『スナックバス江』高橋李依さん、阿座上洋平さんにインタビュー 全体にスナックの空気感漂う作品

TVアニメ

2024年1月から放送がスタートするTVアニメ『スナックバス江』。『スナックバス江』は、フォビドゥン澁川が2017年より集英社「週刊ヤングジャンプ」で連載中のギャグマンガで、北海道のスナック「スナックバス江」を舞台に、バス江ママとチーママの明美、そして常連客のやり取りを描く。

今回は、本作で明美を演じる高橋李依さん、そして常連客の1人・山田役の阿座上洋平さんにインタビューを実施。スナックコメディという珍しい作品に参加した現在の心境を聞いた。

『スナックバス江』が持つ不思議な魅力

――『スナックバス江』の原作に対する印象はいかがでしたか?

高橋さん:監督と話していて「なるほどな」と思ったのが、トイレで読みたい漫画(笑)。1話のボリュームもちょうどいいし、トイレに本棚があったら並べておきたいですよね。

阿座上さん:あと、町中華にも置いてありそうじゃないですか。漫画を読むのが目的でついつい通っちゃいそうな、少ない時間でも気を張らずに楽しめる魅力があります。

高橋さん:すごく分かります(笑)。そこにひっそりと存在してる感というか。好きな人が勝手に集まってくる漫画というか。

阿座上さん:そうそう。

高橋さん:ごはん屋さんにあったら読んじゃう気持ちも分かります。同じエピソードでもたまに読み返したくなる、不思議な魅力がありますよね。

――お二人が『スナックバス江』を知ったのはどのタイミングでしたか?

阿座上さん:僕はオーディションを受けることになったタイミングでした。

高橋さん:私は別作品で監督と飲んでいた際、「こういう面白い漫画があるんだ」と教えてもらったのが最初でした。
アニメに関わるかとかの話ではなく、純粋にハマっているものを共有させてもらった感じで。その後、アニメ化に当たってオファーをいただいて、驚いたのを覚えています。

――お二人が演じるキャラクターについてはどんな印象ですか?

阿座上さん:僕が演じる山田は、他のキャラが濃すぎる影響もあって、すごく普通に見えますね(笑)。彼が常識人としてツッコミを入れるから、この作品がギャグとして成り立つ、普通だけど大事なキャラクターです。
なんだかんだ言いながら毎回通ってるし、この空間が好きなんでしょうね。会社員として、代わり映えしない生活を送る中で、濃いキャラクターにツッコミを入れることで違う世界へ一歩抜け出せるのかもしれない。ツッコミという刺激を求めているようにも思えて、そこに人間味を感じます。

高橋さん:明美ちゃんは、自分の考え方や思ったことをちゃんと整理して言える子で、それが良いか悪いかは置いておいて、まっすぐな印象があります。
遠慮なく言えちゃう子ですけど、プロとしての誇りは何故かちゃんと持ってる。その絶妙なバランス感が心地よくて、一緒に飲みたいと思わせてくれます。

阿座上さん:キャラクターデザインもなんというか…ちょうどいいんだよね。たぶん、めちゃめちゃキレイな絵だったり、劇画だったりしたら、この笑いは成立しないと思う。
原作の描き込みを見ても、フォビドゥン澁川先生が本気で描いたらめちゃめちゃ上手いと思うんです。そんな人があえて肩の力を抜いて描いているんだろうなって。この漫画の面白さを引き立てているデザインですよね。

高橋さん:明美ちゃんも、「これぞスナック」という装いですよね。
原作だと、明美ちゃんのお顔が丸かったりもちもちしたりもしていて、「先生、かわいいを目指しているのかな」と思うこともあります。だけど、そう思った次の瞬間にはすごい顔ですごいこと言うので油断できないですね。

阿座上さん:確かに、かわいくて美人で、大人としての経験を積んでいるなと思う瞬間はありますよね。
明美に関しては、カウンター越しなのがまたちょうどいい距離ですよね。自分自身もいろんなことを経験して、カウンター越しにいろんな人生を見てきたから、スナックで繰り広げられる人間模様に必要以上に踏み込まないんです。

高橋さん:意外とプロ意識があるというか、仕事が好きな子ですよね。なんだかんだ言いながらちゃんと手際も良くて、「仕事じゃなかったらあなたに話振らないけど一応聞くわね」というはっきり言える距離感も上手くて。

阿座上さん:山田はどう見てます?

高橋さん:山田が登場するエピソードはなんだか安心します。好き勝手遊べる(笑)。

阿座上さん:山田がいないと、明美がツッコミのポジションになるからね。

高橋さん:そう! もちろん明美ちゃんのツッコミがしっくり来る瞬間もあるんですけど、山田の「やれやれ」な空気感とか、言葉の選び方とか、すごく安心感がありますよね。

スタジオにお酒、打ち入りでスナックへ…独特の「スナックバス江チーム」

――収録現場はどんな雰囲気でしたか?

阿座上さん:この作品は午前中に収録することが多かったのですが、雰囲気作りのためなのか、スタジオにお酒が置いてありました(笑)。

高橋さん:飲んではいないですよ?(笑)

阿座上さん:飲んではいないです(笑)。原作がずらーっと並んだところに、なぜかハイボールやウイスキー、あとは高そうなシャンパンも飾られていて、祭壇みたいな感じになっているんです。それを見て僕たちは「今日も始まったな」と気合が入るんです。

高橋さん:打ち入りでスナックに行ったこともありましたよね。みんなで歌を歌って、お客さんと握手して…私は遅れて入ったので驚くばかりでしたけど、本当に賑やかな座組です。

阿座上さん:そんな経験をした影響もあって、アフレコも最初のうちはテンションを上げすぎてしまったんです。監督からも「スナックはそんなに肩の力を入れる場所じゃない」とディレクションを受けることもありました。

――コメディ作品ではあるけど、必ずしもテンションを上げればいいわけではないと。

阿座上さん:まずはスナックの温度感を描くことにこだわっていました。

高橋さん:特に『スナックバス江』の原作はテンポよくページをめくれるので、次々に笑いが起きる印象が強かったんです。だけど、実際のスナックでの会話はもっと心地よい、ゆったりとしたペースであると。そこに、独特の尖った話題がアクセントになると。
ハイテンションコメディではなく、スナックコメディという新たなジャンルに、みんなで挑戦している感覚でした。

――なるほど…。しかし、打ち入りでスナックに行ったというのは驚きました(笑)。

高橋さん:キャストの方々と別現場でお会いしたときも「スナックバス江チーム」という特殊な共通項があることで、不思議な頼もしさを感じてしまいます(笑)

――ちなみに、『スナックバス江』に出会う以前はスナックという場所に対してどんな印象を持っていましたか?

阿座上さん:スナックは行ったことあります?

高橋さん:この作品以前だとないです。なので今までの印象は、町で見かけるけど、扉を開ける機会がないよなという感覚でした。

阿座上さん:扉、重そうなんだよね(笑)。

高橋さん:お店の中見えないですし(笑)。

阿座上さん:僕は実は行ったことあるんです。群馬出身なんですけど、草津温泉に行ったことがなかったので、ある日友達みんなで行こうと。だけど、その日は週末ということも合って、美味しいご飯を食べられるお店がどこも満席だったんですね。
友達と「どうする…?」と話していたら、偶然スナックが目に入った、という流れです。中にはママしかいなかったんですけど、その人がとても優しくて、旅とスナックの相性ってめちゃくちゃいいなと思いましたね。遠くから来た人でも受け入れてくれるんです。

――スナック経験者として『スナックバス江』に共感できる部分はありましたか?

阿座上さん:低温調理器の話をするエピソードは、実際のスナックでもありそうな会話だなと思いました。

高橋さん:「男の子は道具にこだわってしまうの!」でしたっけ。

阿座上さん:そう(笑)。普通、会社の同僚とは絶対にしない会話で盛り上がっているあの感じ、「あるある」って思いましたね。

――逆に高橋さんは、『スナックバス江』の出演を経て、スナックに対する印象の変化はありましたか?

高橋さん:もしもスナックに行くとなったら、自分が面白い話を用意しなきゃいけない先入観があったんです。だけど、明美ちゃんを演じているうちに、「お店の人が会話を回してくれるかも」と思うようになっていました。一見すると重そうなスナックの扉を開けてしまえば、きっとどうにかなる。先入観がなくなったのは一番の変化かもしれないです。

肩の力を抜いて、お酒を飲みながら見てほしい作品

――演じる際に気をつけた点はありますか?

阿座上さん:これは監督にも言われたことで「引き算から生まれるもの」は意識しました。自分が面白いと思ったことを「面白いでしょ?」と伝えるのではなく、自分の中で完結していいと、それが視聴者の方にふわっと伝わるくらいのほうが、『スナックバス江』には合うと言うんです。
僕個人として思ったことは、イレギュラーではありますが、あまり台本を読んではいけないのかなと。ツッコミはその場のノリを大事にするべきで、台本通りのセリフより、勢いに任せたほうがしっくり来ると思うんです。こんなこと考えたのは『スナックバス江』が初めてです。

高橋さん:今回のアニメは基本的に原作からのエピソードだったり、コアなファンのみなさんにとっても楽しみの多いアニメ化だと思っています。そんな原作想いな構成の中で、あえて脳内再生通りのお芝居に囚われることなく、会話劇として、現場で作り上げることを意識していきました。

――収録を通して、印象に残ったシーンやセリフとかってありますか?

阿座上さん:やっぱり「しかし…あわよくば」のシーンかなぁ…。原作でもお腹を抱えて笑ったシーンで、アニメでも強烈です。しかも、コントとしてもしっかり成立しているんですよね。
バス江ママって、すごくかわいらしくてマスコットのような存在のときもあれば、急に壊れる回があるんです。この回に関してはすごい壊れ方で、ツッコミも面白いし、たまんないですね。話を分かってくれそうなおばあちゃんに、裏切られるみたいな(笑)。

高橋さん:私はなんだろう…。特定の決めゼリフとなるとひとつに絞るのが難しいです。というのも、明美ちゃんの場合はお客さんとの会話劇がほとんどで、心地よく掛け合いを続けてきたから、視聴者目線でまだ見られていないんです。ひょっとしたらテレビ放送のタイミングで新しいお気に入りが見つかるかもしれないですね。。ただピンキーユニコーンは、妙に記憶に残っています。

阿座上さん:ピンキーユニコーンはストーリーにがっつり絡んでくるわけでもなく、それが逆に怖いですね(笑)。

高橋さん:疲れている人だけが見えるという(笑)。原作では出てこなかった場面でもひょっこり出てきたりするので、余計に印象的ですね。
あと、キャラクターだとラスボスパーティーも好きです。ラスボス、脳筋、女魔道士、暗黒騎士、フード、…。キャストの皆さんの演技もあって、キャラクターの個性がここまで増してくるのかと驚きました。

――ではあらためて、今回のアニメでどこに注目してもらいたいか、ポイントがあれば教えてください。

高橋さん:漫画で表現されている面白さにアニメーションが加わることで、よりスナックらしさが追求できたのではないかなと思います。エピソードを楽しんでもらいたいのはもちろん、作品全体に漂うスナックの空気感も楽しんでほしいです。

阿座上さん:ぜひ肩の力を抜いて、お酒を飲みながら見てほしい作品です。30分アニメだけど、ひとつのエピソードはすごくテンポよく進んでいくので、本当に気軽に見れます。ひょっとしたら合わない人もいるかもしれない。だけど、合う人にとことん合う。そんな魅力が伝わったら嬉しいです。

――ありがとうございました。

©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同