日本でも独自の存在感を見せる中国アニメの快進撃…『霊剣山』『羅小黒戦記』『Re:STARS』などで見えるこれまでとこれから

海外アニメ

数多くの国産アニメの中で、着実に存在感を見せてきている中国産アニメの数々。『羅小黒戦記』『時光代理人』『天官賜福』『魔道祖師』…2022年には『万聖街』が日本放送されたのも記憶に新しい。
それ以前もポツポツと話題になることはあったが、ここ数年は絶え間なく話題を振りまくようになっており、中国アニメが身近な存在になったと感じるアニメファンも多いはずだ。

本稿では、そんな中国アニメの盛り上がりを振り返るとともに、2023年以降にどんな展開が待っているかも紹介していきたい。

 

日本を超える興行成績の作品も…中国のアニメ市場を見る

日本展開が目立つ中国アニメだが、中国国内の盛り上がりはどうなのか。中国の調査会社、芸恩諮詢(エントグループ)によると、2021年の中国本土の映画年間興行収入は470億3835万元(約8400億円)、そのうちアニメ関連は41億7503万元(約750億円)だったという。

同年で特に大きなヒットを記録したのは、日本でも公開された『白蛇:縁起』の続編『白蛇2:青蛇劫起』で5億8000万元。日本円で換算すると100億円を超える記録だ。
また2022年だと『熊出没 バック・トゥ・アース大作戦』が9億7800万元(約185億円)、『新封神演義・楊戩』は5億5600万元(約105億円)と、中国独自のアニメが多くヒットしている。

日本産のアニメが中国に上陸し、ヒットを記録する例も珍しくない。日本では2022年11月に公開された『すずめの戸締まり』が中国で公開されると、初日だけで約9500万元(約18億円)の興行収入を記録した。興行収入はその後も順調の様子で、2023年4月4日時点で5億7500万元(約111億円)。日本のアニメ映画として歴代1位だった『君の名は。』を超え、歴代最高記録を更新した。

これ以外にも『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』は1億7800万元(約34億円)、『HELLO WORLD』は1億3600万元(約24億円)。特に『HELLO WORLD』は約6億円と言われている日本の興行収入を上回っている。このように「中国×アニメ」の組み合わせは着実に力をつけていると言えるだろう。

『羅小黒戦記』に『時光代理人』…年々増す中国アニメの存在感

羅小黒戦記

中国で日本のアニメが人気を博すのと同じように、日本でも中国アニメが存在感を見せてきている。盛り上がりを見せたポイントはいくつかあるが、ひとつ例を挙げると2016年に放送された『霊剣山 星屑たちの宴』がある。
本作はスタジオディーンと深セン市テンセントコンピュータシステム有限公司(中国)との日中共同企画で、原作の「從前有座霊剣山」は、中国の有名なオンライン小説家の“国王陛下”が手掛けている。
仙人試験に挑む少年の活躍を描いたこの作品は2016年に放送されるとカルト的な人気を獲得、翌2017年には第2期「叡智への資格」も放送された。

中国のオンライン小説&マンガを原作とするアニメ『霊剣山 星屑たちの宴』2016年1月放送スタート。メインキャストに代永翼を起用

その後も『Spiritpact』『銀の墓守り』『TO BE HEROINE』など中国のアニメーションスタジオ・絵梦(エモン)が手掛けるアニメが度々放送されるようになる。
そして2020年になると『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』の日本語吹替版がアニプレックスによって劇場上映。2021年にはフル3DCGで描かれた『白蛇:縁起』が日本で公開された。日本語吹替版『白蛇:縁起』に関してはブシロードムーブが配給に参画、日本でも知名度のある企業が中国アニメの展開に名乗りを挙げたのは大きな変化と言っていい。

アニプレックスは『羅小黒戦記』以外にも、古代中国を舞台にした『天官賜福』、サスペンスとSF要素を取り入れた『時光代理人』、悪魔のニールが人間界で送る日常を描いた『万聖街』といったTVアニメを次々に日本へ送り出している。

中国発の劇場アニメ『羅小黒戦記』日本語吹替版の制作が決定! キャストに花澤香菜、櫻井孝宏、宮野真守

Re:STARS

そしてブシロードムーブは、チームジョイ、 トムス・エンタテインメントの3社共同で企画した『Re:STARS』を2023年4月より放送。本作は、中国の動画配信プラットフォーム「iQIYI」(愛奇芸・爱奇艺/アイチーイー)のマンガ配信アプリにて配信中の少女漫画「今天开始做明星」が原作。18歳の男子大学生チン・ザーと、トップアイドルである双子の姉チン・ヤーを描いた青春アイドル・コメディだ。

『Re:STARS』4月2日よりBS日テレで放送開始。中国で累計閲覧回数は52億回を超える少女漫画が原作

ufotableは『原神』とタッグ、伊藤智彦監督が絶賛するアニメも日本上陸

『TO BE HERO X』コンセプトビジュアル

今後に向けての日本各社の動きも活発だ。東映アニメーションは『Spicy Candy(スパイシーキャンディ)(辣糖甜心)』と題したショートアニメを中国向けに配信すると発表。
『鬼滅の刃』などで知られるufotableは、中国のオンラインゲーム『原神』との長期プロジェクトを開始したことを明かしている。長期プロジェクトが具体的にどんな内容なのかは2023年4月時点で発表されていないが、国内外で高い人気を誇るufotableと『原神』のタッグがどんな化学反応を起こすのか、今から期待が高まるところ。

また、2021年に中国でヒットを記録した『雄獅少年/ライオン少年』の日本語版は2023年5月26日に公開予定。昨年には日本に向けて中華映画を届ける「電影祭」で上映されると、『劇場版ソードアートオンライン~オーディナル・スケール』『HELLO WORLD』の伊藤智彦監督が「2022年一番面白かったアニメ」と絶賛したことでも話題になった作品だ。

アニプレックスはbilibiliとの新プロジェクトとして『TO BE HERO X』の製作を発表。すでに『万聖街』の新作も決定しており、今後も同社から多くの中国アニメが飛び出してきそうだ。

ブシロードムーブは『Re:STARS』をベースにした劇場版『Re:STARS ~未来へ繋ぐ2つのきらぼし~』を公開予定と発表済み。日本語吹替での制作が進んでおり、キャストには莉犬(すとぷり)、三森すずこが決まっている。

アニプレックス、bilibiliとの新プロジェクト始動。アニメ「TO BE HERO X」コンセプトビジュアル&コンセプトムービー公開

劇場版『Re:STARS ~未来へ繋ぐ2つのきらぼし~』ティザービジュアル、ティザーPVが公開。メインキャストは、莉犬(すとぷり)・三森すずこ

2023年、アニプレックスやKADOKAWAはさらなる中国アニメの日本展開を発表

「龍族」ポスタービジュアル

2023年に入ってからも、日本のアニメ製作会社から中国アニメの日本展開に関するニュースが届いている。例えばKADOKAWAは、『攻略うぉんてっど!~異世界救います!?~』(原題:『暂停!让我查攻略』)を2023年10月から日本国内で放送すると発表した。
本作は、2022年「中国優秀ネット視聴作品」受賞、同年bilibiliにて配信されたオリジナル作品が合計視聴数8000万回を突破するなど、すでに中国国内で高い評価を得ている。

社畜生活を送っていたアラサー女子・イノーは、ある日不慮の事故によってゲーム世界へと召喚されることに。魔王によって平和が脅かされる異世界で、同じく召喚された引きこもりニートにして美少女勇者のエンヤァとともに、現実世界へと戻る方法を探りながら、異世界を救う大冒険を繰り広げるという物語。

もともとKADOKAWAは2021年に中国テンセントグループとの資本業務提携を結び、アニメ、ゲーム分野で“グローバル・メディアミックス”戦略推進を強化すると発表。また同年には中国総合配信コミュニティ・bilibiliと、日中合作漫画の制作・配信する共同プロジェクトを発足。

かねてから中国との関係強化はアナウンスされており、『攻略うぉんてっど!~異世界救います!?~』もその一環と言えるだろう。

中国発の異世界ファンタジーコメディ『攻略うぉんてっど!~異世界救います!?~』が日本放送決定

また、『羅小黒戦記』をはじめ中国アニメに積極的なアニプレックスは、テンセントビデオとともに「龍族」を全世界規模で展開していくと発表した。
こちらは江南による同名原作小説を、中国随一の映像美を誇るアニメーション制作会社・洛水花原が映像化したファンタジー大作。普通の高校生として孤独ながらも平凡な日々を過ごしていた路明非が、龍の血を宿した人間を集めるカッセル学院に入学。学院の目的は人類の敵である“龍”を殺すことであり、路明非もまた、千年の眠りについていた龍王たちを討伐する戦いに身を投じていく。

本作の特徴は、澤野弘之、SennaRin、KOHTA YAMAMOTO、山下清悟ら日本を代表するアーティスト・クリエイター陣も参加している点にある。グローバルな制作体制のもとで生み出された本作は中国で熱狂的な人気を博し、既に第二期の制作も決定している。その勢いのまま発表された世界展開。日本での人気獲得にも期待がかかる。

中国発のファンタジー大作『龍族』世界規模での展開が決定

「一見の価値あり」に進化を遂げた中国アニメ

『羅小黒戦記』や『時光代理人』といった作品は日本国内での評価もよく、それまで中国発のアニメと縁がなかった層にも上手くアプローチした印象だ。

中国で日本のアニメが隆盛を極めるように、中国のアニメが日本で大きなヒットを記録する日が来るかもしれない。もちろん今はただの予想に過ぎないが、一見の価値があることは間違いないだろう。

AnimeRecorder編集部
岸由真

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