アニメ制作における動画の海外依存度は低く見積もっても67%…海外で動画から仕上までを一括で作業する「電送動仕」は不可欠な存在に

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アニメーターと制作進行のクラウドソーシングサービス「大峰山前鬼坊」を運営する 薄山館は、アニメ制作における動画の海外依存度に関する調査報告を発表した。

「大峰山前鬼坊」は、制作進行支援特化型アプリ群「八天狗シリーズ」の、CUT管理表アプリ「愛宕山太郎坊」、ラッシュチェック・リテイク票自動作成アプリ「相模大山伯耆坊」に連なる3番目として、制作進行とアニメーターのマッチングを行い、制作進行が日々行っている電話営業と逼迫したスケジュールの軽減を目指して開発したWebサイト。

今回同社は、日本のアニメ業界におけるアニメーターと制作進行の数と、国内外の動画マンの数、そして動画の海外依存度といった調査報告を行った。

<以下、プレスリリースより>

■日本のアニメ業界におけるアニメーターと制作進行の数(補足)

動画マンのスケジュール公開の意義を語る前に、先日、登録者人数が100人突破した際に配信したプレスリリースで発表した「原画」「制作進行」の人数についての補足を行います。

まず、直近の2019年に放送が開始されたアニメ作品196作品の内、アニメスタッフデータベースでスタッフが確認できた114作品1795話の「原画」と「制作進行」の人数を調べ、原画(レイアウトのみ及びレイアウト+2原)にクレジットされていたアニメーターは5247名、制作進行は964名。
そして、原画の内訳は、日本人名が4392名、外国籍等その他が855名。制作進行の内訳は、日本人名が888名、外国籍等その他が76名と報告いたしました。

しかし、上記の人数はあくまで、複数の話数に参加している人の重複を削除した実質人数であり、実際に2019年の114作品1795話に投入された人数は、原画で延べ25,268人、制作進行は延べ1,478人。
内訳は、原画の日本人名が22,849人で外国籍等その他が2,419人。制作進行では日本人名が1,331人で外国籍等その他が147人でした。

■動画マンの数

動画については動画枚数を算出する必要があったため、枚数の算出がしづらい5分・15分・60分作品及び海外動仕会社等スタジオ名の記載が無いNHK作品を除いた93作品1508話を調べました。
それでは早速アニメ制作業界における動画マンの数を見ていきましょう。

93作品1508話に投入され、スタッフクレジットに個人名が掲載された国内のアニメ制作会社や作画スタジオに所属している動画マンは延べ8,644人、対して国外は延べ2,729人が確認できました。
そして、重複を削除した実質の人数は国内で1,315名、国外で479名でした。

しかし、この人数で全ての動画が賄われているわけではなく、スタッフクレジットには個人名ではなく作画スタジオや制作会社の名前のみも掲載されています。
そこで、国内の作画スタジオやアニメ制作会社と動仕会社+国外作画スタジオに分けて数えたのが次のグラフになります。

結果としましては、投入された延べ会社数は国内の作画スタジオやアニメ制作会社は1,409社、対して動仕会社及び国外の作画スタジオは3,752社あり、そして実質の会社数は国内で160社、動仕会社及び国外作がスタジオで162社となりました。

尚、「動仕」という言葉が耳慣れない方もいらっしゃるでしょうから簡潔に説明いたしますと、原画のスキャンデータを中国や韓国等海外にいるスタッフに電送し、48時間ないし24時間以内に動画から仕上までを一括で作業してもらうことで、「電送動仕」と呼称する場合もあります。他にも動画のみを作業してもらう「電送動のみ」や仕上げのみを作業してもらう「電送仕のみ」というのもあります。
EDのスタッフクレジットで動画と仕上に同じ名前のスタジオがあり、個別スタッフ名が記載されていなかったら、例外はありますが、大半が動仕会社だと思って差し支えないでしょう。

■動画の海外依存度

1人の動画マンが1日に量産できる動画の枚数には限界があります。
P.A.Worksでは、月に平均して500枚動画を描く事ができれば原画に昇格できると下記のサイトに記載されていました。
https://www.pa-works.jp/for-animator/tobibako/748/

すなわち、毎週日曜日を休みとして、一ヶ月の内、26日動画を描いて500枚ですから、1人の動画マンが1日に生産できる枚数は約19枚、そしてスタジオによっては400枚で原画に昇格できるところもあるため、経験を積んだ動画マンが一日に生産できる枚数の上限は16~20枚と推測できます。
しかしこれはあくまで原画に昇格する寸前の動画マンですから、今回調べることが出来た国内の1,315名と、国外の479名全員がこの枚数を毎日生産できるとは限りません。
そこで一先ず1日の生産枚数を多めに見積もって全員が15枚描けると設定することにします。
そして、動画に要する期間ですが、これもだいたいスケジュールでは2週間は用意しているため、上述の通り日曜日を休みとして12日間と設定します。
最後に話数の動画枚数ですが、ピンからキリまであるものの、筆者が以前働いていたプロダクションアイムズでは、1話4000枚程であったことに加え、今回調査した作品の大半が深夜アニメであることから、30分のTVアニメ1話に必要な動画枚数を3800枚と設定します。
それでは準備が整ったので早速動画の海外依存度について試算していきたいと思います。

まず今回調べた93作品1508話分に必要な動画枚数ですが、こちらは単純に1508話に3800枚を掛ければ導き出せますので、以下のとおりです。
1,508話×3,800枚=5,730,400枚

そして、今回投入された国内延べ8,644人、国外延べ2,729人が、全員1日15枚描けるとして、与えられた1話分の動画期間の12日間で生産できる枚数を算出してみましょう。これもただ掛けるだけです。
国内動画マン:8,644人×15枚×12日=1,555,920枚
国外動画マン:2,729人×15枚×12日= 491,220枚

スタッフクレジットに氏名が出ている国内動画マンが生産できる枚数は、全体の約27%。便送か電送で作業してもらった国外動画マンの数を加えた場合約36%ですから、残りの約64%にあたる3,683,260枚は作画スタジオや動仕会社によって賄われていることになります。続いてこの枚数のどれだけが動仕会社によって賄われているかを見ていきましょう。

と、その前に、3,683,260枚から、フル電送の話数149話分の枚数566,200枚を抜きます。尚、この「フル電送」とは、国内の動画マン・作画スタジオに一切動画を発注せず、1話まるごと動仕会社のみに頼った話数のことで、今回の調査で言えば、全体の約10%の話数の動画と仕上げの全てが中国や韓国等海外で作業されたことになります。

そして残りの枚数は3,117,060枚が国内の制作会社や作画スタジオと動仕会社等によって生産されています。
今回の調査では、国内の作画スタジオ及びアニメ制作会社は延べ1,409社、対して動仕会社及び国外の作画スタジオは延べ3,752社でした。そして動仕会社につきましては、動画と仕上の量産に特化しており、24時間電送の生産枚数が、7000枚を筆頭に、5000枚や2500枚、1500枚と、1000枚以上のキャパシティを有している動仕会社も多数あります。

全部が全部、上限いっぱいまで毎日動仕を行っているとは考えづらいものの、筆者が6年前にプロダクションアイムズで「デート・ア・ライブⅡ」の11話の制作進行として働いていた際、リテイクまで含めた6716枚におよぶペイントのtgaファイルが残っていました。重要なカットを依頼した社内動画を除き、11話のみで6社の動仕会社を使っていたため、何回か分けて発注していたとは言え、1社につき約1100枚程依頼していたことになります。

しかし他作品も同様の枚数を動仕会社に依頼しているとは考えられませんが、動仕を使っている時点でスケジュールに多かれ少なかれゆとりがなく、それなりの枚数を発注していることも事実であることから、話数に名前が上がる動仕会社1社につき750枚と設定してみましょう。

そうすると動仕会社及び国外の作画スタジオが延べ3,752社ですから、生産できる枚数は以下の通りになり、残りを国内作画スタジオ等に振り分けるとに次のようなグラフになります。

動仕会社等:3,752社×750枚=2,814,000枚
国内作がスタジオ等:3,117,060枚ー2,814,000枚=303,060枚

動画マンや動仕会社の生産枚数及び1話の平均枚数等はあくまで筆者の経験を踏まえた推定値に過ぎず、まだ検討の余地はあります。特に現状ですとスタッフクレジットに名前が上がる国内の作画スタジオやアニメ制作会社は1話に付き215枚生産していることになり、これだけの数を本当に引き受けてくれるのか少々疑問が残ります。
いずれにせよ、今回試算した限りでは、日本国内で生産できる動画の枚数は合計1,858,980枚となり、これは、93作品1508話分に必要な動画枚数5,730,400枚の約33%です。

即ち、残りの約67%が海外で生産されていることになり、この調査結果により、電送動仕は現在のアニメ制作において、必要不可欠な存在になっていることが明らかになりました。
しかし、昨今のコロナ騒動により動仕会社に渡した素材が戻ってこないという事態が起き、国内動画を見直す動きが出てきたものの、電送動仕に頼った弊害か国内の撒き先が見つけづらいという問題も発生したようです。
電送動仕がなければ今のアニメ制作が成り立たないことは事実であるものの、過度に依存することで、気づいたら国内の動画が育っていない可能性が生じるという危険性が露呈したと言えます。

大峰山前鬼坊
https://oominesanzenkibou.com/