね。

――世界観設定・軍事考証で鈴木貴昭さんが参加しているのも、大きなことだったと思います。

鈴木さんとは『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』のころから、10年来の付き合いで、多くの作品を一緒に作ってきました。その流れもあったので、軽い気持ちでお願いしました(笑)。

『装甲娘戦機』では世界観だけでなく、軍におけるキャラクターの立ち位置なども考えてもらいました。本作のメインキャラクターであるリコたちは軍に所属しているので、遊撃隊として動く時の流れも独特です。また、制空権を相手に奪われているので空は飛べず、だからこそ陸を移動しようとか、SF的要素に矛盾を感じさせない設定は鈴木さんの力が大きいです。

――『装甲娘戦機』はSFの側面と同時に、日本各地を旅するロードムービーの側面もあります。このようなストーリーになった経緯は?

SFの世界観をベースにしたストーリーを考える中で、いろいろな話し合いをしていたんです。そこで出た案が、「どうせなら壊したことのない街を壊したい」で、京都を破壊してみようとなったのがきっかけでした。そして京都だけを舞台にするより、各地を転々と回り、それぞれの場所で戦うロードムービーにする、現在の形になったのです。

――最初のきっかけである「京都を壊そう」という衝動はどこからきたのでしょう?

まず漠然とあったのが、「リアリティのあるものを破壊しよう」という思いでした。これをアニメの中でしっかり描かないと、底知れない恐怖が表現できないと思ったからです。リコたちはどんなときも明るく楽しいけど、実は常に死と隣り合わせ。そんな状況をロケーションから感じ取ってほしくて、日本人なら誰でも知っていて、心に根付いてる京都が候補に挙がりました。あとはもうひとつ、ロケハンで京都に行きたい願望も少しありました(笑)。

――(笑)。ということはロケハンにも行ったのですね。

行く予定が固まってきたところで、コロナが流行ってしまって結局叶いませんでした。幸い関西出身で、京都に詳しいスタッフもいたので、そこは任せることができました。

――なるほど(笑)。ロケハンが難しかった中、各地を描く際に注意した点はありましたか?

地形を本物らしく描きたい思いはありました。例えば四国の山の形と、本州の山の形は少し違うので、そこは正確に描くよう意識しました。
あと、この世界は戦闘によって各地が荒廃していますが、その具合も場所によってさまざまです。関東はミメシスとの戦闘が激しいのでかなり荒廃しています。その一方で四国は工業地帯が襲われたくらいで、意外と自然が残っています。同じように九州も、北九州の工業地帯が標的になった代わりに、福岡市はあまり破壊されていないんです。

――破壊されているロケーションだけを見るとシリアスですが、キャラクターの掛け合いはコミカルでした。

会話に関してはできるだけ女子高生っぽさを出そうと意識した結果です。彼女たちは本来は軍人ではないので、戦っているけど心のどこかで楽しく過ごすことを求めてるんです。

――女子高生っぽさというと、修学旅行のような賑やかさも感じました。

ロードムービーになった時点で、女子高生の修学旅行にしたい気持ちはありました。戦いを繰り返す過酷さがある一方で、本人たちは修学旅行としてどんどん盛り上がってる。出だしの不協和音から始まり、徐々に仲良くなっていく楽しさ、そして変えるときのちょっとした寂しさまで感じてもらえるように設計しました。

リコたちが学生なら、ネイトは先生

――メインキャラクター5人の個性付けという意味では、なにか意識しましたか?

リコが明るくポジティブな主人公タイプのキャラクターで、そこを中心に枝分かれするように考えていきました。ちょうどお父さんやお母さん、あるいはお兄ちゃんと、家族構成を考えていく感覚に近かったです。

――キャラクターデザインに関してはいかがでしたか?

まずデザイナーを誰にするかで議論があって、ひとまず知り合いの堀井さん(堀井久美氏)に声をかけたのが始まりでした。イメージを膨らますために「とりあえず1人描いてみて」と頼んで、届いたのが現在のリコで、そのときには完成されてましたね。最初からメインの5人はイメージ通りのデザインで、僕のほうからオーダーを出したり、修正したりはほぼありませんでした。

――その話からも、堀井さんに対しては全幅の信頼を置いていることが分かります。

最初に出会ったのが『魔法騎士レイアース』だから、25年近い付き合いになりますね。そのときは僕が演出、堀井さんが作画を担当していました。当時からキャラクターが生き生きとしている印象がありました。ただかわいいだけでなく、画面の向こうで本当に生きているというか。女性だけどとても男らしい、頼れる存在です。

――ちなみに、服装に関しても堀井さんを始めとしたデザイナーの発想がメインにあったのでしょうか。

そうですね。こちらからは軍支給のジャンパーだけは色違いのお揃いで、とお願いしましたけど、そのくらいです。色に関しても、デザイナーの方が考えるものが一番きれいなので、こちらとしては一列に並んだとき違いが分かるように、くらいのお願いだけでしたね。

――LBXユニットのデザインでこだわりは?

まずは元になるLBXから、僕とメカニカルデザインの安藤さん(安藤賢司氏)の2人でイマジネーションを膨らませていきました。特にこだわりを見せてくれたのは安藤さんのほうで、「メカをこういう風に理解しているのか」と驚かされることもありました。制約をつけるのではなく、面白いものをどんどん付け足していく作り方だったので、見ていて楽しかったですね。
これはミメシスデザインを担当した森木さん(森木靖泰氏)も同じでした。原作である2018年にPC版で配信されたゲームのミメシスはかわいらしいデザインですけど、そこに恐怖感を付け加えてくれました。僕からは、映画『バトルシップ』に登場するエイリアンのような、生物感のあるデザインに、というお願いをして、想像以上に面白いデザインが完成しましたね。

――キャラクターという点では、AIのネイトも存在感がありましたね。

リコたちが学生とするなら、ネイトは先生みたいな立場ですよね。飄々とした物言いで、穏やかだけどちょっと棘もある、そんな先生をイメージしました。デザインとしては水中モードや海中モードなど最先端の技術が詰め込まれていますけど、一方で間抜けな一面もあったり。ひょっとしたら、常に楽しいことを考えている5人より、人間ぽいところがあったかもしれませんね。

あとはもうひとつ、ネイトの個性を決定づけたのは水島裕さんの力も大きいです。水島さんが本当に面白く演技していただいて、アンドロイドではあるものの、予想以上に感情が分かるキャラクターになりました。

――学校の先生と言われると、ますます修学旅行になってきますね。

そう思ってもう一回見直してもらうと、最初とは違ったものの見え方ができるかもしれません。ネイトとの会話も、回を重ねるごとに先生っぽくなっていくんです。最初は皮肉を言うことが多いけど、彼女たちの行動をずっと見守っていて、でも都合の悪いことは良いことにすり替えて(笑)。そんなところも含めて先生っぽいですよね。

――キャラクターだともう1人、オタクロスも登場します。こちらはシリーズの原典である『ダンボール戦機』からの登場ですよね。

オリジナルとはいえ、なにかひとつ繋がりがほしいという話になったのです。そのとき案として挙がったのがオタクロスで、レベルファイブさんも快諾していただきました。僕たちとしては「どうせ使うなら格好良く」と当時から考えていたので、一貫してリコたちを助ける役割を担ってもらいました。
もともと『ダンボール戦機』でも「すごいおじさん」という存在だったので、新しいキャラクター性を考えるというより、さらに強調する方向性で。特にアニメの場合、数少ない大人のキャラクターでもありましたから。

――ストーリーに関してはいかがでしたか? 個人的には最終話でリコが元の世界に戻るまでしっかり描ききったのが印象的でした。

これもまた修学旅行的と言いますか、帰るまでが修学旅行なんです。だからリコも帰るべき場所に行き着くのが、自然な流れでした。実はラストのシーン、ほぼ誰も気付いていないと思うんですけど、第1話でリコが転移した場所と、最終話でリコが戻ってきた場所は違うんです。1話だとサンシャインの1階で、帰ってきたときは2階、だからマナは「どこへ行ってたの?」と声をかけたんです。

これは、リコが転移している間も時間が進んでいることを示唆していて、僕たちスタッフが「まだ続けたいな」というちょっとした下心を表した場面でもあります(笑)。すべて見終わったあと1話から見直すと、新しい発見もあるかと思います。

――あらためて、制作が始まった4年前から現在までを振り返ってみていかがでしたか。

キャラクターデザインや作画のスタッフは本当に頑張ってくれました。2Dのキャラクターは僕が想像した通りの造形を表現してくれて、またLBXユニットを装着した3Dモデルも、よくキャラクターとギミックを融合させたなと驚かされました。それでいて動き方も違和感がなかったですよね。これは間違いなくスタッフの力であり、声を大にして伝えておきたいところです。「このくらいのクオリティでいいかな」なんてポロッと言っちゃうと、ムキになってどんどんクオリティを上げていくんです。それはとても嬉しい反面、スタジオには迷惑をかけたかなと反省しています(笑)。

僕個人としては、完成させるのは大変でしたけど、終わってみるとちょっと寂しい気持ちがあります。彼女たちの修学旅行をしっかり描ききれたと同時に、「もっと旅をしたい」とも思います。チャンスがあったらもっと作りたいし、リコたちをもっと笑わせたいですね。

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