『黒の召喚士』平池芳正監督インタビュー “転生”を強調できるストーリーが大きな魅力 サテライトならではのCGにも注目

TVアニメ

2022年7月から放送がスタートするTVアニメ『黒の召喚士』。迷井豆腐氏が手掛ける本作は、「小説家になろう」にて2億8000万PV超え、「オーバーラップ文庫」から刊行中のライトノベルはシリーズ累計150万部を突破するなど人気を博している。

作中では、前世の記憶と引き換えに強力なスキルを獲得して異世界に転生した青年・ケルヴィンの成り上がり物語が描かれる。
ケルヴィンは強力なスキルによる凄まじいステータス成長と配下のモンスターを使役する「召喚術」のスキルを持っており、仲間を集めてトップ冒険者へと成り上がろうとする、爽快なバトルストーリーが魅力の作品だ。

今回は、本作で監督・シリーズ構成を務める平池芳正氏にインタビューを実施。同氏は『カレイドスター』『WORKING!!』『ヲタクに恋は難しい』など多彩な作品で監督を務めてきたが、以外にも異世界作品を手掛けるのは初めてのこと。
監督から見た『黒の召喚士』の魅力、異世界作品というジャンルの魅力、キャラクターやキャストに対する思いなどさまざまな質問をぶつけてきた。

異世界作品は自由度が高すぎるのも難しさ

――本日はよろしくお願いします。まず、『黒の召喚士』の原作に対してはどんな印象を持ちましたか?

まずは原作を実際に読む前の話になりますが、「この作品の監督をやらないか」と聞かれたとき、「私にもついに異世界作品のオファーが来たか」と思いましたね(笑)。

――(笑)。これまで監督として多くの作品を手掛けてきましたけど、確かに異世界転生ものは初めてですよね。

そうなんです。私のイメージする異世界転生ものって、特定の趣向や属性に振り切った作品が多い印象があったんです。これは多様化する世の中を象徴する傾向でもあると思います。
では、この作品はどんな方向に振り切った作品なんだろうと考えながら読み進めると、驚くほどシンプルで、男の子が純粋に楽しめるドラマだと感じました。人以外のものに転生する作品も多いなか、制作する側としても分かりやすく、好感が持てました。

――異世界転生ものは初めてとはいっても、難しさは感じなかったということですか。

監督としては、初体験のジャンルですが、以前に『くまクマ熊ベアー』のオープニング演出を担当させてもらったこともあり、多少のなじみはありました。世のあふれるほどの異世界ものを読むこともありますし。

――具体的に異世界を描く上で、まずはどんなところから意識したのでしょう。

まずは転生前の世界との関わり方ですね。他の作品だと、主人公が転生した時点で前の世界のことがなかったことになってしまう作品も多いように感じています。ですが『黒の召喚士』の場合、主人公が記憶をなくしている設定があるため、彼が元いた世界に思いを馳せたり、異世界の住人と比較されたりと、いろいろな表現が可能になっています。
他の異世界転生作品の場合、1話を見逃してしまうと、転生した要素がほぼなくなって純粋なファンタジー作品になるケースも多いかと思います。そうではなく、“転生”の部分をドラマとして描けるのは『黒の召喚士』の大きな魅力だと思いますし、意識して制作しています。

――異世界作品ならではの難しさは感じましたか?

自由度が高すぎるのが逆に難しく感じることはありました。基本は中世の風景がベースですが、「異世界の文化が流れてきた」と言い訳してしまえば、日本風の風景だってありになってしまうんです。そうすると独自の美術設定なども考えなければいけないし、どこまで自由な発想で独自の作品世界が作られていることが、アニメ作りにおいては難しいかなと。

――多くのものをなんでも取り入れるだけでなく、逆に絞る作業も必要だったと。

原作小説はディテールを細かく書かれている作品だと思います。それをTVアニメのサイズに効率的に調整する必要はありました。原作ままやってみたいが、それはアニメとしてよい形にはならない? そういう部分は絞っていますが、逆にアニメに向いていると考える部分は膨らませてもいます。

――ストーリーに関しては、基本的に原作を踏襲するのでしょうか。

もちろん迷井豆腐さんが手掛けた小説がすべてのベースになっています。それに加えてコミック版も参考にさせていただきました。コミック版は原作の拾い上げ方に特徴があると思っていて、例えばアクションの見せ方はコミックならではだし、ストーリーの見せ方だと思い切ってショートカットしている部分もあります。アニメは原作小説を元にしつつ、コミックとはまた違った、アニメとしての面白さが出せるように制作しています。

――平池監督はシリーズ構成も担当していますが、ストーリーの組み立て方という点ではどんなことを意識しましたか?

基本的に原作物の場合は自分でシリーズ構成も手掛けるようにしています。意識しているのは、多くのキャラクターをバランスよく立たせることです。あとはアニメにすることによってプラスとなる原作の要素を見つけ出すこと。当たり前のことですが、絵が動き、声が付き、音楽が乗ります。こういったアニメならではの表現が活かせるところを見つけて、切り出し膨らませたり、逆にショートカットしたり。作品全体の調整をシリーズ構成の段階から判断するために自分で行なっている作業です。

――アニメならではの表現が活かせるなら、コミック版との違いも生み出せますよね。

コミック版はアクションシーンを立てていて、構図も非常に上手で思わず唸る場面があります。しかしそれらをアニメで踏襲すると、アクション一辺倒で単調になるし、制作も大変になってしまうケースもあります。例えば、それよりもヒロインのかわいい一面を見せたり、日常の愉快なシーンだったりを立てることでアニメとしての『黒の召喚士』の在り方にしていっているつもりです。

――サウンドや楽曲の面では、なにかこだわりはあったのでしょうか。

バトル中の楽曲だけを切り取っても、ジャンルがバラけるようにお願いしました。例えばロック調の楽曲が得意な方だと、そのジャンルに集中しがちですが。本作に関しては方向性やジャンルを多彩にして、バトルごとにまったく違う表情を見せるように考えています。

バトルシーンは「ありきたりなシーンにはしたくなかった」

――映像の面では、どんなこだわりを持って制作していますか?

重要なアクションシーンは大部分がCGで構成されていて、ここは特にこだわったポイントでもあります。純粋に格好いいアクションシーンを見せるために本作ではCGで描くのがベストだと考えたのと、以前『ReVdol!』というバーチャルアイドルの映像に携わったのも理由のひとつとしてあります。『ReVdol!』ではアニメとは違った。別の業界のCGのワークフローを学ぶことができて、これはアニメでも活用できると感じたのです。

そしてもうひとつ、なんといっても『黒の召喚士』の制作スタジオはサテライトですから。少なくともロボットアクションのCGに関しては屈指の力を持っていますし、それを活かさない手はないだろうと。サテライトは人間のキャラクターをCGで動すことは多くはないのですが、今回『ReVdol!』で学んだノウハウと組み合わせれば、新しい境地へ道が開けるのではと思いCGアクションを多く活用しています。

――バトルシーンは特に注目ですね。

そうですね。ありきたりなシーンにはしたくなかったのが一番の思いで、サテライトのCGであれば、これまで表現できなかったアクションも可能になるはずと考えました。
その一方で、CGを使っただけでは格好いいシーンにはならないことも分かっています。格好良くするためにはどうすればいいのか、音楽や撮影チームのちからも借りての挑戦のつもりです。

――「サテライトだから」と安易にCGを選択したわけではなく、格好良さを追求した結果だと。

CGを使うことによって表現の幅が広がったと思うアイドルもののライブシーンのように、『CGの可能性』をゴンゾの頃からハイブリットアニメを作ってきた一人として、アクションのフィールドもCGによって進化する。そう考えての武器と考えています。
原作の持つバトル物としての面を独自の映像化でカッコ良くしたいですから。

――実際に人間のキャラクターをCGで動かしてみての手応えはいかがでしたか?

ロボットやモンスターとは違った動きになってくるので、当然独自の難しさはあったと思いますが、デジタル部が仕上げてくれているモーションなどには、手応えを感じています。特にゲームなどでCGを見慣れている若い世代にとっては、当たり前のよく動く戦闘シーンだと思います。逆に40代以上のアニメファンからすると、CG戦闘シーンにまだ違和感のある方も多いかもしれません。そんな違和感を忘れさせて、カッコいい!と没入して見てもらえるよう私たちは力をかけており、ぜひ注目してもらいたいところです。

――もちろんCGだけでなく手描きの部分もあるかと思いますが、そちらのキャラクターの動かし方という点では、なにかこだわりはありましたか?

動かし方と言われると真っ先に思い浮かぶのはスライムのクロトですね。ただただ弾んでいるだけですけど、それがかわいくて(笑)。特に第1話はある意味で立派なスライムアニメになっているつもりです。

確信を持って決めたメルフィーナ役

――キャラクターに関しては、どのように魅力を引き出そうと考えましたか?

まず、原作イラストの雰囲気を忠実に再現すれば魅力は確実に引き出せます。
そのうえで、本作にはちょっとめずらしい特別なキャラクターもいました。
転生神のメルフィーナですが、彼女は通常姿が見えません。(たまにシルエットが出ますが)
だからアニメでは基本“声だけ”の存在になります。そんなメルフィーナを「姿が見たい」と思わせる存在感をどう出すか? ストーリーが進むに連れてヒロイン達が増えていく中で、メルフィーナをどう立たせるか、視聴者にどう興味をもってもらうか?は度々考えました。

――メルフィーナの場合、ビジュアルでインパクトを残すのは難しいですからね。

そうなんです。だからキャスティングも超重要と考え、上田麗奈さんに決まったのは自分のこれまでのなかでも、かなり綱渡りの選択でした。
オーディションの段階で、上田さんが別役を受けに来てくれることは予定にあり、メルフィーナ役も可能性があるだろうと、予定役以外にメルフィーナを受けてもらうつもりでした。しかし、スケジュールの都合で彼女はテープオーディションになってしまい、予定役の音声のみ届く形に。「メルフィーナとの、縁はなかったか…」と、上田さんの可能性は一度ないものとして受け入れていました。ですが、その後もなかなかメルフィーナ役が決まらず。そんななか、まだ上田さんに少し引っ掛かっている(可能性を感じている)旨をキャスティングスタッフに相談したところ、背中を押してもらったことで、今回の配役に至っています。オーディションでは遂に役としての声を聞くことはできませんでしたが、1話の収録で「間違っていなかったな」と確信し安堵しました。

――監督としての直感を信じてのキャスティングだったと。具体的に、上田さんのどこにメルフィーナとの相性を感じたのでしょう。

メルフィーナはお姉さん的なポジションのキャラクターではありますが、年上感が他のヒロイン達より大人過ぎて欲しくなく。少し愉快なお姉さんでありつつ、神様であることも許され、ちゃんとヒロインであること。そのイメージに今この時にフィットしていたのが上田麗奈さんでした。彼女のほわんとした緩いお姉さんの声質が、私の心に引っかかっていたメルフィーナさんだったのだろうと思います。

――上田さん以外のキャストに対する印象はいかがですか? 例えばケルヴィン役の内山昂輝さんとか。

私の方から内山君に求めていたのは「しっかり三枚目を演じてほしい」ということでした。ケルヴィンが異世界にきてドタバタする様子を、明るいドラマとして描きたいと考えていたのです。
彼は三枚目を上手く演じてくれると思っていましたが、近年世間一般では二枚目を演じる印象が強いと思います。そんなイメージを崩すほどの芝居を期待していて、内山君も見事に応えてくれました。

あとは受付嬢のアンジェを演じてもらった稲垣好さんにも注目してもらいたいです。稲垣さんの声がとにかくオーディションでアンジェのイメージにぴったりで決めたのですが、後日、原作者の迷井さんも「アンジェっぽさならこの方が一番」と言っていたと聞き。私のイメージするアンジェは間違ってないようだな。と嬉しくなりました。稲垣さんはアニメでシリーズレギュラーの名付きの役を担当するのは今回が初めてとのことですが、アンジェと縁の強そうな彼女を見つけられて、オーディションの良い成果でした。

――では、これから放送される本作について、あらためて注目してもらいたいポイントがあれば教えてください。

今回アニメ化できるのは、『黒の召喚士』の原作小説のほんの一部です。アニメから入ってくれたファンの方々には、小説であり、コミックもある「その後の物語」を楽しんで頂きたいと思います。どうぞ、ケルヴィン達の活躍にご期待ください。

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(C)迷井豆腐・オーバーラップ/黒の召喚士製作委員会