『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』スマット役・福山潤さんにインタビュー! 大人の価値観を子供に押し付けないのが『シンカリオン』らしさ

TVアニメ

2021年4月から2022年3月にかけて、約1年に渡る放送を終えたテレビアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』。『新幹線変形ロボ シンカリオン』のテレビシリーズ第2弾として砦柵された本作は、新たなシンカリオン「シンカリオンZ E5はやぶさ」の運転士・新多(あらた)シンと、シンカリオンZの整備士・碓氷(うすい)アブトの活躍と成長が描かれた。

今回は、本作のマスコットキャラクターであるスマット役・福山潤さんにインタビューを実施。シンやアブトたちを支える役どころをどのように演じたのかを伺った。

前作のシャショットにもあった遊び心を忘れずに

――本日はよろしくお願いします。まず、約1年に渡る放送を終えた現在の心境から教えてください

収録が始まったころはすでにコロナ禍の真っ只中で、これまでに経験したことのない状況で走り抜けた印象です。1クールや2クールのアニメでも大変なのに、4クールの作品をこれだけのクオリティで送り出せたことは感慨深いですね。決起集会も打ち上げもできないながらも、みんなと価値観を共有し、みんなと一緒に作れたというのは、なにか痺れるものを感じます。

僕が演じたスマットは声に加工が入るため、他のキャストの皆さんとは別室で収録していたんです。だからシン役の津田さんやアブト役の鬼頭さんの背中を見ながら収録する構図になり、他の方々を見守りながら演じる、ちょっと不思議な体験でもありました。

――1年前、『シンカリオンZ』への出演が決定する前は、シリーズに対してどんな印象を持っていましたか?

『シンカリオン』って、アニメ化される以前は電車の中でPVを流していたんですよね。それを見たのは覚えていて、「とうとう新幹線が変形するのか」と吊り革掴まりながら感動した記憶があります(笑)。

アニメの前作も観ていました。さすがに毎週ではないのですが、朝テレビをつけると放送しているんですよね。
当時はまだまだ「子供向けのアニメ」という印象を持ちながらの視聴でしたが、実際に観てみるとものすごくハードなストーリーで驚きました(笑)。アニメの作り方って、子供向けなら子供向け、大人向けなら大人向けと特化しがちだと思うんです。だけど『シンカリオン』は両方の世代をカバーしようと描いている。勝手な決めつけはいけないんだと勉強させてもらった気持ちでした。

――実際に出演してみて、ファンからの反響はなにかありましたか?

『シンカリオンZ』の力を感じたのは、現場にいるスタッフの方々のお子さんが観ているケースが多かったです。今までは「息子が観てます」と言われても、年齢は10代だったんです。それが今回は本当に小さいお子さんからも応援していただけました。しかもそれをお母さん、お父さんの立場から伝えていただけるのは嬉しかったですね。子供だけでなく、大人の世代も『シンカリオンZ』をしっかり認識しているというのは、作品の凄さであり、新幹線というコンテンツの凄さでもあると思います。

――ご自身が演じたスマットに関しては、どのような印象をお持ちでしたか。

オリジナルアニメということもあり、このマスコットキャラクターがどこまでストーリーに関わってくるのかワクワクしていました。とはいえ主軸はシンとアブト、そして2人を取り巻く大人たちという人間の物語だと思っていたので、スマットは視聴者と作品の架け橋として機能できればと考えていました。その意味では実際の作品でも、スマットの役目は果たせたのかなと思います。

――約1年間の収録の中で、印象の変化はありましたか?

前作ではうえだゆうじさんが演じるシャショットがマスコットキャラクターとして登場しており、スマットもシャショットと同じ方向性で行ってほしいとスタッフの方々からディレクションを受けていたんです。
ただ単にうえださんの演技を真似ろというわけではなく、主人公たちを支える姿や遊び心を僕なりに表現してほしいという話でした。

そんなお話をいただいた上での演技は、最初こそ手探りだったものの、徐々に「遊んでいいところはとことん遊んでいい」ということが分かりました(笑)。

――スマットは普段の姿に加えて、シンカリオンZ変形後のスマットでは違った演技になりましたよね。

実はオーディションの段階から変形時の声も演じていたので、どんなものかは分かっていたんです。とはいえ苦労することも多く、中でも「ゼット」の発音はいろいろなパターンを試しました。最初は熱血キャラで演じたのですが、音響監督の三間さん(三間雅文氏)から「シンを見守る“巨人”であってほしい」と言われたんです。
ロボットアニメとしての勢いを保ちつつ、主人公を見守る冷静さもほしいということなのですが、言葉にされるとより難しくて(笑)。いきなり答えが出たのではなく、1年間を通してちょっとずつちょっとずつ答えに近づいていった感覚です。

――やはり長期間の収録だと、修正するべき点を見つけながらの作業だったのですね。

それは間違いないのですが、コロナ禍で難しかったポイントでもあります。分散収録のケースもあり、なかなかコミュニケーションが取れず、なにが正解なのかわからない場面もありましたから。

特に台本に書かれていない細かなニュアンス、ちょっとした遊びを入れたいときは苦労しましたね。以前ですと役者側で「遊んでいい雰囲気」みたいなものが出来上がるのですが、それもなかなか感じられず…。だから津田さんが同じ現場にいたときは、ここぞとばかりにおふざけの相談をしていました(笑)。

――マスコットキャラクターという独特の立ち位置も、演じるのは難しそうに感じます。インパクトを残しつつ、でも主人公より目立つわけにはいかないじゃないですか。

決して人間っぽくならず、異質なものであることは外さないように心がけました。人間ドラマの中だと浮いてしまいますが、むしろ浮いてもいいんです。それを当たり前に演じることで、スマットという存在自体も当たり前になっていくと思うんです。異質なものであるからこそ、シンやアブトの内面に迫る言葉をかわしたとき、説得力が強くなるのです。

人間ぽくない違和感をあえて表現するのはスマットに限らないです。他の作品でも、人間以外のキャラクターを演じるときは常に意識しています。この演技がうまくいくと、作品の空気を引き締めることもできるんです。
普段はマスコットキャラクターであるスマットが、ふと核心に迫る言葉を発したとき「今はストーリー上重要なシーンなんだ」と視聴者の方が自然な形で気づけるんです。

物語が終わった今だから分かる「人の夢を笑うな」の美しさ

――これまでのエピソードを振り返って、特に印象的だったお話はありますか?

個人的にはシンたちがテオティと触れ合い、駅弁を食べるシーンが好きでした。物語も終盤で、次のエピソードではハードなバトルも控えている中で、日常の一コマが描かれるんですよね。テオティは駅弁を見るのも初めてで、最初は警戒しつつ、最後は美味しく食べる。そんな当たり前のやり取りが楽しかったですね。

あとはアブトの第一声、「人の夢を笑うな」というセリフ。このセリフって、多分大人には言わせられないですよね…。大人の発言にすると、どこか説教っぽくなって、ストレートに聞けないと思うんです。だけどアブトという少年が言うことで、心に突き刺さってくるんです。
放送当時はなんとなく聞き流したセリフでも、1年経って振り返ると、とても素敵な発言ですよね。そしてなにより、これをアブトのセリフにしたスタッフの方々の選択も素敵です。

――振り返ってみると、あのセリフで『シンカリオンZ』の方向性が決まったのかもしれませんね。

いつか宇宙人と友達になることが夢のシンがいて、そんな夢を笑うなと言ってくれるアブトがいて。そしてアブトが、実はシンの夢の対象だったという流れは、物語が終わった今だから分かる美しさですよね。

――『シンカリオンZ』は『エヴァンゲリオン』シリーズ、『銀河鉄道999』などのコラボも目立ちました。

僕の世代だと、こういったコラボが頻繁に行われるのは本当に珍しいことで、毎回驚いていました。IPの管理はどこもデリケートなはずなのに、なぜか『シンカリオン』シリーズは難しいハードルを簡単に超えていくんですよね。
特に『銀河鉄道999』は、コラボが実現しなかったらどうやって宇宙に行ったんだろうと思いましたよね(笑)。あとは「シンカリオン ハローキティ」が登場したとき、その回の収録では背筋を正して聴いていましたね。そんなことが1年間、連続して起こっていたので、不思議な体験をしている気分でした。

――『シンカリオンZ』への出演を通して、経験できたこと、勉強できたことはなにかありますか。

言葉を知るって重要なことだと思っていて、その意味では鉄道に関する用語を知れたことはとてもいい経験でした。鉄道のマニア度を測るのに「鉄分」を使うのはカルチャーショックでしたね(笑)。
だけど「鉄分」っていい言葉だと思うんです。人間にとって必要な栄養であると同様に、鉄道ファンにとっても必要不可欠なものです。ファンが作る言葉って、実はすごく理にかなっていて、だから多くの人に根付くんだなと改めて感じました。

――では、実際に出演してみて『シンカリオン』らしさはどこにあると感じましたか?

劇中には島さんや十河さんといった大人のキャラクターも大勢登場しますが、大人の価値観を子供に押し付けないんですよね。これは音響監督もずっと言い続けていたことで、大人が子供と話すとき「命令にならないでください」というんです。命令っぽい言い回しだと、子供たちを無理やり戦場へ送り込むニュアンスになってしまいます。

でも、『シンカリオン』は大人たちができないことを、子供たちにやってもらう構造なんですよ。だからこそ、登場する大人たちはみんな子供たちを守ろうとする責任感を抱いているんです。『シンカリオン』シリーズに共通するハードなストーリーが受け入れられているのは、子供が決して命令で動かず、自らの意志で戦うこと。それを大人たちが全力でサポートすること。これは間違いなく、スタッフの皆さん、そして僕を含めたキャストの皆さんが守っている『シンカリオン』らしさだと思います。

――テレビ放送が終わったとはいえ、配信などでこれから視聴する人もいるかと思います。そんな人に対して、まずはどんなところに注目してほしいですか。

『シンカリオンZ』だけを観ていただくのであれば、続編らしく“シンカリオンとはなんぞや”という基礎的な説明が省かれているので、それはむしろ観やすさに繋がっていると思います。その分Z合体など、新しい設定に力を入れていますし。
とはいえ、前作のキャラクターも登場する作品ですので、欲を言えば1作目から通して観てもらいたい気持ちもあります。歴代の主人公が共演する瞬間のカタルシスは格別のものだったので(笑)。

――今後も『シンカリオン』というコンテンツは続いていくと思います。1人のファン、1人の視聴者という視点で、今後の展開にはなにを期待しますか?

コンテンツ自体は市民権を得たと思うので、いろいろなチャレンジをしてほしいです。新幹線が人型の巨大ロボットに変形するだけでなく、例えば動物型だっていいと思いますし、他の選択肢を否定しなくてもいいはずです。
シンやアブトの話だと、彼らが大人になったところを見てみたいですね。果たしてシンカリオンとどんな関わり方をしているのか、あるいは関わっていないのか…。それこそ島さんや十河さんの立場になって、新たな運転士を迎え入れる瞬間も見てみたいです。

――分かりました。では最後に、1年間作品に寄り添ってくれたファンへのメッセージがあればお願いします。

1年間本当にありがとうございました。こうして無事完走できたことを嬉しく思い、そしてホッとしているところです。演じる側として、「人の夢を笑うな」から始まった素敵な物語を味わえたことはとても幸せな体験でした。皆さんの人生においても、『シンカリオンZ』がエッセンスになってくれたらとても幸せです。

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