『バーテンダー 神のグラス』寺島拓篤さん、南條愛乃さんにインタビュー。バーで展開する人間ドラマに2人はどう向き合ったのか

TVアニメ

2024年4月3日(水)24:00よりテレ東にて放送がスタート、Lemino、U-NEXT、アニメタイムズ、アニメ放題にて先行配信するTVアニメ『バーテンダー 神のグラス』。本作は原作・城アラキ、漫画・長友健篩による、2004年から2012年 にわたり、「スーパージャンプ」と「グランドジャンプ」(ともに集英社刊)にて連載された『バーテンダー』を原作としており、バーで繰り広げられる人間ドラマの数々が描かれる。

今回は、銀座でバーテンダーとして働く主人公・佐々倉溜役の寺島拓篤さん、ホテル・カーディナルのカウンターバーをオープンさせるため、理想のバーテンダー探しに奔走する来島美和役の南條愛乃さんにインタビューを実施。作品やキャラクターのこと、あるいはお酒にまつわることなど、さまざまな質問をぶつけた。

お酒の知識だけじゃない、手の動き、視線にも注目

――本日はよろしくお願いします。まず、原作を読んでみての印象を教えてください。

寺島さん:タイトルからしてもお酒にまつわるストーリーが展開されるんだろうとは思いましたが、想像以上にお酒の情報量があり、それと上手く絡めた人間ドラマも楽しめました。
アニメ化ではシリーズ構成が全然違っていたので、また味わいが変わってくるのもすごいところだと思いましたね。

南條さん:バーという場所にちょっと疲れたり、悩んだり、気持ちが弱っている人がいて、そこで佐々倉さんやお酒の力でちょっと癒されたり、辛い気持ちがほどかれたり。その過程には、読んでいる私自身も癒されました。
これがアニメ化して、私も出演できるとなったときは、「頑張るぞ」という気持ちと同時に「私も癒されそう」という気持ちも湧き上がりました。

――そもそもお二人は、バーやバーテンダーについて、どんな印象を持っていましたか?

寺島さん:バーに入るにはハードルが高いというのは、皆さんも抱かれている方が多いと思うんですよね。それは僕自身も同じで、知識もないのに行くのは恥ずかしい、バーテンダーさんに失礼があったらどうしよう、みたいな先入観はありました。
ただ作品に触れてみて、「全然行ってもいいんだな」とはなっているので、ぜひ行きたいですね。

南條さん:大人の人が行って、静かにお酒を嗜む、みたいなイメージがあったので、私にはまだ早い…(笑)。いや、行っても不自然ではない年齢ですけど、イメージだけは先行していました。
でも、この作品をきっかけに行ってみようと決心して、実際に入ったこともあるんです。そのときはバーテンダーさんたちがとてもフレンドリーで、気さくに話しかけてくれました。そこで「ビシッとしてなきゃいけない」という先入観が崩れて、本当に楽しい空間だと思えました。

――作品を通してバーや、お酒に関する知識を得る機会はありましたか?

寺島さん:お酒の歴史や、どんな背景があるのか勉強になりました。同時に、身の回りにあるお酒についても、知識はまったく根付いてないことにも気づきましたね。
新しい知識がすごく多くて、多すぎるくらい(笑)。毎回「これ美味しそう」とか、「こういうレシピなんだ」と思っては、「いつか飲むぞ」を心には思うんですけど、いざお店行くと、「何て名前だっけ?」となっちゃう(笑)。

南條さん:いろんなことを試してみたい気持ちになりますよね。僕たちはバーの入り口に立っているぐらいの感じなんだと思います。まずはお気に入りのお酒を1個見つけて、それをたくさんのお店で飲んでみたいです。ゆくゆくは作るバーテンダーさんによってどう変わるのか、飲み比べもやってみたいです。

――ストーリーの中でも、人間ドラマの観点で印象に残ったエピソードはありますか?

寺島さん:序盤だからすごく練習したのもありますけど、来島会長が来店したエピソードは印象に残っています。他のエピソードは、その人が直面している悩みや問題がエピソードになっていますけど、来島会長はかなり昔のエピソードを振り返る構成なんです。色褪せてきているであろう思い出を、鮮やかに伝えるにはどうしたらいいんだろうと、考えながら演じました。

南條さん:それぞれのゲストキャラたちのお話も気になるし、若手のバーテンダーもたくさん出てくるので、成長物語としても続きが気になるんですよね。
美和さん目線だと、飄々としていて、なんでも知っている佐々倉さんがなにかで悩んでいる姿を見ると、どんな過去があるんだろうと、全編を通して気になる作りになっているのも、この作品の面白さかなと思います。

――ではあらためて、お二人が演じるキャラクターに対する印象を教えてください。

寺島さん:佐々倉は…変な人だなと思いました(笑)。バーにいるときとと外での雰囲気が真逆ですよね。外にいるとオープンな雰囲気に見えてすごくクローズドな人で、バーにいるとクローズドな雰囲気に見えてオープンなところがあって。謎の懐の深さを持っている人であり、2種類の味がある人というのが第一印象でした。
物語を読み進めていくと、深いところまで人間性が見えてきて、最初は掴みどころがなかった雰囲気も、だんだんと味わい深くなるんです。最後には主人公としてぴったりな面白い人だと思いましたね。

南條さん:佐々倉さんで衝撃的だったのは、第1話でスマートフォンの電話の出方が分からないところ(笑)。そこでスワイプの仕方を教えてあげるシーンがあるんですけど、私としても衝撃的であり、楽しいシーンでもありました。

寺島さん:確かに、びっくりしました(笑)

南條さん:美和さんに関しては、アクティブな部分もありつつ、一緒に行動することも多いゆかりちゃんにハツラツとした部分を譲って、先輩として振る舞うところあるんです。
その中で、良い意味で子供っぽい一面とか、真っ直ぐな部分も変わらず持っている人ですよね。

寺島さん:かわいげもあるし、お仕事ができる素敵な女性ですよね。誰とでも分け隔てなく付き合えている、中々いないですよね、こんな人。
ただ、佐々倉が美和のことをどう思っているかは、いまだ分からないです。美和との関係性もまた、佐々倉の掴みどころのなさに繋がってきますね。

南條さん:私も最初は、並行してラブストーリーに発展するのではと予想していたんですけど、そんなことは特になく…。

寺島さん:この二人のドラマで終わるのではなく、いろんな人間ドラマを多彩に描くのがこの作品の面白いところなのかも。

――表情や仕草にはどんな印象を持ちましたか?

寺島さん:端々から手にこだわりを感じますね。キービジュもそうですし、アニメーションでもそうですけど、バーのシーン以外でも、手を強調する瞬間が多い印象がありました。
例えば第1話では美和が髪についた桜の花びらを取るシーンがあるんです。空と手だけが映る、とにかく手をきれいに見せているなと驚きました。

南條さん:キャラクターがしっかりとお芝居をしている印象はありました。私たちはあくまで、声でお芝居のアシストをしているだけというか。絵の力がある作品ですね。
特に印象に残っているのが、バーのシーンで、お酒をすっと出されたとき、他のお客さんはお酒を見ている中で、美和さんだけは佐々倉さんを見ているケースが結構あるんです。なにか台詞があるわけではないけど、視線だけで佐々倉という人物に対する興味、尊敬の気持ちを表現しているのがすごく伝わってきました。

寺島さん:視線の違いは全然気づかなかった…。

南條さん:多分私を含めて、他のキャストの方々も気づいてない細かい仕草ってたくさんあると思うんです。新しい発見があるのも、アニメ化されてよかったポイントかもしれません。

――細かい表現にもかなり力が入ってそうですね。

寺島さん:そうなんです。カクテルを作る際の、液体を描くこだわりは特に驚きましたね。アニメで液体に終始こだわることって、あんまり多くはないと思うんです。だけどこの作品は注ぐ瞬間、混ぜる瞬間を丁寧に描いていて、制作するスタッフの方々も新鮮だったろうなと思います。

南條さん:第1話の冒頭、シェイカーからグラスに注ぐシーンが、まるで現実で見ているかのような錯覚を覚えて、なんとも不思議な体験だったのは印象深いです。

寺島さん:バーの描写は一番こだわるべきポイントですからね。

南條さん:あとは寺島さんがおっしゃっていた、お酒の表現ですね。バーという独特の薄暗さがある空間で、カクテルを鮮やかに見せる技術も素晴らしいです。

寺島さん:アニメなのかリアルなのか、分からなくなるぐらい瞬間がありますよね。

今までにないくらい声のトーンを落とした

――演じるときに意識した点は?

寺島さん:収録の際に言われたのは、バーにいるときの落ち着き具合のことです。とにかく、すごく落ち着かせるように言われたのを覚えています。
自分でもやったことないぐらいに声のトーンを落としていたので、正直最初は不安でした。「マイクは自分の声を拾ってくれるのかな?」と(笑)。
そんな静かな声を使って、相手と会話をしたり、お酒の知識を披露したりというのは、見る人にどう伝わるんだろうと、四苦八苦しながら練習しました。

南條さん:最初の美和さんのイメージは感情がストレートに出る女の子でしたけど、私も監督から「もっと落ち着いていい」とディレクションを受けて、ちょっとお姉さんぽい演技に変わっていきましたね。
この作品で一つ印象的だったのは、収録が基本的に午前中なんです。午前中は基本的に元気に声を出すお仕事が多い中で、「こんなに声を張らない現場あるんだ」って(笑)。それもある意味では新鮮で、楽しかったですね。

――収録現場も独特の空気があったんですね。

南條さん:分割での収録という事情もありましたけど、かなり静かな現場でした。ただ、毎回ゲスト声優の方が来るので、ちょっとずつ違った空気にもなりました。ゲスト声優さんとの取っ掛かりは、大体「お酒飲まれますか?」でしたね(笑)

寺島さん:そう(笑)。でもなんだか飲めない人のほうが多かったですよね。(美和の上司である神嶋役の)山本格さんは、カクテルを作るのは大好きだけど、ご自身は一滴も飲めないと言っていましたから。

南條さん:飲めないけど、「作りたいから作る」と、職人みたいなセリフを言ってましたね(笑)。あのかっこいい声でカクテルの美学を語る、今振り返ると、収録現場一番のエピソードかもしれないです。

――しかし今までにないくらい声を落ち着かせるというのは、難しさもあったのでは?

寺島さん:ありました。めっちゃありました。しっかり、ゆっくりと話しつつ、いかに自然に喋っている佐々倉さんを見せるかは、自分にとって課題でもありました。

南條さん:私の場合、序盤は佐々倉さんに対して「うちのホテルで働いてください」と真っ直ぐなお願いをするキャラクターがはっきりとしていたんです。だけど、気づいたら「いつでもいる子」になっていたので、キャラクターの立ち位置の変化は難しかったです。
寺島さん:どこに行っても同行するからね(笑)

南條さん:(笑)。ストーリー上、若手のバーテンダーが葛藤したり、学んだりするシーンもありますけど、美和さんだけは普通にお酒を楽しんでいる立場なんですよね。熱意のある性格だけど、素の表情も忘れてはいけない。その匙加減は気をつけたところです。あまりにお気楽すぎてもダメだし、シリアスになるのも美和じゃないし。その難しさはあったとだろうね。

寺島さん:ある意味、いつでも自然にその場にいる美和さんの不思議なポジションというのも、放送では注目してもらいたいポイントかもしれません。

©城アラキ・長友健篩/集英社・Bar hoppers