『異世界美少女受肉おじさんと』原作・津留崎優氏インタビュー! 物語の着想はVRChatの「お砂糖」文化?

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漫画アプリ「サイコミ」などで掲載されている『異世界美少女受肉おじさんと』。本作は、アラサー会社員のおじさんが異世界転移したら絶世の美少女に。男の姿に戻るため、親友とともに魔王を倒す旅に出るというファンタジー作品だ。

5月にはTVアニメ化も発表され、ファンを湧かせた本作。AnimeRecorderでは本作の原作・津留崎優氏、作画・池澤真氏、「サイコミ」編集担当の吾田慎悟氏にインタビューを実施した。
第1弾となる今回は原作を手掛ける津留崎優氏のインタビューを紹介。原作の魅力を伺うとともに、アニメへの期待を語ってもらった。

第1回・津留崎優氏インタビュー 第2回・池澤真氏インタビュー

普通ではないところにフォーカスが当たるのが異世界作品の魅力

――『異世界美少女受肉おじさんと』を手掛けることになった経緯を教えてください。

吾田さんは以前から私たちの作品を担当しており、この作品についても連載すること前提で話が始まりました。だから話し合いも、ストーリーをどうするかではなく、どんな連載にしようかという段階からのスタートでした。

担当が異世界作品を大好きだったので、実際にそれで行こうと決まったときは、面白そう作品ができるかもと思いました。ただ、このジャンルはすでにトラックが異世界に行ったり、自動販売機になったりと、いろいろな設定が出尽くしていて、「まだやってないことはなんだろう」と探すところから始まったんです。
そこで、男2人組モノはあっても、そのうち1人が女性になるパターンはまだないんじゃないかと思ったのです。探していくと、実はそういう作品もあったのですが、すぐ恋愛に発展するものが多くて、この作品はあくまで男としての感情を貫き通す。そこが他作品との違いでもあり、面白さのポイントを作れたところだと思います。

――本作は異世界転移作品となっていますが、このジャンルのどんなところに魅力を感じましたか?

異世界ものの一番いいところは、どんなタイミングで読んでも普通ではないところだと思うんです。普通の世界の人間が主人公だから、異世界の普通ではないところにフォーカスが当たるというか。『ファ美肉おじさん』でもそれは崩さないように意識しています。その一方で私たちが得意にしているのはシュールギャグなので、それを活かすなら他の異世界作品の設定をちょっとイジるような作品にしたいと意識していましたね。

――ちなみに、好きな異世界作品があれば教えてください。

『この素晴らしい世界に祝福を!』の存在はやっぱり大きかったです。同じ異世界、同じギャグ作品として参考にさせていただくこともありますし。あとは単に趣味として『オーバーロード』も大好きな作品です。

――ライトノベルやアニメは以前から好きだったのですか?

それこそ子供のころから好きでした。母親がファミコンを持っていたので、当時からゲームは好きでしたし、そこからアニメや漫画にも派生していきましたね。趣味という意味ではゲームが一番好きですけど、ゲームを作れるタイプの人間ではない。なので今の漫画家という職業に落ち着きましたね。

――ゲームやアニメだとどんな作品がお好きですか?

ゲームだと、最近は「Black Survival」というMOBAのゲームをよくプレイしています。アニメだと「エヴァンゲリオン」シリーズ。庵野監督の人生を見ているみたいで、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」はずっと泣きながら見ていました(笑)。TVアニメなら「灰羽連盟」とか、「神撃のバハムート」の1期とか、「カウボーイビバップ」も好きでした。

――池澤真さんが手掛ける作画の魅力は?

池澤先生とは学生時代からの付き合いで、当時から良いと思っていたのは立体感です。キャラクターが世界の上に立っているというか。生々しいというか、存在しているんですよね。私も池澤先生のような絵を描きたいと挑戦したこともあるんですけど、到底叶いませんでした。

――『異世界美少女受肉おじさんと』では、作画に関する要望は出していますか?

毎回結構出しています。特に多いのは表情のあたりですね。絵が上手い人って、客観的に見られることを意識していないケースが多いんです。自分の中で完成してしまっているから。ただ、それが漫画だと見づらくなることも多々あるので、そういうときは私が描いたネームの意図を説明することがあります。

――編集を担当する吾田さんの印象はいかがですか?

吾田さんじゃなかったアニメ化してないと思います。そのくらい信頼しています。ネームの直しが的確で、「ここまで突っ込む?」というところまで指摘するんです。でも、直してみると本当に良くなるので毎回驚かされます。
漫画も小説もめちゃくちゃ読んでいる人なので、そのおかげなんですかね。年齢も近いし、今でも友達のような感覚でやり取りしています。

見た目さえ良ければ、中身の性別は関係ない時代がきた

――アニメ化の話が実現したときはどんなお気持ちでしたか?

最初に聞いたときは「こんな特殊な作品がアニメ化できてしまうのか」と思ったのが正直なところです(笑)。次はもうちょっと一般的なテーマの作品がアニメ化されて、親に自慢できたらいいですね。
でも前々から目指していたところでもありますし、とりあえずは第一関門突破、という感じです。

――本作は企画開始当初からメディアミックスを考えていたとのことですが、どんな意図があったのでしょう。

単純に私たちがアニメが好きだったのと…アニメ化されると箔が付きますよね(笑)。漫画家のキャリアとして、アニメ化は目に見えた実績のひとつだと思いますし、漫画家としてアニメ化を目指す理由ってそんなものだと思います。

――ストーリーに目を向けると、おじさんが異世界転移したら美少女になり、高身長イケメンの幼馴染とともに旅に出るというさまざまな要素が混ざり合っています。これはどのように考えていったのでしょう。

もともとは3Dアバターで見ず知らずの人と会話できるVRChatが着想のきっかけでした。VRChatでは「お砂糖」という、ユーザー同士が恋人のように会話する文化があるのですが、中には男性同士で「お砂糖」会話を楽しむ方もいて……つまりはそういう時代がきているんだなと(笑)。見た目さえ良ければ中身の性別は関係ない。この関係性は物語として成立するかもしれないなと思ったのです。

――ストーリー展開の点で注力していることは?

できる限り退屈にならないように、と意識しています。それでも退屈に思える回はどうしても出てきてしまうので、その後に挽回して、メリハリが付くようにしています。
私の場合、ひとつの回に詰め込みすぎてしまうことがあるみたいで、編集の方によく指摘されます(笑)。いかにバランス良くストーリーを見せるかが大切ですね。

――メインキャラクターの2人は32歳と、おじさんと呼ぶにはぎりぎり若い気もします。

単純な話で、当時私が32歳だったからです(笑)。32歳って実は絶妙な年齢で、若い人には確実におじさん・おばさんと言われると思うんです。だけど32歳の人間からすると、まだまだ頑張れる年齢でもあるし、人によって感じ方が違うと思うんです。
それに私自身も32歳がどんなことを考えるか、実体験として分かるのも大きいです。言葉遣いも、自分より年上の人がどんな言葉を選ぶのか、調べる作業が省けますし。

――キャラクターの性格はどのように考えていきましたか?

橘は感情移入できるキャラクターにしたいと思い、おちゃらけてるけど納得できないところにはこだわる性格になりました。私に似ている部分もあるかと思います。
神宮寺はまったく逆で、誰も感情移入できないキャラクターにしてやろうと考えていました。そんなキャラクターに感情移入できた瞬間、キャラの成長を感じ取れると思うんです。

――本作は異世界以外にも性転換、BL、ラブコメとさまざまなジャンルが入り交じっていますが、ひとつにまとめるにあたって苦労したことはありますか?

前例があまりないので、なにかを手本にできなかったのは辛かったですね。明確なお約束展開がないので、どんなストーリーが正解なのかが分からないんです。だから最終的には、私たち自身が面白いと思えるかどうか、判断基準はそれしかありませんでした。

――アニメ化に当たって、声優のオーディションには参加したのでしょうか。

しましたけど、すごく恥ずかしかったです(笑)。特に神宮寺のセリフは、聞いていて恥ずかしいものばかりで…にやけちゃうので、マスクしていてよかったです。自分が格好いいと思っているキャラクターだったのも原因かもしれません。

――アニメの制作に原作者のお二人が携わることはありますか?

脚本に関しては私のほうで少しだけ直させてもらっています。尺の都合でなにを入れて、なにを削るかを考えなければいけないので、そこは自分で考えることにしました。ラストをどうするかは当時まだ決めていなかったので、プロットだけ大急ぎで作ったりもしましたね(笑)。

――アニメに対して期待していることは?

神宮寺がとあるシーンで長セリフをまくしたてるのですが、アニメではどのように描かれるのかが楽しみです!

――アニメ化に続く目標はなにかありますか?

二期!(笑)。二期を放送して、劇場版までいけたら最高ですね。

あとはゲームへの展開も夢ですね。この作品をそのままゲーム化するにはキャラクターが少ないと思うので、「サイコミ」を運営しているCygamesさんにお願いして、コラボとして出させてもらったりなんて。しっかりアピールしていきたいです(笑)。

――原作に関して、今後の注目ポイントがあればお願いします。

作品の主軸はあくまでも神宮寺と橘の関係性です。だから2人の気持ちをより深く描くようにしたいです。あとは世界に12人いる勇者や魔王軍のことなどいろいろ構想しているので、楽しみにしてもらえればと!

――最後に、ファンの方々に一言メッセージをお願いします。

まずはいつも読んでいただきありがとうございます…といっても、実は連載のあとがきでファンの方に伝えたいことはすべて書いているんですよね。なのでぜひ、アプリをインストールして、あとがきまでチェックしていただけると嬉しいです(笑)。
そして今まで読んできた皆さんのおかげでアニメ化までたどり着けたので、本当に感謝しています。これからもよろしくお願いします。

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