舞台『文豪ストレイドッグス 序』探偵社設立秘話・太宰治の入社試験 ゲネプロレポート&舞台写真が到着!

舞台

9月11日(金)より、東京あうるすぽっとにて上演中の、舞台「文豪ストレイドッグス 序」探偵社設立秘話・太宰治の入社試験 について、本公演の公式ゲネプロレポートと写真が到着した。

「探偵社設立秘話」公式レポート

原作・朝霧カフカ、作画・春河35による人気コミックス「文豪ストレイドッグス」。名だたる文豪にちなんだ名を冠するキャラクターたちが異能力を用いて繰り広げる壮大なバトルアクションは多くの読者の心を掴み、現在、アニメは第3シーズンまで放送。2018年には劇場アニメも公開された。

そんな大ヒット作が初めて舞台化されたのは、2017年12月のこと。中島敦(鳥越裕貴)と武装探偵社の出会いを描いた第1作から、太宰治(多和田任益)と織田作之助(谷口賢志)、そして坂口安吾(荒木宏文)の過去を描いた舞台「文豪ストレイドッグス 黒の時代」、さらに武装探偵社とポートマフィア、組合(ギルド)の三つ巴を描いた舞台「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」に続き、第4作目となる本作では舞台「文豪ストレイドッグス 序」と題し、「探偵社設立秘話」と「太宰治の入社試験」の2作品を同時上演。中島敦がまだ武装探偵社に入る前のエピソードが舞台で甦る。

「探偵社設立秘話」は、2015年5月に発売された小説「文豪ストレイドッグス 探偵社設立秘話」が原作。用心棒稼業をしていた福沢諭吉(和泉宗兵)は、とある社長の転落事件に遭遇。社長を窓から突き落としたのは誰か。不可解な謎を一瞬で暴いたのは、その場に偶然居合わせた天才少年・江戸川乱歩(長江崚行)だった。乱歩に妙になつかれてしまった福沢は、働き口の世話をするために、次の依頼先である演劇場まで彼を連れていく。しかし、そこでふたりを待っていたのは、さらに謎深き怪事件だった。

タイトル通り武装探偵社の設立前夜を描いた本作。その最大の見どころは、福沢と乱歩の関係性だ。古めかしい言葉遣いに和服姿の福沢は威厳と貫禄があって、いかにも昔気質という性格。対照的に、乱歩はよく言えば天真爛漫、悪く言うと傍若無人。ズカズカと相手の懐に入り込み、思ったことを何でも口にする乱歩に、年長の福沢が振り回されている光景が実に微笑ましい。

常識知らずの乱歩に福沢はあれこれ小言を並べるが、乱歩はまるで聞く耳を持たない。喫茶処で善哉をすするシーンなど、マイペースで図々しい乱歩とそれに呆れながらもほっておけない福沢のテンポのいいやりとりに、観客もぐんぐん惹きこまれていく。

福沢役の和泉宗兵は大柄でよく通る低音の声が福沢にぴったり。舞台上での威風堂々とした佇まいもさることながら、見ず知らずの孤児である乱歩につい世話を焼いてしまう情の深さに父性がにじみ出ている。乱歩役の長江崚行はハイトーンの声に加え、膨大な台詞を早口で流暢にまくし立てるところが、頭の回転の速い乱歩らしくて惚れ惚れとする。そのワガママぶりに閉口させられるも、なんだか愛らしくて憎めないのは、長江の演技力の賜物だ。

そんな凸凹感がチャーミングなふたりだが、根底では「孤独」の二文字で強く共鳴し合っている。誰も寄せつけることなく、心を閉ざし生きてきた福沢と、両親を失い、その天才性から誰にも理解されず誰も理解できなかった乱歩。孤独なふたりが出会い、絆を深めていくさまに思わず瞼が熱くなる。

また、「文ステ」らしい演出も引き続き継承されている。「文ステ」の特徴といえば、独創的なアンサンブルメンバーのパフォーマンスだ。ダンスカンパニー・CHAiroiPLIN(チャイロイプリン)の主宰として知られるスズキ拓朗の振付は、わかりやすい美しさや華麗さとは一線を画す、シュールな空気感と奇妙な視覚効果があり、それが「文豪ストレイドッグス」の持つダークな要素にマッチしている。

部屋一面に書類が敷きつめられている場面では、アンサンブルメンバーの全身に紙を貼り付けて表現。こうしたコミカルな演出は、演出・中屋敷法仁の得意とするところ。演劇の持つ虚構性を逆手に取り、大胆に遊んでみることで、舞台だからできる世界をつくり上げていた。そんな遊び心溢れる演出を挟みながらも、事件現場である社長室から容疑者である殺し屋が拘束されている部屋へと移動する場面では、アンサンブルの動きだけで鮮やかに転換。乱歩が「異能探偵」として覚醒するシーンは、アンサンブルを中心とした巧みなパフォーマンスで強いインパクトを残すなど、硬軟自在の演出で物語に緩急をつけた。

さらに、本作では、声を発するのは和泉と長江のみという実験精神溢れる演出が取り入れられている。これは演劇を愛する中屋敷法仁のこの時期だからこそできる新しい挑戦として受け取った。秘書や江川などのキャラクターの声を担当するのは長江。舞台上でアンサンブルメンバーがそれぞれの役を演じ、長江がその場でアフレコをするように声を当てる。長江に課せられる負担は想像を絶するが、そんなハードルを乗り越えた先に生まれる熱量が舞台上から迸っていた。
さまざまなドラマを生んだ武装探偵社。その歴史は、福沢と乱歩の出会いから始まった。本エピソードはこの舞台版が初めてのメディアミックス化となる。やがて多くの人の運命を変えることとなる“始まりの瞬間”を、ぜひ見届けてほしい。

文:横川良明
写真:宮川舞子

「太宰治の入社試験」 公式レポート

原作・朝霧カフカ、作画・春河35による人気コミックス「文豪ストレイドッグス」。名だたる文豪にちなんだ名を冠するキャラクターたちが異能力を用いて繰り広げる壮大なバトルアクションは多くの読者の心を掴み、現在、アニメは第3シーズンまで放送。2018年には劇場アニメも公開された。そんな大ヒット作が初めて舞台化されたのは、2017年12月のこと。中島敦(鳥越裕貴)と武装探偵社の出会いを描いた第1作から、太宰治(多和田任益)と織田作之助(谷口賢志)、そして坂口安吾(荒木宏文)の過去を描いた舞台「文豪ストレイドッグス 黒の時代」、さらに武装探偵社とポートマフィア、組合(ギルド)の三つ巴を描いた舞台「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」に続き、第4作目となる本作では舞台「文豪ストレイドッグス 序」と題し、「探偵社設立秘話」と「太宰治の入社試験」の2作品を同時上演。中島敦がまだ武装探偵社に入る前のエピソードが舞台で甦る。

「太宰治の入社試験」は、2014年4月に発売された小説「文豪ストレイドッグス 太宰治の入社試験」が原作。新入りの太宰治とコンビを組まされた国木田独歩(輝馬)が、幽霊屋敷調査を入り口にヨコハマで巻き起こる怪事件の謎に迫っていく。

本作の見どころを挙げるとするなら、まずは何と言っても国木田と太宰のコンビネーションだ。カタブツで理想主義者の国木田と、自殺マニアの変人・太宰。ふたりの性格は見るからに正反対。
たとえば序盤から太宰は怪しいキノコを食べてトリップし、事務所の中で大騒ぎ。変わり者の太宰に理想の日常をしっちゃかめっちゃかにされながらも、なんだかんだと乱暴にツッコむ国木田の姿に、原作ファンならずとも笑いが漏れる。

そんな国木田と太宰を、シリーズ第1作から同役を演じ続けている輝馬と多和田任益が軽やかに表現し、観客を楽しませる。自分の理想に強いこだわりを持つ国木田の四角四面な性格に輝馬の美声がフィットし、太宰に振り回される姿は愛らしさすら感じる。そして、多和田任益の細長い手足は、太宰治そのもの。くねくねとした体の使い方やクセの強い台詞回しなど、どれもファンが思い描く太宰治に限りなく近く、観ていて爽快感さえある。

日常パートではコミカルなやりとりで楽しませつつ、バトルシーンは舞台ならではの演出で観客の目を惹きつける。原稿用紙を模した舞台美術にプロジェクションマッピングを投射。さらにそこにアンサンブルメンバーによる生身のパフォーマンスが加わって、異能の数々を舞台上で迫力たっぷりに再現する。
特に鮮やかだったのが、佐々城信子の救出シーンと、その後の毒瓦斯の場面。パネルを用いた演出で貯水槽から鉄の檻までを舞台上につくり出し、非常にシームレスにシーンをつなげることに成功した。また、国木田と芥川龍之介(声:橋本祥平)の対決シーンでは、芥川の「羅生門」によって繰り出される黒獣を黒い布を使って表現。芥川の強大な力によって苦しめられる国木田をわかりやすくビジュアライズした。

そして何より本作の演出で挑戦的だったのは、劇中に登場する佐々城信子、田口六蔵、運転手の声を多和田が担当していたことだ。佐々城、田口、運転手ら自身はそれぞれアンサンブルメンバーが演じるのだが、声は発しない。いわゆる吹き替えのようなかたちで舞台上にいる多和田が声をあてるのだ。
これにより、国木田と太宰以外のキャラクターが、どこか実態のない人物のように見えてくる。傀儡人形、という言い方が最も近いのかもしれない。佐々城、田口、運転手やその他の登場人物を演じるアンサンブルメンバーは、声を発しない分、動きはややデフォルメされていて、それがまるで誰かに糸を引かれて動くマリオネットのような印象を与える。そんな操り人形の不気味さが、裏で糸を引いているのは誰かという疑念とオーバーラップし、観客の思考を撹乱する。

事実上、台本に書かれたすべての台詞は、輝馬と多和田のふたりで担っていることになり、その量は膨大。
キャラクターによって声色を使い分けるなど多彩な表現力を求められることはもちろん、自身が演じる役の台詞の直後に、別のキャラクターの台詞が続く場面も頻繁にあり、テンポよく会話をつないでいくには、俳優自身の高い力量が不可欠。その分、このふたりだから築き上げることのできた世界が確かに存在し、「太宰治の入社試験」という国木田と太宰のはじまりのエピソードにはうってつけの演出に思えた。

壮大なスケールで観客を圧倒した過去3作とはまた違う、新しい境地に辿り着いた「太宰治の入社試験」。
非常にミニマムな世界ながら、1時間40分、まったくギアを落とすことなく、ノンストップでクライマックスまで駆け抜けていく疾走感に満ち溢れていた。
はたして黒幕は誰なのか。事件の真相に秘められた人間ドラマに、思う存分、心震わせてほしい。

文:横川良明
写真:宮川舞子

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