『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』柿本広大監督の全話振り返りインタビュー後編。Ave Mujicaは「とにかくMyGO!!!!!と真逆に描きたかった」

TVアニメ

2023年6月から9月にかけて放送されたTVアニメ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』。柿本広大監督に各エピソードを振り返ってもらうインタビューの後編では、第8話から最終話に関するトークが展開。
初めてのライブで波乱が起こり、一度はバラバラになったMyGO!!!!!が、再び同じ方向を向くまでのストーリー、そしてラストに登場したAve Mujicaなど、気になるポイントを伺った。

そよにはスマートフォンの大きさがちょうどいい

――波乱のライブを経て、第8話になると、そよの思い詰めるシーンが続きます。

タワーマンションの上層階って、地上の音も全然聞こえない、社会の喧噪から隔絶された空間なんですよね。そんな中にいるそよは、これといって趣味がある人でも、趣味を作れる人でもないので、家ですることといったらスマートフォンばかり見ているような日常だと思うんです。
思い悩むようなことがあっても、気晴らしの散歩や買い物に下りていくのが億劫な高さに住んでいるので、SNSを眺めては更に悩みを深くする…みたいなループに陥りがちです。余談ですけど、そよはセンスがよく、愛音のミーハーなセンスに呆れているところがあって、愛音が運用するMyGO!!!!!のアカウントとかの軽薄な感じはあまり好きじゃないんです(笑)。自分自身はCRYCHICでの苦い経験があるのでやらないですけど、MyGO!!!!!のアカウントと愛音の投稿には内心「だっせーな…」と思っていると思います。

――(笑)。

元々は庶民なので、今の家にある大きなテレビで映画やドラマを楽しむタイプでもない。むしろ大きすぎて、目の端が余る感覚があるんじゃないでしょうか。そういう意味でもスマートフォンの大きさがちょうどいいんですよね。

――その後、そよと祥子の会話では、そよの絶望感がかなり浮き彫りに…。

これは第7話でMyGO!!!!!がやった「春日影」を祥子に見られてしまってからの流れで、「とにかく弁明しなきゃ」と焦りまくっている状況です。お嬢さまとして優雅に振る舞えるそよが、この件だけはみっともなくなってしまうのが、それこそ「パンク」で。本気を曝け出し、本音が弾け出てしまう瞬間、恥も外聞もなく祥子にすがりついて、結構ひどいことも言っちゃうんですね。でもそれこそがそよにとっての本音なんで。そよがパンクだった瞬間は、まさにあのシーンなんです。

――続く第9話では、幼少期のそよのシーンがあり、複雑な家庭環境が鮮明になります。

『ガルパ(バンドリ! ガールズバンドパーティ!)』に実装されることになった時に、キャラクターを既存の学校に振り分けることになったんですが、月ノ森女子学園がそよの上品な雰囲気にうってつけで。でも月ノ森は、一般家庭で暮らしているましろちゃんもいれば、政財界の令嬢や芸能人もいる、門戸の広いリベラルな校風なんですよね。そんな月ノ森の中でそよはどんな学園生活を送ってるんだろうと考えると、とにかく卒なくやってるだろうなと。ただ、卒なくやっているということは、生来の自分ではない性格を作り出しているということなのかもしれない…というように洞察していくと、祥子や睦のように生粋の令嬢ではなく、あとからお嬢様になった、そよ独特の人物像が見えてきました。そこからさらにそよの人間関係の希薄さと執念深さが入り混じった感じの成り立ちなどを突き詰めていき、あのような幼少期の描き方になりました。

――現在の姿から逆算していったと。

そよは多分、何かをずっと遠慮して生きてきたというか…。キャラ造詣を決める打ち合わせの時に、そよのキャラ案を見た方から「ママみ」という言葉が出たんですね。そよの雰囲気を表すのに、まさに!という感じで、彼女の特徴として「メンバーのママ」という立ち位置がきまりました。ただ、それだけではあくまでも記号になってしまいます。また僕自身が「ママみ」という言葉をよく理解できていなかったこともあって、そよにおける「ママみ」とは一体何かを考えていったんです。ただ優しくて何でも許すような性格というなら、そんな人いるのかなと思いますし、彼女自身の優しさとは別に、そんな風に振る舞わなくてはならなかったような事情があるのではないかと。それを踏まえて家庭環境を考えると、そよの母はバリバリ働いていて、逆にそよがいわゆる“ママ”みたいなことをしてあげているんじゃないかとか、お嬢様学校に行っているのも、それこそがお母さんの希望だったからとか。ではなぜそんなにも母は頑張っているのか…というようにどんどん遡って、親の離婚やその後の生活といったそよのルーツにたどり着いていきました。

――MyGO!!!!!の活動に目を向けると、一瞬ではありますが海鈴がサポートとして入って、物語を動かす上で重要な役割を果たしたと感じました。

あの場面に関しては海鈴というよりも、立希がそよを見捨てたことが重要だと思っています。立希からすると、燈さえいればいい。他のメンバーは愛音でなくても良いし、楽奈でなくても、そよでなくてもいい。
その一方で、愛音のことを立希自身も多少は信頼してきたタイミングでもあります。だから燈のためのバンドを少しでも前に進めたいんですよね。しかし、そよが脱退となると、そのバンドにほころびができてしまう。ほころびができたら、すぐに修復してしまいたい。海鈴を呼んだのはそんな焦りにも似た思いの表れです。さっさとそよを切り捨てて次に行きたかった。でもそこで、傷付いたそよを放っておくことや、メンバーがバラバラになることを怖れた燈と反目してしまうんです。
自分の不安を払拭することを望むあまりに、燈の気持ちを置き去りにしてしまったんですね。

MyGO!!!!!は前準備がグダグダ、それは燈個人も同じ

――第10話ではまず、燈と初華が出会うところから始まります。

この物語では、MyGO!!!!!とAve Mujicaを全部逆で作ろうと決めていたんです。だからお互いのボーカルの人物像もまったくの逆。次のシーズンを制作することも決まっていたので、真逆の2人を今のうちに会わせておきたい気持ちがあり、ここに持ってきました。
2人の違いというと、やっぱり感性の違いになると思います。sumimiやAve Mujicaで、コンセプトに合わせて人が望む歌詞を書ける初華に対して、燈は素朴で赤裸々に自分を曝け出す歌詞を生み出す人です。燈としても、逆の感性を持つ初華には惹かれるものがあり、そんな人からもらった言葉によってようやく一歩踏み出せた。自分とは違う価値観が入ってきてくれたので、一人迷い立ち止まっていた場所から踏み出せたんです。初華の物言いには、かつての祥子を彷彿とさせるものもあったんじゃないかと思います。
因みにプラネタリウムでの出会いのシーンで椅子を倒して顔が近づく演出は、脚本家陣からの熱いリクエストで採用となりました(笑)

――そんな出会いを経て、燈は1人でのライブを敢行します。

『バンドリ!』のアニメではライブ前の作曲や練習、事前の準備に、衣装作りもして…と、文化祭前夜みたいな雰囲気を大事にしてきました。でもMyGO!!!!!はとにかくグダグダで、出たとこ勝負です。それは燈個人も同じで、何も準備しないでノートだけ持ってくるんですね。
演出もなにも考えていないので、せいぜいスポットライトが当たるぐらい。RiNGのステージには、実は大きなモニターが設置されていて、バックで映像を流すこともできるんですけど、「MyGO!!!!!や燈に使いこなせるわけがないな」ということで、結局使わないままでした。

――ただ、結果として実直なライブがオーディエンスにも伝わることになりました。

大ガールズバンド時代なので、キラキラしたバンドもたくさん出てくると思うんです。そんな中、たった1人でステージに出てきてメッセージを紡ぐ姿は、観客の興味をひいたのではないでしょうか。

――そして最終的にはMyGO!!!!!の5人が再び揃って…。最後はみんなが涙を流しながらのパフォーマンスでした。

10話はまさにスタッフの本気とケミストリーで作り上げられたエピソードでした。それまでの話数、スタッフ皆で丁寧に物語を積み重ねてきた上で、「ここでゴールを決めるんだ」という気迫が現れた回だと思っています。全員がこの話の意味と、何をすべきかがしっかりと見えている感じで、確かな熱量を感じる話数となりました。本当に感謝しています。
この話は「これまで受け身だった燈が自分の力で立ち上がる」というコンセプトに、事前に音楽サイドから頂いていた、MyGO!!!!!で叙情系ハードコアやポエトリーリーディングの曲をやってみたいという構想を組み合わせたところ、燈の詩の威力が際立つ話になりました。
すれ違いの日常描写の上に燈の想いがボイスオーバーで乗るという演出を共有してから脚本に入っていただいたので、脚本担当の後藤さんは通常の1.5倍くらいの仕事量になったと思います。また、ポエムにも挑戦していただいて、前半の燈の独白もすべて後藤さんによるものです。
「詩超絆」のライブシーンでは、愛音がそよの髪を直したり、立希が最初に泣き出したり、それまでの思い出がオーバーラップしたり…と、印象的なシーンはコンテ担当の梅津さんに盛り込んで頂いたものです。メンバーの表情や演技はディレクターの大森さん、遠藤さんをはじめアニメーターによるアドリブも随所にみられます。
それまでの話数でパスを積み重ねて、アシストをあげ、きっちりゴールを決め切った、総決算のような話数になったと思います。

――あのライブでまたMyGO!!!!!がひとつの方向に向かい始めての第11話は、まだ仲直りしたての微妙な距離感が描かれていますよね。

この作品ではMyGO!!!!!のメンバーを描くことと、彼女たちが最終的にバンドを結成するまでの物語を思い描いていたのですが、第9話までの惨状から第10話の流れを思いついた時、想定していた以上に一気にMyGO!!!!!が抱えた問題が解消してしまったので、残り3話はなにをしようかと悩み抜きました(笑)。
すると脚本担当の方々が、「これは『バンドリ!』なんだから、『バンドリ!』をやろう」と提案してくれたんです。楽曲を作ったり、衣装を作ったり、ライブ前のドタバタ感をMyGO!!!!!でも描写したいなとみんなで考えて出来上がったのが第11話です。
パンクバンドの魅力って、シンプルな心の叫びをぶつけられると、共感しようとしまいと、ぶつけられたこと自体にすごく感動するところだと僕は思うんです。第10話ではメンバーみんながそれを経験してひとつ上のステージにあがってしまったというか、バンドとして出来上がってしまったんですね。このエピソードの中にあった微妙な距離感は、バンドが完成してしまったことに、気持ちが追いつかないから生まれたものなんです。バンドに対するパッションと記憶だけがあって、別に仲良くなったわけでもない。ただ状況だけがどんどん進んでいく。でも同じライブを目指してるまさにその時こそ、メンバーは運命共同体なんですよね。

Ave Mujicaのライブシーンで描かれた、完全にコントロールされた舞台

――第12話はMyGO!!!!!の物語のクライマックスであると同時に、さまざまなバンドが登場する「いつもの『バンドリ!』」という雰囲気もありました。

その通りで、第12話はMyGO!!!!!の着地点として考えていました。まぐれで出来上がったライブではなく、MyGO!!!!!のみんながちゃんとライブを作ろうとしたらどうなるのかを描こうと。特に立希はすごく素直になって、バンドのまとめ役をやってくれました。今まではコンプレックスもあって自分を小さく見てしまうところがありましたが、バンドとして一段上に行ったことで、ちょっと余裕を持って自分の役割や周囲を見られるようになったし、「バンドを続けるためには、ライブを続けていこう」とも言えるようになりました。

――このあとの第13話はほぼAve Mujicaの話じゃないですか。そういう意味では、これがMyGO!!!!!としての最終話という位置づけだったのでしょうか。

僕はそのつもりでいたし、スタッフにも「そのつもりで作ってください」と話していました。もっと言うと、第11話がMyGO!!!!!の最終話で、第12話はエピローグの感覚です。「今後MyGO!!!!!はこうしていきます」というメッセージは11話で提示できたので、その次はシンプルにライブ回。紆余曲折あってまとまった人たちが、どんな音楽を作るのかを見せる舞台でした。

――ラストになる第13話をAve Mujicaの話にするのは、最初から決まっていたのですか?

先ほど話した通り、第10話でMyGO!!!!!が成立し、第12話でひとまずの着地をした状況に合わせて、それまでも背後で結成に向けて動き続けてきたAve Mujicaを本格的に登場させることが決まった形です。Ave Mujicaのデビューは本来は次のシリーズの最初を予定していたので、ここで描くのは祥子の境遇までのつもりで、ライブまでいくとは僕も思っていませんでした。
それでも最終的に描いた理由は、ライブによってAve Mujicaの世界観まで描いたほうが、祥子や睦の考え方の変化を中心に、物語の先を導く内容になると考えたからです。CRYCHICがあそこまで壊れたのに、どうして祥子は再びバンドをやろうと決心したのか。MyGO!!!!!の「春日影」を見て、すべてを忘れることを願った祥子が、Ave Mujicaによってどんな音楽を実現していこうとしているのか。

――祥子の現在の境遇というのも気になるところです…。境遇という意味では、そよとは家庭環境がまったくの逆ですよね。

祥子はとにかく、万能というか、なんでもある人にしたかったんです。才能もあって感受性も強くて明るくてカリスマ性もあって。彼女のカリスマ性にみんなが惹きつけられてしまうような。第3話で燈から見た祥子は、まさにそんな風だったと思います。だけどそんな彼女にも陰の部分はあって、途中で羽丘女子学園に行くことになりますが、その事実を幼馴染の睦以外には知らせていないんですよね。羽丘でも友達をつくらずに身を潜めている。
誰にでも屈託なく接していた以前の祥子と違い、身を窶した自覚があるのでプライドを引きずっているんですよね。それこそ、境遇が逆のそよには絶対に知られたくないはずです。

――そしてAve Mujicaのライブシーンも、ラストの1回だけでしたが、かなりじっくりと描かれている印象でした。

MyGO!!!!!とは真逆のコンセプトだということを、明確にすることを意識しました。MyGO!!!!!のライブは飾らなさが魅力です。ステージも質素で、シンプルな演奏。Ave Mujicaは音を重ねまくっていて、なんなら、そこにない楽器もオケで鳴っていることもあります。完全にコントロールされた舞台を目指しました。
あとは規模感の対比ですね。RiNGはせいぜい千人程度のキャパシティであるのに対して、最終話でAve Mujicaが立ったステージは、かつてRoseliaがFWF.(フューチャーワールドフェス)でパフォーマンスを行ったステージです。そのステージを抑えられるコネクションを持ち合わせているわけです。
音楽のコンセプトも、まずは世界観が先にあって、そこに音楽を乗せるのがAve Mujicaであり、心の叫びから音楽ができるMyGO!!!!!とは真逆です。Ave Mujicaには独自の世界があって、どんな環境でどんなライブをやるのかもすべて決まっていて、そこに向けて楽曲を作っています。

――分かりました。では、すでに新たなTVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』の制作も発表されているタイミングでもあるので、今後の意気込み、目標があれば教えてください。

It’s MyGO!!!!!で頂いた皆様の反応や感想など、とても励みにしながらスタッフ一同鋭意制作中です。Ave Mujicaと銘打ってはいますが、MyGO!!!!!に関しても、描ききれていない話題がいくつかあります。そういう意味では、ぜひIt’s MyGO!!!!!の続編としても楽しみに待っていただけると嬉しいです。もちろんMyGO!!!!!のキャラクターも登場するので、また新しい魅力を見つけてもらえたらと思います。

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