失敗を恐れず、新たな挑戦の形…アパレルブランド「TRUE Self」立ち上げから1年、プロデューサーとして駆け抜けた中島ヨシキさんにインタビュー

インタビュー

2020年7月に誕生し、1周年を迎えたアパレルブランド「TRUE Self」。このブランドは「白猫プロジェクト」ザック役、「アイドルマスターsideM」山下次郎役などで知られる声優・中島ヨシキさんが立ち上げたものだ。

立ち上げたばかりのころは「声優×アパレル」という意外性のある組み合わせが驚かれることもあった。では1年が経過した現在、ブランドはどのような立ち位置にいるのだろうか。

今回、中島ヨシキさんに加えて「TRUE Self」の販売と運営を担当するポンテ代表・鴨武司氏にインタビューを行い、これまでの道のり、そして今後の展望について伺った。

左から中島ヨシキさん、鴨武司氏

準備段階から挑戦して、トライアンドエラーの繰り返しでした

――「TRUE Self」立ち上げから1年が経ちましたが、これまでの道のりはいかがでしたか?

中島さん:あっという間でしたね。常に次の展開を考えていましたし、鴨さんともしょっちゅう打ち合わせしていた1年でした。いろんなことに挑戦して、そのたびに「こうしたほうが良かったかもな…」と反省して、トライ&エラーの連続でもありました。ヨチヨチ歩きでしたけど、今後の土台を築くこともできたと思います。

鴨氏:商品のことはもちろん、お客様に安心して買ってもらうにはどうしたらいいかを考え続けましたね。ヨシキ君はもちろん、チームのみんなに助けてもらいながらの1年で、ようやく一安心といったところです。

中島さん:そうですね。一段落はまだだけど、一安心はできている。そんな状態です。

鴨氏:初回販売のときは安心とは真逆、本当にドキドキしていましたね。果たしてどれだけ売れるか分からない状態でしたけど、結果的に10分で完売してくれてホッとしました。

中島さん:初回販売のとき僕は仕事中で、僕はその場に居合わせなかったんです。そうしたらあっという間に完売してしまった。休憩時間に販売ページを覗いてみたらすでに完売になっていて、僕本人が販売中のページを見れなかったという(笑)。それだけ注目してもらったのは嬉しいことでしたね。

――あらためて、「TRUE Self」を立ち上げた経緯について教えてもらえますか。

中島さん:以前からお付き合いのあった鴨さんが前の会社から独立して、なにか新しいことを始めよう、と考えていたタイミングで声をかけていただいたのがきっかけでした。もともと僕自身もアパレルには興味があったので、こちらからも「やってみたいです」とお願いしました。鴨さんはひょっとしたら無茶かな、と思うこともとりあえず全部検討してくれるんです。社内のスタッフさんに怒られてないか、ちょっと心配になるくらい(笑)

――(笑)。以前からアパレルのプロデュースもやってみたいとは思っていたんですね。

中島さん:思っていましたけど、本当にできるとは想像していませんでした。本来僕の仕事は声優で、この業界でもアパレルのプロデュースやデザインを手がけている人って、なかなかいないですからね。前例がないから、どういった方法で実現できるかも分かりませんでした。

――確かに、声優とアパレルの一時的なコラボなら多いですけど…。

中島さん:コラボだと、できないことも多いんです。関係者も多く、期間も限られていて、こだわり切れない部分が出てくると感じていたので、コラボの提案をされても今まではお断りしていました。

それが今回、鴨さんからの提案だと自由度が高く、僕自身のやりたいことを反映できると感じました。それに以前から仲良くさせていただいたこともあって、僕からも忌憚のない意見が言えるのも大きなポイントでした。嫌なことははっきり嫌と言ってやろうと(笑)。

――とはいえ、自分自身でプロデュースするとなると、0を1にする産みの苦しみも感じたのでは?

中島さん:一番大変だったのは時間がなかったこと(笑)。締め切りという意味に加えて、声優の仕事との兼ね合いでスケジュールを確保できないという意味でも大変でした。最初はデザインもすべて自分で作り上げる話もあったのですが、さすがに現実的ではないということでプラン変更になりました。そこもやはりトライ&エラーで、まずは試しにやってみて、難しければ他のルートを模索していこう。準備段階から挑戦して、ミスしての繰り返しでしたね。

逆に一度走り出してしまってからは止めようがないというか、スピード感がありました。自分の意志にそぐわないものはダメ、良いと思ったものは多少コストが掛かっても良い。準備期間を抜け出すと、とてもシンプルな判断ができるようになりました。

――鴨さんの目には、中島さんのプロデュースはどのように映りましたか。

鴨氏:とにかく強いこだわりを一つ持っている人で、私としてはそれにどう応えていくかを考えるだけでした。戸惑いが見られたのも初期の打ち合わせ1、2回くらいでそれ以外は順調だった印象です。

――トータルで見ると苦労する場面は少なかったのですか?

鴨氏:いや、苦労も多かったですよ(笑)。というのも、ヨシキ君は徹底的に生地にこだわるので、納得するレベルの生地を探すのはとにかく大変でした。

中島さん:(笑)。原価は見ず、数十種類の生地の中から「Tシャツならこれ」という具合に選んでいきました。生地だけはどうしても自分で触って、色も自分で見て決めたかったんです。僕が作りたかったのは中島ヨシキのファングッズではなく、誰でも心地よく来れるアイテム、それでいて、いらないと思ったら無理して買わなくていいものを目指しました。

――無理して買わなくていいもの、ですか。

中島さん:本来、衣服ってそういうものじゃないですか。ほしいときに買うもので、無理して買う必要はない。だけど、ファングッズにしてしまうと、無理して買わせてしまう可能性が出てきてしまいます。そうではなく、ほしいときに良いものを選んでほしい。その人が買おうと思った瞬間に候補になれるよう、生地には妥協したくなかったんです。

鴨氏:「グッズではなく、アパレルを作ろう」という思いは私も共感したところで、それならばこちらも、ヨシキ君が目指す生地を探し出せるように準備を進めていきました。

中島さん:結果的に価格は、グッズとして売るTシャツよりも高くはなっていますけど、その分自信を持って送り出せる品質にできましたね。それは実際に購入した方にも伝わっているみたいで、生地の良さ、肌触りの良さは反響としていただいています。Tシャツ1枚に8,000円という価格を見て、最初は驚く方も多かったですけどね(笑)。

――良い生地、悪い生地の基準はどのように考えていますか?

中島さん:結局は自分の指先で感じる手触りですね。肌に直接触れるものなので、「なんか嫌だな」という、あの感覚を少しでも取り除きたいんです。それって、触った瞬間に分かるものだから、鴨さんにはたくさんの生地を用意してもらって。

鴨氏:こちらとしても「きっとこの生地は気に入るかな」というのを選定はしますけど、パターンは多ければ多いほうがいいですから。

グラフィックプリントシャツ(ブラック)

TRUE Self ロゴTシャツ

「TRUE Self」から新しいなにかに興味を持ってほしい

――デザインやコンセプトの面ではどのようなこだわりをお持ちですか。

中島さん:すごくざっくり言うと、普段使いできるものです。尖ったデザインもないとは言いませんが、奇をてらいすぎないようにしています。あとは直近の流行であったり、ハイブランドが出しているパターンであったりを研究して、ツボを押さえることがこだわりですね。

最終的に商品として世に送り出すかの判断は、僕自身が着てみたいと思えるかどうかを重要視しています。ショップのハンガーラックに並んでいて、なんとなく手に取るか。そのフィーリングを大事にしています。

――「TRUE Self」を立ち上げる前と後で、他のブランドを見る目に変化はありましたか?

中島さん:それはあまり変わってないかな…。仮に意識したとしても、他のブランドのように大量生産できるわけもなく、特殊な加工技術も持っていませんから。とはいえ、他ブランドのアイテムも普通に「いいな」と思うことはありますし、「TRUE Self」と組み合わせたり、いろいろな楽しみ方ができています。

鴨氏:打ち合わせのときにヨシキ君が着ている服を見たデザイナーが「次はこんな服が作れたらいいかも」とアイディアを出すこともあります。変に意識せず、だけどヒントをもらえたら積極的に取り入れています。

――性別や年齢など、ターゲット層を絞る作業はしたのでしょうか。

中島さん:まずは僕のことを応援してくれているファンの方、10代後半から30代の女性が手に取ってくれる層なのかなと思っていました。それでいてデザインはユニセックス、男性が着ても違和感のないものを目指しました。「誰が着てもいい」という考えをしっかりアピールするために、声優さんにモデルになってもらったりもしましたね。

――確かに、「TRUE Self」のサイトを見ると五十嵐裕美さんや西山宏太朗さんといった声優の方々がモデルをしていて驚きました。

中島さん:やっぱり、高身長のモデルの方が着ると、なんでも格好良くなっちゃうんですよ。声優であれば購入される皆さんにとっても親近感がある存在ですし、背格好もイメージしやすいと思うんです。「TRUE Self」は現状オンラインショップのみで、実際に手に取ってもらう機会は限られています。だからこそ、頭身が身近で、親しみやすい人をモデルに選びました。

――声優である中島さんならではのアプローチですよね。

中島さん:女性の声優さんに着てもらうことによって、今度は男性のファンにもブランドを知ってもらえるのでは、といったところも期待しました。なにより、みんな写真に撮られ慣れていて、服をよく見せてくれたので本当にありがたかったです。

――ちなみに、ブランドを立ち上げた際、声優仲間からはどんな反響がありましたか?

中島さん:めちゃくちゃありました! モデルにもなってもらった高塚智人君は「普段は着ない服を着ることができた」と言ってくれました。新しいジャンルの服に手を伸ばすきっかけになったみたいで、その言葉を聞けたのは嬉しかったですね。

ほかにも、今アパレルへの展開を仕込んでいるメーカーさんのベンチマークにもなっている、なんて話も聞きますし、良い挑戦ができている手応えはあります。

鴨氏:アパレル業界からの問い合わせは実際に多くいただいています。業界からすると「TRUE Self」のやっていることが変わって見えるらしいです。

中島さん:楽しんでいるだけで、変なことをしようとか、注目を浴びようとか、考えてないんですけどね(笑)。

――中島さん自身は、「TRUE Self」を立ち上げてから身の回りに変化はありましたか?

中島さん:変化というと…服を買わなくなりましたね(笑)。定期便みたいに、自分でプロデュースした、自分の理想とする服がどんどん出来上がってくるんですよ。言ってしまえば「僕の考えた最強のお洋服」に囲まれた生活なわけで、被服費はかなり減ったと思います(笑)。

――制作スタッフとのやり取りという点ではいかがですか。

中島さん:最初は全部自分1人でやろうと思っていたところが、徐々にスタッフさんからも意見が出てくるようになって、それが反映されていくのは面白かったですね。例えば、Tシャツのタグにステッチを入れているんですけど、裏から見るとアルファベットのNになっているんです。これは僕もまったく意識していなかったところで、スタッフさんが遊び心を加えてくれたんです。この仕掛を初めて聞かされたときは「いいじゃん!」って、思わず笑っちゃったし、嬉しかったことですね。

――スタッフのアイディアに、中島さんが刺激を受けることも?

中島さん:もちろん! ステッチの遊び心は僕にはなかったものですし、女性スタッフならではの目線を取り入れられるのも大きいです。女性目線の考え方って、想像はできても主観ではわからないですから。「女性はこっちのほうが着てもらえると思います」という一言があるだけで商品に変化が生まれるし、男性と女性の意見を両取りした折衷案も生まれます。

――今後に向けて、新たに作ってみたいアイテムなどありますか?

中島さん:新しいアイテムといっても、この1年でほとんど展開できたんですよね。カバンも販売しましたし。

鴨氏:ほぼ全身コーディネートできますよね。

中島さん:だから残ってるのは…靴などですかね。靴は最難関で、型を作るところから始めなければいけないんです。工程がまったく別で、ハードルが相当高い。しかも革靴なのかスニーカーなのか、それともサンダルなのか、種類によっても作り方は変わってきます。とはいえ僕自身も靴は好きなので、いつかやってみたいな、とは思っています。

――ではブランドとして、今後挑戦してみたいことは?

中島さん:もっとエンタメしてもいいのかな、とは思います。この1年間で商品を売る以外にも、インスタライブをやったり、声優さんにモデルをやってもらったり、いろいろな施策を打ち出してきました。こうした取り組みも評判がいいですし、もっと広げていくのは「TRUE Self」のやり方として、ありだと思うんです。

それに加えて、服だけでなく部屋全体のコーディネート、インテリアまで幅を広げるのも面白そうですね。アパレルブランドだからといって、型にとらわれる必要はまったくないんです。ファンの方々には「TRUE Self」から新しいなにかに興味を持ってほしいですし、僕たちにとっても理想的だと思います。

鴨氏:1年かけて「TRUE Self」の土台が出来上がったので、購入者の層も見えてきました。なので2年目は、ここからどうやってブランドを広めていくかをヨシキ君も含め、スタッフみんなで考えていきたいですね。

中島さん:大前提として、僕たち自身が楽しみことですよね。僕たちが楽しんでないと、お客さんだって楽しくないです。ほんの一部ですけど、声優がアパレルブランドを展開することに対してやっかみを言う人もいるんです。だけど、僕が楽しんでるんだから、それでいいのかなって(笑)。

鴨氏:私もヨシキ君と仕事をするのは楽しいですよ。なんでもすぐにコツを掴んで実践するから、暇になる瞬間がないです。

中島さん:とりあえず動いてみてから考える気質なんです。だから、ひょっとしたら大失敗することも今後はあるかもしれません。「新商品を作ったけど、3個しか売れなかった」とか(笑)。でも失敗しないと次になにをやるべきか分からないので、まずは挑戦してみる。これだけはぶれないように、心がけていきたいですね。

――例えば直近、2年目や3年目のビジョンとしてはなにか考えていますか?

中島さん:鴨さんとも話したことで、「いつかZOZOTOWNに載せたいね」とは言っています…これは出来そうな気がしますよね?

鴨氏:2年3年と続いて、機会があれば積極的に挑戦したいですね

中島さん:流通の委託ができれば手に取ってもらう機会も増えますからね。その上で声優やアニメのファン以外の方に買ってもらい「この服声優が作ってるの!?」と驚かれるような存在になってほしいですね。

ブランドが僕の手を離れて、独り歩きしてほしいです。僕自身はどんな状況になっても、ひたすら良いものを作るだけなので、皆さんも良いなと思ったら、一度手にとってほしいですね。

――ありがとうございました。

「TRUE Self」公式サイト TRUESelf VRショップ
撮影:SYN.product