『アサルトリリィBOUQUET』音楽・松田彬人「自分の楽曲が『こんな使い方ができるのか』と驚かされました」【連載インタビューVol.4】

TVアニメ

2020年10月から放送がスタートしたTVアニメ『アサルトリリィBOUQUET』。本作は、1/12アクションドールシリーズ「アサルトリリィ」を原作としており、舞台化や小説化など多彩な展開を見せているメディアミックスプロジェクトだ。

今回AnimeRecorderでは、TVアニメを手掛けるメインスタッフへのインタビューを実施。第4回目は音楽を担当する松田彬人氏に、本作の楽曲に関する話を伺った。

過去のシーンではピアノの音がリンクする

――『アサルトリリィBOUQUET』に参加することになった経緯から教えてもらえますか。

基本的には他の一般的なアニメ作品と同じで、資料をお渡しして、作品の雰囲気と合いそうだということでお声がけいただきました。

――では、参加することになった当時、『アサルトリリィ』プロジェクトに対する印象はいかがでしたか。

当時は全く知らない状態からのスタートで、アクションドールが原作のアニメは珍しいし、面白いと思いましたね。そこからは公式サイトなど、調べられる範囲で調べてイメージを膨らませていきました。

――イメージをふくらませる中で、監督を始めスタッフからはなにかオーダーはあったのですか?

実は私が楽曲を作る以前からワーグナーの曲がベースとしてあったんです。まずは、ワーグナーを元にメインテーマを作ってほしいと言われたのを覚えています。といっても、私自身ワーグナーに対して詳しいわけでもないので、メインテーマがどんな使われ方をするかを考えながらの作業になりました。メインテーマということで、PVで使われることも想定して、いろいろな展開を盛り込みました。
もうひとつ、音響監督の亀山さん(亀山俊樹氏)の意向でジャズピアニストの上原ひろみさんの譜面を参考にして、変わったリズムがほしいという要望もありました。上原さんの譜面を見てみると、ペダルを踏まずにリズミカルなメロディを組み立てていて、普通の曲ではないなという印象で、楽曲制作ではかなり参考にしました。

――制作された楽曲全体で、方向性などは決めていたのですか?

楽器に関しては基本的にはどれを使うかは自由でしたが、オーケストラを使いつつ、打ち込みも織り交ぜてほしいといった要望がありました。作中に登場するヒュージや、キャラクターが持つチャームは機械的な造形をしていますよね。こういったものが描かれる場面ではシンセサイザーを使うなどの色付けはしました。

――制作時だけでなく、それを演奏して形にするときにもこだわりがありそうですね。

私の個人的な好みとして、弦楽器を使った楽曲が好きなんです。なので今回も弦楽器の奏者には無理難題を押し付けてしまいましたね(笑)。フレーズ自体はしっかり弾ける構成にはなっているのですが、新しい音楽に聞こえるよう、新しいことに挑戦した結果ですね。
一方で、作中で描かれる過去のシーンではピアノのサウンドが入っています。過去に起こった戦闘や、リリィたちの思い出を振り返るときはピアノの音がリンクしているんです。

――松田さんはこれまでにもさまざまなアニメ音楽を手掛けてきましたが、『アサルトリリィBOUQUET』と他作品の楽曲制作で違いはありましたか?

今回はいろいろな種類の音楽を作るというより、ひとつの大きな楽曲を作り、それを少しずつ色分けしていくケースが多かったです。例えばシリアスなシーンであっても、専用の楽曲を作るというより、ベースとなる楽曲にちょっとした温度差を付ける作り方でした。
これは他の作品とは大きく違うところで、場合によってはとにかく多彩な曲を、バリエーション豊かに用意する必要もありますから。

――それは従来と比べてむずかしいものなのですか?

一概に簡単、難しいで分別することもできませんが、『アサルトリリィBOUQUET』の場合は脚本を読んでキャラクターの心情を汲み取り、どんな温度なのかを推し量る必要がありました。その工程は難しかったと言えますね。

思っている以上に音楽が流れ続けていると思いました。もっと、キャラクターの声だけ、効果音だけのシーンもあると思っていたので驚きましたね。そういう意味でも、使われ方は本来の意図ではないものの、音響監督を始めスタッフのみなさんがとても上手く扱ってくれたと思います。

――具体的な楽曲の制作についても教えてください。まずはひとつの大きな楽曲を作ったというお話ですが、それは脚本や絵コンテなどを見ながらイメージを膨らませていったのですか?

メインテーマ以外は脚本を読みながらの作業でした。その中で軸となる音楽をいくつか見つけ出して、テーマとなるメロディを決めて、それ以外の曲はそこからのバリエーションで生み出していく作り方です。
出来上がるアニメを想像することもあります。それを頭の中で流しつつピアノでスケッチをして、映像に合っているかいないかを確認して、問題なければどんどん肉付けしていくような。シミュレーションするのも大切な作業だと思います。

――映像がまったくない時期から作曲は始まるわけで、そうなると想像力も大切になりますね。

手探りですよね。脚本から絵コンテ、そして実際の映像とでイメージがガラッと変わることもあります。だから私が心がけているのは、最初からイメージを固めすぎないことです。それにTVアニメの場合は同じ楽曲がいろいろな場面で流れるものなので、いかに汎用性を持たせるかが重要です。これは『アサルトリリィBOUQUET』に限らず、多くのアニメで言えることですね。

――確かにTVアニメだと、その作品ごとでおなじみのメロディがありますよね。

必要以上に音楽にテーマを持たせてしまうと、「このキャラクターの登場時にしか使えない」といった事態になりますからね。テーマを持たせないというのは、制作スタッフに言われるまでもなく、劇伴作曲家のしきたりと言っていいと思います。

――実際のアニメ映像を見て、印象に残っている音楽の使われ方はありましたか?

第2話の亜羅椰と楓が言い争うシーンとか、コミカルなシーンでフラメンゴ調の楽曲が流れるんですけど、これもあくまで汎用性を持たせははずなんです。ただ完成したアニメでは、ほぼ特定のキャラクターの登場時しか流れていなくて…(笑)。私の音楽をスタッフの方はこういう使うのかと驚かされました。

――バトルシーンも本作の魅力だと思います。激しいアクションに合わせた楽曲ではどんなことを意識しましたか?

バトルシーンではスピード感を第一に考えるのですが、他の作品を見ると意外とゆったりとした曲調を採用しているケースも多いんです。なのでこれも結局、スタッフが自由に選べるようにバリエーションを持たせて制作しました。
戦闘曲だけでも結構な数ですし、全体だと50曲前後は作ったと思います。数ある楽曲の中から弦楽器の部分だけを抜き出して使うこともあるので、バリエーションはそれ以上になると思います。

――一部の楽器だけを抜き出すというのは、音響監督を始めとしたスタッフが判断しているのですか?

そうです。それもまた「こういった使い方ができるのか」と驚かされることが多くて、自分自身でも「こんな曲作ったかな」と不思議に思うこともあります。『アサルトリリィBOUQUET』だと、神琳が登場したシーンでの音楽はまったく記憶になくて。でもしっかり聞いてみると、確かに自分で作ったフレーズだったんです。これは決してキャラクターに寄せて作った楽曲ではなかったのですが、ひとつのフレーズにキャラクターとの相性を見つけ出してくれたのです。

――松田さんはこれまで、劇伴だけでなく主題歌も手掛けてきましたよね。アニソン作家という視点で、本作の主題歌はどう感じましたか。

オープニングの「Sacred world」はかなりテクニカルなことをしているなというのが第一印象でした。ラップの部分も格好いいし、アニメの冒頭でテンションを上げる正しいやり方だなと感じました。さすが淳平さん(作・編曲を手掛けた藤田淳平氏)ですよね。
エンディングは俊龍さんっぽさが全面に出ていますよね。1回聞いただけで耳に残るメロディは凄みすら感じます。

――では、あらためて松田さんなりの、アニメで注目してもらいたいポイントがあればお願いします。

まずは私の音楽をたくさん使っていただいてありがとうございますと、スタッフのみなさんに感謝したいです。アニメを見ていると音響監督のカラーが出るんだなと改めて感じました。この作品の場合はシーンの変化に合わせてパッパッと色めいて、また変わっているのにそれが一つの大きな曲に聞こえたり。私だけでなく、多くのスタッフと作ったサウンドだと思います。
ストーリーと絡めたところだと、終盤のために作った楽曲というのも存在します。シリアスな世界観をより引き立てていると思うので、そちらも注目してもらいたいです。

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