下野紘、朗読劇と音楽、映像が融合した唯一無二のライブを開催。3時間以上に及ぶ熱狂と感動のステージレポート

イベント

5月27日。東京国際フォーラムにて「Hiro Shimono Special Reading LIVE 2023 “邂逅地点”」が開催された。 声優・下野紘による、アーティスト活動の集大成とも言えるこの公演は、朗読劇と音楽ライブ、映像が融合した唯一無二のコンテンツで、満員に膨れ上がった会場のファンたちを魅了した。今回は、3時間以上にも及んだ熱狂と感動の様子をレポートする。

照明が落ち、暗闇のなかでライブの始まりを静かに待つ観客たち。スポットライトが灯ると、そこには台本を片手に佇む下野の姿が。すぐに「新谷誠、36歳、B型……」と、朗読劇が始まった。下野が演じるのは、売れないピン芸人・ 新谷誠。音信不通の父親へのわだかまりや、元相棒への複雑な想いを背負った、ともすれば陰気臭いキャラクターだ。しかしそんな悲壮感漂う中年男ですら、下野が演じると一転して愛されキャラに変貌を遂げてしまうから驚きだ。息つく暇もない怒涛のモノローグは、下野にしかできない唯一無二のヘタレ演技を通じて、哀愁とコミカルが渾然一体となる。観客は大いに笑いながら、気づけば物語世界へと深く導かれていくのだ。

下野がすごいのは、新谷誠としての芝居だけではない。父親や元相棒、探偵、運命の女性……これらの登場人物を瞬時に演じ分けることはもちろんのこと、地の文によるモノローグとセリフの掛け合いがシームレスに混在する超絶難度の台本を、ことも無げに乗りこなしていく。観客の視線を一身に受け、ミスが許されない状況のなか、最後まで我々の心を掴んで離さない圧巻のパフォーマンスは特筆モノだ。20年以上に渡り第一線で活躍してきた声優・下野だからこそ成し得た芸当に違いない。さらには、ときおり台本から目を離し、細かな仕草や表情を加えてセリフをキメるなど、身体を使った芝居も印象的。「声優」という枠に縛られない、声以外の表現力の豊かさは、下野の新たな可能性すら感じさせるものとなった。

一方で、朗読のほかにライブと映像があるのがリーディングライブの特徴。ライブはシナリオの展開に合わせ、「Blue Moon」、「ストーリー」、「邂逅地点」の3曲を披露。また映像では、下野が新谷役を演じており、「俳優」としての魅力が堪能できる。台本なのかアドリブなのかすら分からない自然体な芝居に、しだいに現実と虚構があいまいになっていく感覚を覚える。

こうして、朗読をする下野と歌を歌う下野、映像に登場する下野が入れ替わりながら進行していくリーディングライブ。面白いのは、新谷誠という架空のキャラクターを演じつつも、どこか下野本人のように思えてくる点だ。下野のキャラクターをよく知る川尻恵太の脚本もさすがだが、芝居であることを感じさせない下野の役者魂もまた素晴らしいの一言だ。

リーディングライブもいよいよ佳境へ突入。「邂逅地点」というタイトルが示す通り、新谷誠は数奇な運命に翻弄されつつも、導かれるように感動的な結末へとたどり着く。下野のコメディ演技に大笑いしていた観客たちも、いつしか目元に涙を浮かべている。下野紘の世界と朗読劇の世界、そのどちらにもどっぷりと浸るこの感覚こそ、リーディングライブならではの醍醐味だ。こうして2時間近くにも及んだリーティングライブは、大きな拍手に包まれながら幕を下ろした。

ここからは、観客が立ち上がってのライブパート。リーディングライブでは一切のMCを封印していた下野が、ここぞとばかりに喋りまくる。会場に飛び交う「可愛い〜!」という声援に照れつつも、ファンとのコミュニケーションを存分に楽しむ姿が印象的だ。

ライブでは「Running High」、「WE GO!」、「Soul Flag」など、ヒットナンバーを惜しげもなく披露していく下野。リーディングライブで喋り倒した直後とは思えない伸びやかな声とキレッキレのダンスで、会場のボルテージは最初から最後までずっとMAX状態。このライブを最後にアーティスト活動をいったん休止する下野だけに、この会場にいる誰しもが「今のこの瞬間を絶対に忘れない!」と思っていたことだろう。一曲一曲を慈しむように、それでいて情熱的に歌いあげる下野のパフォーマンスは間違いなく過去最高レベルで、会場は熱狂の渦に巻き込まれていく。

そしてそんな素晴らしい時間も、ダブルアンコールの末についに最後の時が訪れる。「I’m Home」を歌う下野は、笑いながらも涙を堪えているように見える。そしてそれは、ファンもまったく同じだった。「大好きだ!」を連呼して、名残惜しそうにステージを去る下野。しかし、会場を包む拍手は鳴り止まない。誰一人その場を去るものはいなかった。すると下野が再び登場し、満面の笑みを讃えて「素敵な人たちめ!」と叫び、再びデビュー曲「リアル-REAL-」を歌う。こうして3時間以上に及ぶ熱狂と感動のステージは幕を下ろした。一夜限りの一発勝負で、声優としての力量とアーティスト活動の集大成を存分に見せてくれた下野紘。ファンにとっては、一生忘れられないライブとなった。

公式サイト