『アサルトリリィBOUQUET』佐伯昭志監督「梨璃と夢結の関係値は毎回変わっていく」【連載インタビューVol.1】

TVアニメ

2020年10月から放送がスタートしたTVアニメ『アサルトリリィBOUQUET』。本作は、1/12アクションドールシリーズ「アサルトリリィ」を原作としており、舞台化や小説化など多彩な展開を見せているメディアミックスプロジェクトだ。

今回AnimeRecorderでは、TVアニメを手掛けるメインスタッフへのインタビューを実施。第1回目となる今回は、佐伯昭志監督に話を伺った。

夢結と梨璃の関係は視聴者をも振り回す

――まず、『アサルトリリィBOUQUET』の監督を務めることになった経緯から教えていただけますか。

佐伯:経緯というと、シャフトの久保田社長からオファーが来たというのと、あとは、TBSの源生プロデューサー(源生哲雄氏)とも、以前から『まほろまてぃっく』で縁があってお話を頂いたのもあります。
『まほろまてぃっく』はシャフトとガイナックスの共同制作でしたが、私は当時ガイナックスのスタッフで、メインの演出として参加したんです。

――『まほろまてぃっく』というと、かなり長い縁ということになりますよね。

佐伯氏:もう20年ほど前ですね。2015年あたりでガイナックスさんを出ることになり、私としても他の会社で作品が作れる立場になったところで今回の話しが舞い込んできた形です。

――『アサルトリリィ』というプロジェクト全体に対する第一印象はいかがでしたか。

佐伯:私のところに企画の話が来たのは2017年ごろです。そのころはアプリをやることが決まっていたくらいで、舞台やメディアミックスを広く展開していく話はありませんでした。
正直、最初からこういう座組だったら、もうちょっとプレッシャーはあったかもしれません。

――その後、舞台などが始まりプロジェクトが巨大になっていくにつれて、印象に変化はありましたか。

佐伯氏: 『アサルトリリィ』の原作にはシュッツエンゲルやレギオン、ルームメイトやクラスメイトなど、色々な関係性の要素がちりばめられています。それをワンクールのTVアニメとして仕立てるには、その要素をある程度絞り込む必要があると感じました。

――アニメの場合は時間の制約も大きいですしね。

佐伯氏:そうです。そのなかで最も重要な要素を梨璃と夢結の話、つまりシュッツエンゲルの話としました。アサルトリリィ・・・だし、百合・・ヶ丘女学院だし、まずは「ゆゆ」と「りり」というふたりのリリィの物語を描こうということで。
その後に舞台化の話が立ち上がり、そちらでは「一柳隊」などの「レギオン」を中心に展開することになって、結果としてそちらが先に世に出ることになりました。
アニメの制作も終盤に入った今となっては、各キャラクターへの愛着も深まって、もっといろいろなものを描きたいという欲も出てきました。

――最初はこじんまりとしたスタートだった、という話でしたけれど、その中でどうやってアニメのイメージを膨らませていったのですか。

佐伯氏:戦う女の子という題材は、他のアニメ作品で何度もさまざまな作り方をされています。その中で、これまでになかったものを無理に入れ込もうとすると「アサルトリリィ」ではなくなってしまいます。
作品としての特色をどこに盛り込むか悩むところではありましたが、ひとまず奇をてらうことよりも梨璃と夢結を中心にキャラクターを魅力的に描くことを優先して考えました。

――夢結と梨璃の関係を描く上で、具体的にどんなところを意識しましたか?

佐伯氏:梨璃と夢結の関係性は考えられるあらゆるものを盛り込んでいますので、毎回新しい一面を見せられたらと思っています。

――序盤の段階だと楓の印象も強烈でした。彼女の立ち位置というのはどのように決めていったのですか。

佐伯氏:楓に関してはシンプルに作りやすさですね。自分の中では非常に動かしやすくて、自然としゃべってくれる、そんなキャラクターです。

面白かったのは、舞台版は夢結と梅の関係にこだわっているところです。同じ2年生同士の関係性を原作以上にクローズアップして描いていて、作る人、メディアの違いでこうも変わってくるのかと興味深かったです。

――楓が動かしやすいキャラクターだとして、逆に難しいキャラクターはいましたか?

佐伯氏:一番難しかったのは雨嘉と神琳です。神琳は常に冷静で落ち着いたキャラクターで、一見夢結と被るんです。雨嘉もおとなしい性格でなかなか前に出てくれないので、キャラクター性を明確にするため第4話で個別エピソードを作ることにしました。

――物語の舞台となっている学園や鎌倉を描く際のポイントは何かありましたか。

佐伯氏:企画を頂いて最初に考えたのは、彼女たちが何と戦っているのか、というところです。ヒュージがどういう存在なのかは原作や小説でもきちんと明らかにされていないので、まずそれを定義することから考えました。

次いでそれが映える舞台として、「リリィ」を養成する学園が現在の鎌倉周辺にあると設定しました。
敵であるヒュージは原作や小説では「どこからともなくやってくる何か」という漠然としたところがありました。そこをアニメではもうちょっと具体的にイメージし直しました。詳細はここでは明かせませんが、結果としてヒュージとリリィは「来訪するものとそれを迎えるもの」という関係に設定して、それを明確にする舞台装置として鎌倉がふさわしいと思いました。
鎌倉の地形は、海から来るものを迎える形になっているので。

百合ヶ丘という地名は実際に存在しますので(地名としては百合丘とも)、元々は百合ヶ丘女学院は百合ヶ丘にあったけど、ヒュージを迎撃のために高等部だけ今の位置に移転した、とかそういう風に考えています。

――学院設備というのも印象的に見えました。建物自体が近代的だけど、足湯があったり。あの辺りはどのように決めていったのですか。

佐伯氏:他にもお風呂が豪華だったりと、学院内にはいろいろな要素を詰め込みました。2年生の宿舎は古風な寄宿舎的な作りだけど、1年生は比較的近代的なものになっていたり。寄宿学院ものであってもいろいろな見せ方をしたかったためです。

――制作がシャフトさんですが、このスタジオにはどんな印象をお持ちですか?

佐伯氏:私がシャフトで監督として仕事をするのは久しぶりで、2005年に『これが私のご主人様』で参加して以来だと思います。さすがに当時のシャフトとはかなり変わっていて、制作体制に厚みが増した印象を受けました。

はたから見ると落ち着いたイメージがあったのですが、実際はかなりはっちゃける人や、パワフルな人もたくさんいて、こちらから出した提案を強力に打ち返すポテンシャルはとても力強かったです。

――スタジオとしての魅力はどこにあると思いますか?

佐伯氏:色彩に対してのこだわりも強いスタジオですが『アサルトリリィ BOUQUET』でも特にエンディングなどでは、かなりシャフト的な色が強く出ているんじゃないかなと思います。

――本作はアクションシーンも多くありますが、監督の立場からどんな内容にしたいか、構想はありましたか?

佐伯氏:まずはスカートの丈を長くするか短くするかを選択するところから始まりました。

――スカートですか。

佐伯氏:原作の、特に初期のイラストではスカートが長くも短くも見えるように描かれています。当初はお嬢様学院のお話だし、長いスカートを翻しながらアクションするのも格好良いと思ってロングスカートを採用するプランもありました。
ですが原作のどのイラストを見てもふともも、いわゆる「絶対領域」が必ず描かれているので、そこにはかなり強いこだわりがあるのでは思い原作の尾花沢先生にも確認したところ、やはりそこを見せたいということでした。
実際、アクションドールもミニスカートで作られていますしね。

――ということは、キャラクターデザインの細居さん(細居美恵子氏)にも相談したり。

佐伯氏:スカート丈の件から相談はしていました。そのなかで細居さんからも思い切って80年代のアニメのような肉感的なキャラクター造形にしてみてはどうかという提案もあり、だったらミニスカートの方が映えるだろうと今のデザインにつながっていきました。
一方で細居さん自身、古さを感じさせないかという危惧もあったようですが、細居さんのセンスでまとめられるのであれば、むしろ目新しいものになるのではないかという期待もあって、結果としてはその通りになったと思います。

――確かに80年代というともう30年以上前の話になりますから、若い人は分からないかもしれないですね。

佐伯氏:そうですよね。ただその頃のアニメには妙な熱量があったんです。今のシャフトにも元気のよい若手がたくさんいるので、そういう人たちが楽しんで参加してもらえれば熱量的なものも再現できるのではないかと思いました。

またアクションディレクターの鈴木さんはサンライズさんでよくお仕事をされている方でもあって、その辺りの話は通じやすかったですね。
そこに、今回は3DCGもかなり導入しているので、それがうまく組み合わされれば毛色の違うものができないかなと挑戦してできたのが『アサルトリリィBOUQUET』のアクションです。

――分かりました。ではあらためて、監督の立場からアニメで注目してもらいたいポイントがあれば教えてください。

佐伯氏:梨璃と夢結の関係はシリーズを通して落ち着くことなく変化し続けます。ふたりと一柳隊の行く末をぜひ見届けてください。

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