『D4DJ First Mix』水島精二監督インタビュー 「DJプレイで嘘をつかないことが絶対のテーマ」

TVアニメ

2020年10月から放送がスタートしたTVアニメ『D4DJ First Mix』。ブシロードが『BanG Dream!(バンドリ!)』などに続くメディアミックスとして世に送り出した作品だ。転校したばかりの高校でDJを始めて知り興味を持った愛本りんくや、DJ活動に熱心に打ち込む明石真秀など、多彩なメンバーが音楽を楽しみながら成長していく姿が描かれている。

そんな本作のアニメ監督、そして作中に登場するユニットのひとつ「Photon Maiden」の音楽プロデューサーを務めるのが水島精二氏だ。今回のインタビューでは、自らもDJパフォーマンスを披露する同氏に『D4DJ』というプロジェクトがどう映ったのか、そしてアニメのこと、楽曲のこと、さまざまな質問をぶつけてきた。

大きなプロジェクトに参加するのは新しい挑戦だった

――今回、『D4DJ First Mix』の監督を務めることになった経緯から教えてもらえますか?

もう2年くらい前ですかね。アニメーション制作を担当しているサンジゲンの松浦くん(松浦裕暁氏)から話をいただいたのがきっかけです。そのときは「ブシロードの『バンドリ!』に続くメディアミックスとして、DJがテーマの作品を作ります」と。僕は以前からアニソンDJをやっていますし、3DCG作品の経験もあるのでオファーに至ったみたいです。

――それで引き受けることになったと。

いや、そのタイミングでは「前向きに考える」に留めていました。というのも、他のプロジェクトでの声優の交代に強い違和感を感じていて。僕はアニメ監督ですから、作品の為に役者と向き合うのも大きな仕事です。なので、ブシロードとして役者をどう考えているのか、どう取り組むのかが納得できないとお断りするしかないなと思っていました。ですが、
木谷会長とお会いする席が設けられ、単刀直入にその事をぶつけると、しっかりとしたビジョンを説明していただき、それが納得のいくプランで。その時に自分の監督としてのスタンスも見えたので、監督を引き受けることになりしました。

――『D4DJ』というプロジェクト自体に対する印象はいかがでしたか?

僕はこれまでアニメが中心にあって、そこからいろいろと派生する作品を担当することが多かったんです。しかし今回の『D4DJ』は最初からメディアミックス前提で、アニメはその一部という位置づけでした。
権限の母体はブシロードであって、僕自身の権限は以前より少ない。これは僕にとって新しい挑戦ですし、この歳で大きなプロジェクトに参加できることに刺激を受けました。プロジェクト内のアニメ監督・一ユニットの音楽プロデューサーという枠で、どこまで僕の意見を伝えるかの挑戦はとても新鮮です。

――ただ、その当時はまだまだプロジェクトが形になっていない時期ですよね。

ゲームのシナリオ制作が始まったばかりで、ゲームでなにを描くか、アニメでなにを描くかはほとんど決まっていませんでした。だから逆にこちらから、アニメはどのユニットをメインで描きたいかアイディアを出す余地があった状態でしたね。
ゲームを開発するDonutsさんとも打ち合わせを重ねながら、このユニットはアニメで、こちらはゲームで描きましょうと決めていきました。ユニットごとの役割分担が明確だったので、プロジェクトがおぼろげとはいえ苦労することはあまりありませんでした。

――アニメで描くユニットを決める際の基準はあったのですか?

もちろんブシロードの意見を最優先にしつつ、僕がこだわったのは同じ学園に登場して違和感がないことです。制作の工程上、同じ学園内で物語が動くほうが3Dのクオリティも上げやすくなります。外に出ると、それだけたくさんの3D素材を作ることになりますからね。

――水島監督は過去にも3DCGを使用した『楽園追放』を制作してきましたが、『D4DJ First Mix』との違いはなにかありましたか?

両作品ともに3DCGメインで制作しているので制作上の大きな違いはありません。劇場版とTVアニメの違いは長さと構成の仕方で、TVアニメ1クールなら20分×13話、映画であれば90〜120分の1話です。当然各々のエピソードの組み立て、構成も自ずと変わってきます。どちらも脚本制作段階からCG制作のことを考えて、頻繁にいろいろな場所へ移動するよりかは、なるべく共通の場所を舞台にするようにしています。しかし同じ場所ばかりだと飽きられてしまうので、場所の使い方を工夫したり、違う舞台も用意しつつ…といっても、D4DJは学園が舞台なので、そんなに移動をしなくても違和感はありません。むしろ、この子たちがいつもここにいる安心感みたいなものを演出しています。

――キャラクターについてはいかがでしたか? 本編を見ていると、CGだけどアニメ的な表情が印象的でした。

確かに、表情の豊かさはかなり意識しています。本作はコメディ要素も強い作品なので、シリアスな表現よりもコロコロと表情が変わること、それをテンポよく見せることを自分なりのテーマにしていました。
この作品に限らず、セリフを喋らせる前から感情の変化をカメラに捉えることが自分の演出手法であって、それは3Dでも変わらないです。本当に細かい変化にも気を使っているので、ぜひ大きなモニターで確認してもらいたいですね。

――作品としてはDJがメインのテーマになっていますが、こちらはどのように描こうと考えましたか?

DJプレイに関しては嘘をつかないことを絶対のテーマにしています。DJが一体なにをやっているのかを説明するために、実際のライブで楽曲をつないでいる様子を録画して、それに合わせて映像を作っていく作業もしました。
今のDJは多くの人がトラックメイカー、曲を作る人が自分の曲をかけたり、ミックスしたりしているんです。そういったDJが実際に行っている作業を物語の中心に据えることが前提としてありました。最初から知識のある真秀はもちろん、りんくが音楽に触れて、音楽を作りたいと思う初期衝動に駆られるのもDJの作業を忠実に描きたい思いからきています。
その中でユニット同士のライバル感や、りんくのポジティブな性格で他の人との繋がりを担うところも描けるように注意しています。

――りんくはDJに関しては初心者で、多くの視聴者と同じ目線で話ができる貴重なキャラクターですよね。

りんくがDJシーンやカルチャーをあまり知らなくて、分からないからこそ真秀のやっていることに興味を持ったんですよね。一方の真秀も、自分自身にできること、できないことを自覚していて、できないことに挑戦してもなかなかうまくいかない。そして挑戦を実現するために必要な存在としてむにや麗が絡んできて、4人にはそれぞれに異なった視点があり、やるべきことがあるのは狙って描いた点です。

――真秀もまた、経験者ならではの視点で描かれていると。

真秀がつぶやくセリフって、そのほとんどがDJ経験者なら誰もが感じたことだと思います。DJで一番肝が冷えるのは音が止まることだし、どんなに準備しても当日になると頭が真っ白になることだってあります。
逆に真秀にとっても憧れのDJパフォーマンスはありますし、「誰でも簡単にDJができる」という描き方はしていません。
僕自身DJをやっていて、音楽ももちろん好きなので、作中でDJの立ち位置をしっかりと見せてあげたいんです。

――立ち位置という意味では、すべてのユニット、すべてのキャラクターになにかしらの役割があると思うんです。TVアニメの限られた時間で、全員をどうやって描こうと考えましたか?

ユニット内での位置関係がありますけど、どういう組み合わせを見せたら面白いかは、ある程度パターン化しているんですよね。でも、別のユニットの似た立ち位置にいるキャラクター同士を組み合わせたらどんな化学反応を起こすかは未知の領域で、僕らとしてもいろいろと試す余地がありました。
このユニットのクール担当と、あっちのユニットのクール担当が絡んだらどんな会話になるかとか、考え始めたら可能性は無限大ですし、面白さがありますよね。

――一言でクール担当といっても、みんな少しずつ性格は違いますしね。

そうなんです。面白いのは、しのぶと渚が同じおじいちゃんを持つ親戚で、ゲームのショートストーリーではかなりしっかりと描かれているんですよね。残念ながらアニメで深堀りすることはできませんでしたが、しのぶと渚とおじいちゃんの会話って想像するだけでワクワクするし、後々描く機会があったら美味しく下敷きにさせてもらおうと思っています。
出来上がった素材をさまざまな角度から調理できるのも、『D4DJ』のような大きなプロジェクトの醍醐味ですよね。

――まだまだ描くことの余地があるというか。

余地があるというと聞こえはいいですけど、そもそも僕も知らないことがたくさんあって(笑)。「こんな設定あったんだ!?」と驚くこともあれば、アニメの影響でゲームに変化があったり、役者に引っ張られてキャラクターの個性が付いたり、日々新しい発見があります。

――演じる声優によって性格が変わることもあったんですね。

例えばノアは当初物静かな文学少女という設定だったのですが、演じる佐藤日向さんの声が乗ると、もっと我の強い性格でもいいかな、と変わっていきました。ここは僕自身、変化を加えたほうが乙和との差別化もできると思ったんです。するとアニメ以上に、ゲームのほうがノアの新しい性格を汲み取ってくれて、当初とはだいぶ違ったキャラクターになったみたいです。

――ちなみに、ブシロードとサンジゲンがタッグを組んだ作品は『BanG Dream!』などありますが、参考にはしましたか?

申し訳ないんですけど、ほとんど見てないです。唯一見たのが、年末の『BanG Dream! 2nd Season』の一挙放送で、ちょうどたえがRAISE A SUILENに引き抜かれるかも、というシーンでした。僕は見ていて面白いと思ったのですが、中には心配になってしまった視聴者もいたみたいで。
だから『D4DJ』では何週にも渡って悩むシーンは入れてないです。他の僕の作品なら闇落ち、裏切り当たり前なんですけど(笑)。

Happy Around!はもっと大きな可能性を秘めている

――エンディング曲が「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」だったことには驚きました。こちらはどういった経緯で決まったのですか?

完全にブシロード側の意向です。ストーリー上はかつてのレジェンドユニットがいて、それを見た子どもたちが憧れて、やがて集まるという構造になっています。伝説的なユニットが存在するのは最初から決まっていたのですが、どんな楽曲を歌うかは決まっていなかったんです。
まずは僕たちから候補になりそうな楽曲をいくつか提案して、それをイメージしながらアニメを制作してたら、あるとき「小室哲哉さんの楽曲が使えます」と連絡がきて。

――それが「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」だったと。

驚きましたよね。小室哲哉さんと聞いて、まずはTRFのアップテンポな楽曲を想像してたら、次に出てきた言葉が「『WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~』です」って(笑)。想像よりもゆったりとしたテンポの楽曲だし、どうなるのか不安もありましたね。
いつもは自分から提案した楽曲を作ってもらって、それに合わせて映像を作るものなんです。でも今回は楽曲と映像の制作が同時進行だったので結構ヒヤヒヤしました。

――エンディングだけでなく本編でも「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」を使っていて、ストーリーにおける重要性を物語っていますよね。

まず第1話冒頭では、ライブで1曲聞いたようなボリュームを見せたいと考えました。「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」は大きな展開が少ないメロディなので、使っているパートは全部変えてライブ感を出しています。
次に学校の放送でかかるときは、きっかけがこの曲ですよと視聴者に伝えたかった。「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」を知らない世代にも刺さるようにしたかったんです。逆に知っている世代からすると、「なんで何回もかけてるんだ」と思ったかもしれないですけど(笑)。

――「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」以外にも各ユニットが多彩な楽曲を持っていますけど、アニメの中でどのように散りばめていったのですか?

まずはファンに刷り込まれている楽曲をしっかり使っていくのが第一でした。Peaky P-keyの「電乱★カウントダウン」はまさにそれですね。
例外がHappy Around!です。彼女たちが出会って、曲を作るところから始めなければいけなかったので、なぜその曲を作ったのか、理由とキャラクターの結びつきを考えるところがスタートでした。

――楽曲そのものに対してはどんな印象をお持ちですか?

各ユニットごとでしっかり特徴を捉えていますよね。Photon MaidenとMerm4idがDJ文化を担っていて、それにロックを取り込んだ燐舞曲がいて、Lyrical Lilyはアイドルらしさがありながら癖の強い楽曲もあって、今後が楽しみですね。
Peaky P-keyは一昔前のユーロビートを思い出すこともあれば、「Wish You Luck」のようなシンプルなビートとメロディのパワーでとてもいい曲に仕上がっているものもあります。あれはPeaky P-keyの最高の一面を出せていると思います。

あとはHappy Around!がどこまでワチャワチャと、たくさんの方向に広がっていけるかだと思います。その一端をアニメが担えたらと思いますし、僕としてもダンスミュージックからEDMまで、幅広くアニメの中で使っています。今はまだ明るく楽しい曲が中心になっていますけど、僕はもっと大きな可能性を秘めていると思います。

――Photon Maidenに関しては、水島監督自身が音楽プロデューサーを務めてますよね。

初期のころからユニットごとに音楽プロデューサーが就くことは決まっていて、僕も冗談半分で「自分もやりたいなぁ」と言っていたんです。するとあるとき、「監督がやりませんか?」と話が舞い込んできたんです。
僕が所属しているマネージメント会社の一二三には音楽の先輩にあたる人がたくさんいて、アドバイスをもらいながらプロデュースしてます。特に社長からは「やるんだったらプロデュースだけでなく、ディレクションも全部やったほうがいい」と言われて、今ではレコーディングも全曲立ち会ってますし、歌割りも自分で考えています。

――そもそも、なぜ音楽プロデューサーを務めることになったのですか?

Photon Maidenは初期の資料に『正体不明で、未来を感じさせるユニット』とあったので、まずはエレクトロだろうと方向性を決めました。あとは一二三の作家からエレクトロが得意な人を集めて楽曲を作りました。僕よりも彼らのほうが知見は深いので、ひたすらキャッチボールでしたね。
例えば『シドニア』のカバーを作るときに「原曲よりもハードな感じにしたいからダブステで!」とお願いしたら、僕の想像するダブステよりも、彼らが想像したダブステのほうが遥かに重く、ハードだったみたいで。そういったニュアンスについても日々勉強というか、いろいろと教えられながらのプロデュースです。

――では、アニメの監督として、音楽プロデューサーとして、『D4DJ』がどのように成長していくか、予想や展望があれば教えてください。

みなさんに楽しいと思ってもらえる仕掛けを考えたり、作品として昇華するのが僕の仕事だと思っています。
プロジェクトの中で切磋琢磨できる環境を与えてもらったわけですし、今後も仕事が与えられるのであればベストを尽くしたいです。

リアルライブに関しても、今はライブの体裁ですけど、例えばパーティとか違う形になっていくのも面白いと思います。ただ、一足飛びですぐに実現することでもないので、徐々に拡張していくことになるんでしょうね。
コンテンツ全体が成長している感触は僕をはじめスタッフにもあります。さらにゲームやライブといったアニメ以外のメディアにも影響が及ぶので、やりがいは本当にあります。そんなプロジェクトに携われているのは自慢になりますよね。

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