ASMRレーベル「kotoneiro」をプロデュースする小岩井ことりさんにインタビュー この1年と成長し、これからの未来を聞いた

小岩井ことりさん
インタビュー

声優・小岩井ことりがプロデュースするASMR音声レーベル「kotoneiro(ことねいろ)」が、2021年10月で1周年を迎える。
「kotoneiro」は毎月のように高品質・ハイレゾナンスなASMRボイスドラマを提供し、今や多くのファンを抱える新進気鋭のレーベルだ。小岩井さん自身はもちろん、愛美さん、藤井ゆきよさん、山崎はるかさんといった声優を起用し、新作が発売されるたびに多彩な話題を提供している。

今回、1周年を迎えるタイミングで小岩井さんにインタビューを実施。これまでの道のりを振り返ってもらうとともに、今後の転部についても伺った。

「ASMRとはなにか」と説明して、信頼を勝ち取ってきた最初の1年

――本日はよろしくおねがいします。小岩井さんが「kotoneiro」からASMR作品をリリースしてもうすぐ1年になりますが、なぜレーベルを立ち上げたのか、その経緯を教えてもらえますか。

小岩井:ASMR自体は昔から好きで、ラジオ番組の「ことりの音」でも「ASMRの番組をやりたい」とは以前から言っていたんです。ただ、そう思っていても本格的なことはなかなか実現できず、せいぜいラジオの1コーナーで披露するくらいでしたが、少しずつ機材を揃え、私自身ができると確信を持ったタイミングで「kotoneiro」を立ち上げました。

――あらためて、小岩井さん自身はASMRにどんな魅力を感じていますか?

小岩井:リラックスできるという意味で、最高のチルアウトだと思うんです。リラックスするための作品というと環境音やヒーリングミュージックがありますけど、どれもBGMの域を出なかったんです。ASMRは一歩飛び出て、自分を違う空間に連れて行ってくれる、体験の中でリラックスできるのは魅力ですね。そういう意味では音楽よりもアトラクションとか、4DXで見る映画とかに近いのかもしれません。

――10作品以上をリリースしてきた1年間はどんなものでしたか?

振り返ってみるとあっという間だったな、とも思いますけど、やっぱり苦労も多かったです。まずASMRがなにかを伝えるのが大変で、声優さんにオファーを出すときも、事務所の方に分かってもらえないこともありました。
確かにASMRがどんな作品かって、言葉で表現するのは難しいですからね。ドラマチックなストーリーがあるわけでもなく、「じゃあなにが面白いの?」と聞かれたら、上手い言葉が見当たらなくて。

でも、人生はドラマチックなことがなくても楽しいじゃないですか。お風呂に入ればそれだけで心地良いし、料理中にお鍋がグツグツ煮えているのを見ているだけでワクワクすると思うんです。そういった人生の細かい機微を深く表現したのがASMRであり、最近ようやく多くの人に魅力が伝わってきたのかなと実感しています。

――ASMRとはなにかを説明して、信頼を勝ち取ってきた1年だったと。

そうですね。「自分の声優を出しても大丈夫かな?」と思う気持ちももちろん分かるんです。声優がプロデュースするASMRレーベルと言っても理解されないのは当然ですし、定期的にやっている生放送は夜遅くになりがちだし。幸い最近はASMRも認知されてきて、オファーも出しやすくなったと実感しています。

――ファンからの反響という意味では、この1年間でどのような変化がありましたか?

やっぱり最初は出演する声優さんのファンに注目していただく機会が多かったです。最近はそこから一歩抜け出して、ASMRのファンの方々が幅広く手に取っていただけるようになりました。しかも日本だけでなく、海外の方からも熱いコメントをもらうこともあるんです。音質が抜群にいいのは、言語が違ってもしっかり伝わっているのは嬉しかったですね。

――海外のファンも獲得しているというのは驚きました。流れてくる音声は日本語なのに、伝わるものなんですね。

YouTubeに試聴動画をアップしているのがよかったんだと思います。それに言葉だけでストーリーを描いているのではなく、環境音もすべて使って他人の人生を体験できるからこそ、言語の壁を乗り越えているのではないでしょうか。

――実際に一つの作品を作り上げる際、小岩井さん自身はどのような作業を行っていますか?

作品に関してだとキャスティングとキャラクターやストーリーをチームメンバーと考えるところから始めます。しっかりとした脚本の前にプロットを作り、声優事務所にチェックしてもらい、OKをもらったところで本格的な制作に入ります。
その後も実際の収録に立ち会ったり、効果音をチェックしたり…チェックだとそれ以外にもジャケットに描かれるキャラクターイラストや、小物もすべて自分で確認しています。あとは公式サイトの更新に、生放送の出演もですね(笑)。

――企画の立ち上げから広報まで、すべてに携わっているんですね。

そうですね。とはいえ私一人ではなく、優秀なスタッフの方々がサポートしてくれるからこそできることです。私自身は声優のお仕事が本業なので、頼れるところは頼りつつやっています。

――作品に携わるスタッフだと、販売を担当するエイシスさんのDLSiteもその一つだと思います。

DLSiteさんが販売を担当してくれたのは実は偶然なんです。「kotoneiro」とはまったく別のところで、DLSiteさんと一緒になにかやりたいね、という話をしていた経緯があって、その後私が「kotoneiro」を立ち上げたときに、「じゃあDLSiteさんとの取り組みと「kotoneiro」をつなげたらいいじゃん」という発想から実現しました。

DLSiteさんにどんなASMR作品があるか、私もよくチェックしていますし、品揃えはNo.1だと思います。信頼できるところで販売できるのは本当にラッキーだし、嬉しいことですね。

――ちなみに、「kotoneiro」も含めたASMR業界全体の盛り上がりはどのように感じていますか?

一部の方から知らないジャンルだったものが、徐々に一般的な認知を得ようとしている、その可能性はすごく感じます。だけど新しいジャンルだけに誤解も多いのが現状です。例えば、「アダルト系のものばかり」と思っている方もまだまだいます。
漫画でも誰でも楽しめるものからアダルト系までたくさん存在するように、ASMRも多彩なジャンルがあります。「ASMRは誰でも楽しめるもの」として広めていくのが今後の課題ですね。

ファンの熱意を形にする場所が「kotoneiro」

――収録環境のこだわりについて教えてください。

基本的に「kotoneiro」のStudioですべて収録しています。防音のため地下に作ったスタジオでは「Neumann KU100」という100万円のバイノーラルマイクを使用して…。

――100万円!? それはすごいですね…。

最初は「ほしいけど買えない!」と嘆いていたんですけど、たまたま出演したイベントでFitEarさんというイヤモニメーカーの社長さんと知り合う機会があったんです。「自分が持っていても宝の持ち腐れだから貸しますよ」と言っていただいて(笑)。そのおかげで「kotoneiro」がスタートできたといっても過言ではないです。

――そんな経緯があったんですね。では、出演する声優についてはどのような基準で決めていくのですか?

まずは脚本のアイディアが前提にあって、スタッフと話し合いながら決めていきます。「この職業を描くなら、この声優さんが合ってそう」といった具合に、作品との相性を考えながらですね。

――声優に対して演技のディレクションをすることは?

キャラクターの性格を事前に共有するだけで、あとは細かいイントネーションくらいしか、こちらから指示することはないです。なにせ皆さん、手練の声優さんですから(笑)。

――実際に販売するときはイラストのインパクトも重要になってくると思います。

そうですね。キャラクターデザインは月神るなさんに、とにかく「どストレート」をお願いしていてます。聞く方が男女どちらも想定できることを念頭に置いていて、どちらからも好かれること、幅広い層に「かわいい」と思っていただけることが第一ですね。

――メインのシリーズとして「おしごとねいろ」がありますが、職業にスポットライトを当てた理由は?

私自身、仕事人間なんですよ。声優という仕事が好きで、さらに言うと人が仕事をしているところを見るのも好きなんです。自分が知らない世界を知れるって、楽しいじゃないですか。
そんな普段は体験できない仕事をASMRで体験できたら面白そう、というところから始まったのが「おしごとねいろ」シリーズです。自分自身が仕事を体験するのもいいし、仕事をする人に接することもできる。これなら楽しそうだし、意義のあるものが作れるかなと思ったんです。

――シリーズの一覧を見ていると、塾講師や美容師などの職業に混ざって幼稚園児編があるのが印象的でした。これは自分自身がテーマパークのスタッフとして幼稚園児と接する、「おしごとねいろ」らしさが詰まっているテーマだと思いました。

よく聞いてみると、久野ちゃん(久野美咲さん)が演じているのは幼稚園児で、仕事をしているのは聞いている皆さんのほうなんですよね。声優さんが演じているキャラクターがなにか仕事をしているケースが多い中で、ちょっと珍しい方向性ですし、聞いている方に驚きを与えられたかなと思います。

――珍しいという意味では、魔法使い編というのもありますよね。

現実にとらわれず、ファンタジー系の職業もやってみたいとは思っていて、それが叶ったのが魔法使い編でした。声優さんをキャスティングしていくときに、ファンタジー系と相性が良さそうと感じる人もいるんです。魔法使い編はその中の一つでもあって。

――確かに、魔法使いのキャラクターデザインと大空直美さんの声は間違いなくぴったりですね。

見ただけで想像できますよね。絶対語尾に「のじゃ」ってつけるじゃんて(笑)。こういった誰でも想像できるネタが大好きで、皆さんの頭の中で思い描いているものを、これからも作っていきたいですね。

――先日は「のんのんびより」ボイスドラマも発表していましたが、すでにある作品とのコラボは新しいチャレンジだったのでは?

本当に光栄なことです。この1年間で信頼を積み重ねてきたからこそ到達できた場所だと思いますし、応援してくれたファンの方々に感謝したいです。「のんのんびより」は思い入れのある作品で、原作が一旦幕を閉じてもまだまだ演じたい思いが強かったんです。だから、自分自身で演じる場を作れたことがまずは嬉しかったですね。

――「kotoneiro」のこれからの展望についても教えてください。今後の展開として考えていること、将来の目標はありますか。

この1年間で実績と経験をつめたと思うので、今後はASMRの良さをもっとアピールしていきたいです。世の中の人とASMRを繋ぐ役割を担えたらいいですね。そのためには利益を出して、しっかりとレーベルを存続させなければいけません。お金のことを考える必要が出てきたのは、プロデューサーとして胃がが痛いところでもありますね(笑)。

作品としては今以上に多彩な作品を届けたいです。時代の流れに沿って、ファンの方々が求めるものを制作したいですね。

――ファンからの要望はなにか届いていますか?

Twitterを中心にたくさんの要望が届いています。出演してほしい声優さんとか、題材にしてほしい職業とか、熱意のあるコメントも多く、しっかり参考にさせていただいています。
私自身もそこから次回作のヒントを得たり、刺激を受けることも多いです。ファンの熱意を形にする場所が「kotoneiro」なので、2年目もこの姿勢は崩さず、良い作品を作れるようがんばります。

ASMRに特化したイヤホン「VR 3000」の魅力とは?

今回のインタビュー、イヤホンメーカーのfinalでASMRに特化したイヤホン「VR 3000」に携わる森圭太郎氏も同席していた。せっかくなので…ということで、森氏と小岩井さんに「VR 3000」に対するこだわり、そしてASMRとの相性についても伺ってみた。

森圭太郎氏

――小岩井さんとfinalさんが出会うことになった経緯から教えてもらえますか。

森:最初となると、弊社が国内販売を担当する海外ブランド製品の取材企画で小岩井さんにも参加していただいて、そのときの現場がきっかけですね。

小岩井:私が喋りすぎて、finalのスタッフの皆さんに喋らせる隙を与えなかったという(笑)

森:イヤホンとか、音響周りの製品がめちゃくちゃ好きなんだなというのが伝わってきて、「これは普通の人じゃないな」と(笑)。

小岩井:finalさんを知ってからは個人的に何個も製品を買ったし、知り合いに布教したりもしています。そのくらい好きなブランドです。

――そして今回finalさんが新しい取り組みとして、ASMRに特化したイヤホンを製作したと。

森:はい。こちらを作ることになったきっかけとしては、VR環境における音響がありました。VRだと仮想空間を自由に見回すことができますが、音の出どころや距離感などは疎かになりがちでした。3Dの世界で音の位置関係、距離関係を把握できることを念頭に置いて開発したのが「VR 3000」で、そのワイヤレス版とも言える、「COTSUBU for ASMR」が近日発売されます。

小岩井:私たち「kotoneiro」としても、ASMR作品を作る中で感じたことをfinalさんに伝えて、製品にフィードバックしていただきました。結果としてASMRとの相性もバッチリで、他のイヤホンと聴き比べをしてみても、すぐに差を感じられました。かわいいらしい見た目の「VR 3000」がこんなパワーを持っているんだと、きっと驚くと思います。

――確かに、デザインもコンパクトで手に取りやすいと感じました。

森:コンパクトにまとめるのは気をつけたところです。持ち運びはもちろんのこと、ASMRは寝る前に聞く方が多いと思います。そんなときにイヤホンが邪魔にならないよう片側3.5gに収めて、リラックスして音声作品を楽しめるようにこだわりました。

小岩井:手触りがすごく良いですし、小さくて軽いのもストレスを感じないのも嬉しいです。ずっとそばにいてくれるような存在になってくれると思います。

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