『アストロノオト』は「TVアニメがTVアニメだった時代のオマージュ」…高松信司総監督、春日森春木監督インタビュー

TVアニメ

2024年4月より放送がスタートするTVアニメ『アストロノオト』。本作は、総監督:高松信司(「銀魂」)×キャラクターデザイン原案:窪之内英策(「ツルモク独身寮」)が贈る、新感覚SFアパートラブコメディ。朝食付きのアパート”あすトろ荘”を舞台に、主人公の宮坂拓己、そして可愛すぎる大家さん・豪徳寺ミラの恋愛物語が展開する。

今回、総監督の高松氏、そして監督として制作を指揮した春日森春木氏にインタビューを敢行。オリジナリティの中に懐かしさも漂う本作がいかにして生まれたのかを伺った。

「ロボットもの」の企画から始まったSFラブコメ

――本日はよろしくお願いします。まず、『アストロノオト』という作品の生まれた経緯から振り返っていただけますか。

高松氏:企画の始まりというと、8年くらい前まで遡ります。脚本のうえのきみこさんと私、メーカーの担当者が集まって、「アニメを作りましょう」と話をしたのがきっかけです。ただ。当時の企画はロボットものでした。ロボットあり、ラブコメありの作品を想定して企画書を作り、実際にキャラクターデザインをお願いするところまでは行ったんです。
しかしそこから動き始めるにはかなりの時間がかかって…3、4年前のタイミングで「あの企画をやろうよ」という話が再び盛り上がって、縁あってテレコム・アニメーションフィルムさんが制作してくれることになり、再始動しました。

――かなりの紆余曲折があったと。

高松氏:はい。再始動のタイミングで、「今作るならロボットものではない」という話もあって、企画を練り直し、現在のSFラブコメというジャンルになりました。
完成した『アストロノオト』にも、「ヒロインが宇宙からやってきた」という設定がありますけど、これはロボットものだった当時から残っているものなんです。当時出来上がっていた窪之内さんのキャラクター原案をベースにしたので、キャラクターもほぼそのままの状態ですね。

――今回は高松さん総監督、春日森さんは監督とクレジットされていますが、具体的や役割の違いは?

高松氏:基本的にプリプロの部分は私がやって、現場周りを春日森さんにやってもらったという感じです。

春日森氏:僕は細かいところの監督をして、大まかな流れは高松さんに作ってもらって…といっても、細かいところも見ていただいたので、監督とはいえ高松さんには大変お世話になりました。2人で話し合って決めることも多かったですし、クリエイティブな部分で困ったときも相談できるので、ありがたかったですね。

――ちなみに、お二人から見て制作するテレコム・アニメーションフィルムさんはどんなスタジオですか?

高松氏:テレコムさんは…本当にちゃんとした会社です(笑)。トラディショナルなスタジオで、アニメーターをしっかりと育てている印象です。私は30年ほど前までサンライズに在籍していましたけど、その頃からテレコムさんはちゃんとしたアニメを作る会社という認識がずっとあります。

――『アストロノオト』の元となるストーリーはどういった形で生まれたのですか。

高松氏:ストーリーは、最初に「ラブコメをやろう」となったときに思い浮かんだのが、80年代の漫画だったんです。それこそキャラクターを手掛けていただいた窪之内さんの『ツルモク独身寮』とか、あの時代の作品をやりたい気持ちはコンセプトの段階からありました。
そこにどうやってSF要素を盛り込んでいくかは、私が骨子を作り、うえのさんに脚本で膨らませてもらう、そうしたキャッチボールの繰り返しの中で決まっていきました。

――春日森監督は、シナリオが完成してから参加したのですか?

春日森氏:いや、シナリオの完成途中、確か第3話か4話に相当する箇所から入りました。

高松氏:というのも、さっき言ったように最初に作ったストーリーはロボットものだったので、ガラッと変わるのは決まっていたんです。一から脚本を作るのであれば、春日森さんにも参加してもらおうということでお願いしました。

春日森氏:当時は1話ずつ、丁寧に作っていった感じでしたね。

高松氏:全体の構成は「送り書き」の状態で、1話作ってから次の話に進む、という形でした。だから途中まで、結末がどうなるか誰も分かっていませんでした(笑)。

――(笑)。その作り方って、かなり珍しいですよね。

高松氏:最近では珍しいけど、昔のTVアニメではよくあることでした。昔は「作りながら放送する」みたいなスタイルだったので、「どうなっていくんだろう」と思いながら作っていく、昔の感覚を思い出したりもしました。

春日森氏:最終回のオチだけは一応決まっていて、そこにどうやってたどり着くかを考える日々でした。新しい設定を考えては、「これだと矛盾がある」とボツにしたり。

――春日森監督としては、『アストロノオト』を最初に知ったときどんな印象を持ちましたか?

春日森氏:高松さんが関わるから、めちゃくちゃなギャグをやるんだろうなと思っていました(笑)。実際に打ち合わせに参加すると、面白いギャグもありつつ、ギャグにふり切らず、丁寧にストーリーを作っているのが印象的でした。

頭身がバラバラのキャラクターたち…その動かし方は?

――窪之内さんが描いたキャラクターは、アニメの中でどのように動かそうと考えたのでしょう。

高松氏:あすトろ荘の住人はそれぞれが日常的に問題を抱えていて、その問題を真面目に考えていくことは意識しました。ただの賑やかしの住人で終わるのではなく、どうやったら解決に向かうかを考えながらキャラクターを固めていきました。

春日森氏:ヒロインのミラは悩みを持った状態で地球に来ていて、物語の中でしっかりと結論に達した上で、最終回を迎える形になっています。
主人公の拓己は、いわゆる分かりやすいラブコメの冴えない主人公ではなく、普通の好青年として描くことは意識しました。

――キャラクターデザインの話でいうと、あすトろ荘の住人に統一感はないですよね。目元にしても、頭身にしても。

高松氏:デザイン自体は窪之内さんにお願いして、出来上がったものがドンピシャだったんです。これも昔の話になりますが、昔の漫画やアニメって、頭身の違うキャラクターが平気で同じ画面の中にいるんですよね。僕たちとしてはその当時を知っているから抵抗もなかったです。

春日森氏:でも、実際にアニメで彼らを表現しようと考えたときは困ったこともありました。例えば、みんなでテーブルを囲むとき、正吉だけは等身が低く、頭だけが大きいから、画面のバランスが崩れるんです。
画面のレイアウトを作るときは一度3Dで描いてから作画をするのですが、正吉の頭が大きすぎるから画面に収まらないこともありました(笑)。

高松氏:リアルに再現することももちろん大事だけど、「絵として面白ければ、それでいいんじゃないか」という気持ちも持ちながらの制作だったので、困ったけど楽しかったですよ。

春日森氏:椅子に座っている姿とか、座高が低いから顔が隠れないように座布団を敷いていることにするなど、考える楽しさはありましたね。
高松氏:しかし考えてみると、最近はデザインの違うキャラクターが、混在するアニメってなかなかないですよね。ファンタジー作品ならあるけど。昔の漫画だと、おじいちゃんやおばあちゃんが小さく描かれたりしましたけど。

――キャラクターに関して、キャストの演技という点ではディレクションなどしたのですか?

高松氏:みんな上手い方ですし、第1話のアフレコ時点でキャラクター像を掴んでいた印象でした。

春日森氏:アフレコを行ったのはコロナ禍の時期、もう2年前のことになります。当時は分散してのアフレコが主流だった中でしたが、少人数でスタジオに入ってもらい、掛け合いができたのはよかったですね。

――お話を聞いていると、「昔のアニメ」がこの作品のキーワードになっている印象があります。

高松氏:そうですね。TVアニメがTVアニメだった時代のオマージュは意識しました。現在のアニメは見てもらうターゲットをしっかりと絞って制作するのが当たり前になっていますが、80年代まで遡ると、ゴールデンタイムで普通に、万人が見るアニメを放送していたと思うんですよ。その当時を思い出しながら作ったのが『アストロノオト』になります。

ただ、懐かしいものを懐かしいまま作るのは意味がないと思っていて、21世紀に合った懐かしさを描くのが試みとしてありました。

春日森氏:新しい懐かしさを見せる、というコンセプトは当然僕たちも共有していました。同時に、ただ単に昭和レトロを描くのではない、という点も、同じ思いでした。
最初は、例えば車の形とかも昭和っぽくした方がいいかなと思いましたが、そういうわけじゃなくて、あくまでも現代に生きる人たちを描くのが目標でした。その中で、ふとしたところで懐かしさを醸し出すことを目指したのです。

かつて若かった世代にも見てもらいたい

――今回はオリジナルアニメになりますが、原作があるアニメと作り方に違いはありますか?

高松氏:原作がある場合は、当然オリジナルにどこまで寄り添うかがテーマになりますよね。漫画であれば、読んでいる最中の感覚と、読んだあとの感覚、この2つは大切にします。
その一方でオリジナルアニメとなると、感覚自体を自分たちでハンドリングできる、言い換えると、ハンドリングしなければいけないのは大変なことでもあります。

春日森氏:制作を進める上で、いろいろなスタッフと打ち合わせをする必要がありますが、原作があれば「原作を読んでね」で終わるところを、その都度説明しなければいけないので大変ですよね(笑)。

高松氏:TVアニメとして構成を練るときも違いはあります。原作があれば、どうやって12~13話に切り分けるかを考える必要が出てきますが、第1話を作り終わったら次に第2話に移るという具合に、漫画を連載する感覚で細かく作っていくんです。

春日森氏:『アストロノオト』に関しては、よく12話にちゃんと収まったと思います。1話ずつ細かく作っていく場合、終盤に入ると序盤の会話に矛盾が出てきたりするんですよ。だから、何話か進むと最初に戻って手直ししたり、新しい設定を付け加えたりもしました。
特に大きく変化したのが、あすトろ荘の間取りですね。物語を進めていくうちに、誰がどこにいるか分からない状況になってしまったんです。ここは最初のうちに詰めておかないとキャラクターを動かせなくなるので。

高松氏:そもそも、「あすトろ荘」というアパートの名前も最初は決まっていませんでしたよね。「あすなろ荘」の「な」の字が剥がれて、「これなら「あすトろ荘」と読めるな」とか、ひとつひとつ考えながら、全体の構成が決まっていきました。

――やっぱり、オリジナルならではの苦労もあるんですね。

高松氏:オリジナルはいろいろ大変ですけど、作るのは面白いですよ。原作がある場合は原作という正解に近づいていく作業ですが、オリジナルの場合はそもそもの正解を作る作業なので。

――この作品オリジナルというと、パステル調の色彩も「ならでは」の部分だと思います。

高松氏:色に関しては、窪之内さんが色付けたものを、ほぼそのままイメージとして使いました。キャラクターの色に合った背景を美術スタッフに用意してもらう流れでした。

春日森氏:窪之内さんは色付けしたイラストのひとつひとつに、コピックの番号で「この色を使いました」と添えられていて、非常に助かりました。僕たちは、そこから周りの色を決めていくことができましたね。

――美術といえば、あすトろ荘の内装も…無国籍というか多国籍というか、かなり独特ですよね。

高松氏:まずは美術スタッフが色々なアイディアをくれて、なにを、どこに置くか話し合って決めました。結果的に、日本的な外装だけど、海外の置物が詰まった内装になりました(笑)。

春日森氏:最初はミラがどこかから持ってきたもの、みたいなイメージだったんです。だけど後から住人の誰かが持ってきた話になって…このあたりもあとから設定が変わっていった箇所ですね。

高松氏:制作現場は本当にいろんなスタッフが影響し合う場所でした。美術スタッフの制作物が完成すると、「それならば部屋はどうなるんだろう」と議論が始まって、それが設定となり、脚本にも影響してくる。アフレコが始まり、声のイメージを知ることで作画にフィードバックされることもありました。アニメは共同作業であることを改めて感じましたね。
これもまた「昔のアニメ」の話になりますが、かつては1年間に渡って放送される作品も少なくありませんでした。そうなると、スタッフ同士が影響し合って作品が膨らんでいく現象も珍しくはなかったのです。「昔のアニメ」の作風を意識しているうちに、クリエイティブの環境まで似てきた感覚がありました。

――さまざまなスタッフから出てくるアイディアを、ひとつの作品に落とし込む難しさはありませんでしたか?

高松氏:難しくはあるけど、それがアニメだと思います。最初から設計図があるわけではなく、「作っているうちにこうなりました」、みたいな。例えばあすトろ荘の間取りだって、謎のスペースができてしまったら「謎のままでいいじゃん」という気持ちも、心の何処かに持っておきたいんです。謎のまま残しておけば、もしかしたら後々活用できるかもしれない。設計図通りにならないクリエイティブも、楽しいものですよ。

――もうひとつ、最近は特に若い世代を中心に視聴スタイルが変化していると言われています。1.5倍速だったり、放送が終わってから全話まとめて見たり。このような変化が、アニメの制作に影響することはありますか?

高松氏:影響はありますね。受け入れざるを得ないことだと思います。例えばアバンとオープニングとエンディングを飛ばして見ても、ちゃんと物語が繋がるように意識しています。また、昔だとCM前に興味を引くシーンを作って、CMが開けたら同じシーンのリフレインから始めるケースが多かったのですが、最近だと演出としての効き目は薄いと感じます。

春日森氏:アニメのライバルがYouTuberになってくると、あのテンポの良さと比較されてしまうんですよね。そうなると、僕たちとしても、テンポよく、コンパクトに作ろうという意識は出てきます。

高松氏:私個人の話だと、かつて作った『銀魂』はTVアニメというのをすごく意識していたんです。どこでCMを挟むか、提供を入れるシーンはどうするか、提供と同時に流すコメントは…と、いろいろ考えていました。
だからこそ、テレビでないと楽しめないケースも出てきてしまったんですけど(笑)。今はテレビだけではなく、配信でも楽しめる仕掛けというのは、意識する必要がありますね。

――最後に、改めてこれから視聴する人に向けて、注目してもらいたいポイントとかあれば教えてください。

春日森氏:とにかくこの作品は、最初から最後まで通して見ることに意味がある作品です。個性的なキャラクターがいるので、だれかにはすごく共感できると思うし、それぞれが持つドラマにも注目していただければと思います。

高松氏:若い世代の方はもちろん、かつて若かった世代の方にも見ていただきたいです。特に昔アニメを見ていたけど、最近は見なくなった人には、若いころを思い出しながら楽しんでいただけたら嬉しいです。

『アストロノオト』作品情報

放送情報

TOKYO MX
4月5日(金)22:30~

BS 朝日
4月5日(金)23:00~

KBS 京都
4月5日(金)24:00~

サンテレビ
4月5日(金)24:00~

テレビ北海道
4月9日(火)26:05~

AT-X
4月18日(木)23:30~
毎週(月)11:30 ※リピート放送
毎週(水)17:30 ※リピート放送

琉球朝日放送
4月25日(木)25:20~

イントロダクション
「俺に、あなたの朝ごはんをつくらせてください!」
朝食付きのアパート”あすトろ荘”を舞台にした料理人と大家さんの甘くもほろ苦い恋愛物語。
宮坂拓己は自分が作った朝食で、可愛すぎる大家さん・豪徳寺ミラのハートを射抜くことができるのか!?
……ただ、そんな恋路だけだと思っていたら大間違い。二人の間には、ひと癖もふた癖もある住人たちが登場!
遥か彼方からやってきた宇宙人や謎のスパイロボットまで現れ、
日常ではありえない不可思議な現象が巻き起こり、物語は壮大なミステリーへと飛躍する!!
地球、いや宇宙の行方を担う〈鍵〉の謎とは? 2人の恋の結末は??
総監督:高松信司(「銀魂」)×キャラクターデザイン原案:窪之内英策(「ツルモク独身寮」)が贈る新感覚SFアパートラブコメディ!

あらすじ
料理人・宮坂拓己が新たな就職先として面接に訪れた、木造アパート”あすトろ荘”。
そこは”朝食付き”が売りなのだが、可憐な大家・豪徳寺ミラの料理に耐えきれなくなった住人の要望もあり料理人を募集していたのだ。ミラと出会った拓己はその場で一目惚れ。急遽作ったアジフライは大評判。拓己の住み込み料理人としての生活がスタートする。しかし、それは穏やかな日々とはいかなかった。癖のある住人たちとの、ご近所より近く、家族より遠い距離感の中、次々と巻き起こる不可思議な現象。ふとしたことで知った、ミラが宇宙人だったという秘密。拓己が抱くミラへの恋心はどうなってしまうのか。また、不可思議な現象の謎は解明されるのか?
食卓から宇宙にまで広がる、新感覚SFアパートラブコメディ!

CAST
豪徳寺ミラ:内田真礼 宮坂拓己:斉藤壮馬
若林蓮:釘宮理恵 若林富裕:杉田智和
山下正吉:三木眞一郎 松原照子:降幡愛 上町葵:小倉唯
ナオスケ:諏訪部順一 ショーイン・ジンジャー:福山潤

STAFF
総監督:高松信司
監督:春日森春木
シリーズ構成:うえのきみこ
キャラクターデザイン原案:窪之内英策
キャラクターデザイン・総作画監督:あおきまほ
メカデザイン:小澤和則・小原渉平
プロップデザイン:丹波恭利・川本和隆
美術監督 :春日礼児 (スタジオじゃっく)
色彩設計:村口冬仁(ロケットビジョン)
撮影監督:千葉洋之(アニメフィルム)
CGIディレクター:菊池等
オフライン編集:白石あかね(瀬山編集室)
音楽 :宗本康兵
OPテーマ:「ホホエミノオト」降幡愛(Purple One Star)
EDテーマ:「ココロのカギ」豪徳寺ミラ(cv.内田真礼)、宮坂拓己(cv.斉藤壮馬)
音楽制作 :ランティス
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム

©アストロノオト/アストロノオト製作委員会