悠木碧流ポップミュージックとオーケストラの不思議な融合…初のオーケストラコンサート「レナトス」をレポート

イベント

2019年10月22日、東京芸術劇場にて、悠木碧さんが自身初のオーケストラコンサート「レナトス」を開催した。6月にはアルバム「ボイスサンプル」をリリースし、2020年1月にはニューシングル「Unbreakable」で次のフェーズへと向かおうとしている悠木さん。「レナトス(生まれ変わる、再生する)」と名付けられたこのコンサートは、まさに悠木さんにとって節目になりうる、記念碑のような企画だった。

開演時間をわずかに過ぎたころ、沈黙を守っていたオーケストラが静かに音を奏でだすと、それに誘われるように悠木碧さんが登場。流れるようにアルバム「ボイスサンプル」でもオープニングを飾る「ランブリン・ハンブリン」を歌い始める。開演前から分かっていたことだが、やはり悠木さんの歌声とオーケストラの相性は抜群。声と楽器のハーモニーで、東京芸術劇場は瞬く間に“悠木碧の世界”に変わっていく。

続いて歌唱されたのは「Fairy in the hurdy-gurdy」。おとぎ話のような悠木さんの歌詞世界を象徴するような楽曲を、悠木さん自身のウィスパーボイスと荘厳なオーケストラ、証明による演出の三位一体で表現していく。

翻ってステージ上に照明で彩られた月が昇った「くれなゐ月見酒」では静かなイントロからはじまり、サビへなだれ込むにつれてアレンジも壮大になっていく。その中で悠木さんの歌声はコーラスとともにオーケストラに溶け込み、大きなうねりとなっていく。

最初の3曲で音楽の多様性を存分に見せたところで挟まれたMCでは、petit milady時代に開催したオーケストラコンサートの思い出を披露したかと思えば、「petit miladyのときのテーマはハロウィンだったけど、今回のテーマはなんだろう、バナナかな?」と、「ボイスサンプル」の収録曲を引き合いに出した軽快なトークで笑いを生み出す。

オーディエンスとたっぷりコミュニケーションを取ったところで、東京芸術劇場の代名詞でもあるパイプオルガンが鳴り響き、緊迫感のある「死線上の華」が始まる。一瞬前まで悠木さんのMCで笑い声も聞こえた会場だったが、瞬く間に息を呑むステージが展開する。この緩急は悠木さんだからできる、唯一無二のパフォーマンスと言えよう。

悠木さん流の緩急はまだまだ続く、今度は「ふわふわらびっと」で、絵本の世界に迷い込んだような世界を作り上げる。歌声というより、まるで登場人物を演じるような声で、物語を紡ぐように歌っていく。

この日もっともポップミュージックに則ったアレンジで披露されたのは、続く「帰る場所があるということ」だ。この楽曲に限ってはアレンジも演出もシンプルでソリッド。悠木さんの楽曲が持つ、音楽の力を最大限に発揮した時間だった。

「帰る場所があるということ」が終わると、これまでスタンドアイクだった悠木さんがマイクを手に持ち、華やかで跳ねるような演奏をバックに踊ってみせる。これもまた悠木碧流のポップミュージックを体現した楽曲「永遠ラビリンス」が始まった。悠木さんのパフォーマンスとオーケストラの息もぴったりで、ファンを楽しませる。

コンサートも終盤に入ると、先日発表されたばかりのTVアニメ『<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-』の主題歌「Unbreakable」を担当することをファンに向けて、あらためて告知。それだけでなく、「Unbreakable」をニューシングルとして2020年1月15日に発売することも発表し、会場から大きな拍手が起こる。

もちろん告知だけで終わるわけがない。まだ誰も知らないこの楽曲を、オーケストラアレンジで初披露するというのだ。悠木さんから「掛け声OK!」とのアナウンスもあり、演奏をかき消すほどの大きな声援が会場から溢れ出した。

急激に熱気を帯びた会場の空気は、次の「Counterattack of a wimp」でさらに強くなっていく。イントロからファンの声援が高まると、悠木さんはドラマチックなサビの展開で応える。

楽曲ごとで全く違う表情を見せてきたオーケストラコンサートもいよいよラスト。最後の曲に選ばれた「Logicania distance」もまた、これまでのどの楽曲とも違う。荘厳なオーケストラアレンジに合ったミドルテンポのナンバーだが、悠木さんの歌声からは内に秘めた、ほとばしる熱も垣間見える。聞く者を吸い寄せるような、鬼気迫るパフォーマンスで本編は幕を閉じた。

しかし鳴り止まない拍手を受けて、悠木さんは再び壇上に姿を現す。本編ですでに「帰る場所があるということ」をはじめとしたアンセムも、新曲の「Unbreakable」も披露していたが、まだまだ手札があると言わんばかりに「ビードロの幕」が始まる。高音、低音を巧みに使い分ける悠木さんの歌声とオーケストラが実によく馴染む。オーケストラコンサートをやる意味をあらためて見せつけているようだった。

曲が変わるたびに会場の雰囲気が一変する今回のコンサートだが、それはアンコールでも同じだった。軽快なドラムロールとともに「Carve a Life」が始まると、オーディエンスからも自然と手拍子が起こる。悠木さんとオーケストラが一音ずつ丁寧に紡いできた今回のコンサートが、観客席まで巻き込んだ“みんなのライブ”へと成長しきった瞬間だったのかもしれない。

そしてクライマックスは「バナナチョモランマの乱」。悠木さんは直前で「バカになる準備はできてる!?」と煽ると、ファンもこの日一番の大声で応え、“バカになる”という大仕事を引き受けた。

ユーモアのある、というよりユーモアだらけのこの楽曲をファニーなオーケストラの演奏に合わせて熱唱する悠木さん、それに負けじとファンも合唱を繰り広げる。最後は悠木さん自ら銅鑼を打ち鳴らして大団円。多くの名演が生まれてきた東京芸術劇場で、すごいパフォーマンスを見た。

公式サイト 公式Twitter