『クラユカバ』に出演する黒沢ともよさんにインタビュー。キャラクター像のヒントは『独立愚連隊』?

インタビュー

4月12日(金)より全国劇場にて公開される『クラユカバ』。本作は、2023年のファンタジア国際映画祭長編アニメーション部門で【観客賞・金賞】を受賞した塚原重義が原作・脚本・監督を務める長編アニメーション映画だ。2021年には序章が公開されており、それから3年の時を経て、満を持しての公開となる。

物語は主人公の探偵・荘太郎たちが、世間を惑わす”集団失踪”の怪奇に迫るという内容。劇場アニメとしては短めの60分という上映時間ながら、スピード感あふれるストーリー、どこか懐かしさを漂わせる唯一無二のレトロな世界観、そして荘太郎を演じる六代目 神田伯山さんの軽妙なセリフ回しと、注目したいポイントは多く存在する。

今回は、本作にタンネ役として出演する黒沢ともよさんにインタビューする機会が得られた。黒沢さんが演じるタンネは、物語の舞台の一つである”クラガリ”を走る装甲列車・通称”鬼の四六三”の列車長。荘太郎と出会うことで、物語の中心を担う存在になっていく。そんなキャラクターをどのように演じたのか、また約3年前の序章から関わってきた作品への思いなどを聞いた。

日々言葉と向き合ってきた神田伯山のすごさ

黒沢ともよさんが演じるタンネ

――本日はよろしくお願いします。黒沢さんは序章から『クラユカバ』に出演されていますが、本作に対する第一印象はいかがでしたか?

最初に作品のことを知ったのは4年程前になりますね。監督からとても丁寧な企画書をいただきました。すでに主人公の荘太郎を神田伯山さんが演じることも決まっていて、是非共演したいと意気込んでオーディションに挑みました。
同時に塚原監督が制作した過去の短編作品や、『クラユカバ』の初期の映像も見させていただいて、「新・おとぎ話」とでも言うのでしょうか。絵本のような手書き風ビジュアルでヌルヌル動く最新のアニメとはまた違った魅力を感じました。

――ストーリーや世界観については、どんな魅力を感じましたか。

物語の冒頭、「かごめかごめ」の歌で始まるのがとても印象的です。というのも、「かごめかごめ」は子供の遊びであると同時に、歌詞を見ると残酷さがひっそりと紛れ込んでいるじゃないですか。この作品は表裏一体の世界が非常に軽快に描かれていて、作品が持つ魅力そのものだと思います。「かごめかごめ」は、そんな魅力を象徴的に示している気がします。

――それでは、ご自身が演じるタンネに対する印象は?

「なにかを諦めた子」というのが第一印象でした。ちょっと達観しているところがあるのかなって。
役作りの中で塚原監督から、「『独立愚連隊』を見てからアフレコに来てほしい」というヒントをいただいて、実際に『独立愚連隊』をはじめ、岡本喜八監督作品を何作品か見たんです。そこで飄々としているけどシニカルな仕草もところどころに出てくる人物像がはっきりと浮かび上がったんです。役のルーツを感じました。

――オーディションのタイミングは、どのようなアプローチで臨んだのですか?

実は、オーディションではサキ役で受けて、逆にサキを芹澤さんがタンネ役で受けていたんです。だから、最終的にはまったく逆のキャスティングということですね。
私自身、タンネのような立派な雰囲気を持つ役はあまり経験がないので驚きましたが、それも面白かったです。

――キャラクターの印象というと、主人公の荘太郎に関してはいかがでしたか。

荘太郎は非常に王道なキャラクターで、脱力感のある謎めいたおじさん。おじさんといっても若く見える瞬間もあるし、不思議なキャラクターです。ある意味、特別なキャラ付けをしていない、主人公らしい主人公と言えるかもしれません。
そんな主人公を伯山さんが演じることで、言葉の運び方、声による掴みが別格のスペシャルなキャラクターになったなと思うし、タンネが一瞬で荘太郎のことを認める流れにも説得力が生まれていると思います。

タンネは荘太郎のことを、最初は「なんだこの一般人は」と見下しているところから、「私は君を見損なっていたようだ」と、変化していきます。切り替えがだいぶ早いんですけど、それが違和感なく進行するのは伯山さんの声の力ですね。

主人公の荘太郎

――確かに伯山さんの存在感はすごいですよね。

やっぱり講談師の方は、日々の活動の中で言葉と向き合っていらっしゃるじゃないですか。私も声優としてさまざまな言葉と接してきましたけど、改めてさすがだと思いました。役との親和性も高いし、伯山さん以外は考えられないです。

『クラユカバ』は「超体験型駄菓子屋さん」

――本作は3年前に序章も公開されています。その当時と、3年が経った現在とで、印象の変化はありますか?

最初は「ここからスタッフ集めるぞ」というところから始まり、「クラウドファンディングしていくぞ」と意気込んでいる関係者の方々のこともずっと見てきました。続編製作に関する状況を度々うかがっていたので私自身も、「大冒険の一員になれる」というワクワクした気持ちがありました。
ちょうど序章のストーリーも、この先の展開が気になる作りになっていたので、余計に沿う感じがしたのかもしれません。

今回はそんなストーリーも一歩踏み込んで、怖いもの、危険なものを連想する描写も多い作品になりました。
映像のテンポはすごくいいし、見ていてとても気持ちいいんですけど、決してそれだけではない、余白と問を残した仕上がりは印象が変わった点でしたね。

――変化という意味では、ご自身の演技の仕方、キャラクターへのアプローチに変わったことはありましたか?

序章を収録したとき、タンネは何もキーワードがなくて、「列車長」という設定だけだったんです。女の子なのか、男の子なのかすらグレーな状態で、かなり手探りなスタートでした。軍人でもあり、普通の女の子でもあり、年上のおじさんたちをコキ使うけど、優しそうなところもある。本当にすべての真ん中を意識したのが序章でした。
それが今回は、列車長としての任務を遂行するシーンが長いこともあって、キャラクターもはっきり分かる方向になりました。列車長をやっているときは軍人らしく、パートナーの女の子たちと会うときは、少し気楽に話すイメージ。すべての真ん中とは逆で、両極端な印象を持ってもらえるように意識しました。

――演じる際の方向性がガチっと固まったというか。

固まりました。声はやっぱり、『独立愚連隊』を見たのがとても大きかったです。岡本貴八監督の作品だと、相手のことを「貴公」と呼んだり、「◯◯でありますな」と独特の言い回しをしたり、そのあたりは本当にイメージが膨らんで、喋り方にも親しみを覚えてから収録できたのはよかったです。

――収録のタイミングで、監督やスタッフからディレクションはあったのですか?

「軍人らしさを強くしたい」とは言われました。政治的な会話をするときに、熱心になりすぎず、淡々と話すイメージ。相手に表情を読ませない会話というか、なにを考えているか分からない会話を常に求められた記憶があります。

――実際に声に出してみて、印象に残ったセリフはありますか?

ネタバレになってしまうので曖昧な言い方になりますが…荘太郎とタンネが最後に交わす会話は、すごく清々しくて良かったです。
あとは、単純に発音が難しかったという意味で、「トメオミ!」と叫ぶシーンも(笑)。トメオミはタンネの相棒で、名前を呼ぶシーンも何度かあるんです。だけど舌を回すのがとても大変でした。

――本編はすでに鑑賞したと思いますが、一視聴者としての感想をいただけますか?

上映時間が1時間とは思えないくらい情報量が多くて、ストーリーの没入感も感じました。
塚原監督が描く世界観もまるで紙芝居のようで、「超体験型駄菓子屋さん」とでも言いますか…。

――なんとなく分かります。駄菓子屋のレトロで、いろんなものが混在しているイメージ。

そうなんです! ちょっと暗い照明とか、パッケージに描かれている謎のキャラクターとか(笑)。
キャラクターといえば、クダギツネがかわいいので、そちらも注目してほしいです。爬虫類っぽくもあり、犬っぽくもあり。デザインがとてもポップで、かわいさと不気味さの両方がある、インパクトのあるキャラクターだと思います。

――最後に、本作に期待するファンに向けてのメッセージというのをお願いできますか。

何年も前から塚原監督が心を尽くして作ってきた作品が、ようやく世に出るということで、私としてもとても嬉しいです。
個人的には、伯山さんの語り、言葉運びを楽しんでもらいたいです。そしてこのアニメをきっかけに、講談の舞台にも足を運んでいただいたら、それは作品としての広がりにもなります。

アニメを見慣れない方が見てとても楽しい作品なので、ご家族だったり、デートだったり、多くの人に見てもらいたいですね。

■『クラユカバ』作品概要

【あらすじ】
「はい、大辻探偵社」紫煙に霞むは淡き夢、街場に煙くは妖しき噂…。今、世間を惑わす”集団失踪”の怪奇に、探偵・荘太郎が対峙する!目撃者なし、意図も不明。その足取りに必ず現る”不気味な轍”の正体とは…。手がかりを求め、探偵は街の地下領域”クラガリ”へと潜り込む。そこに驀進する黒鐵(くろがね)の装甲列車と、その指揮官タンネとの邂逅が、探偵の運命を大きく揺れ動かすのであった…!!

【キャスト】
神田伯山
黒沢ともよ 芹澤優
坂本頼光 佐藤せつじ 狩野翔 西山野園美

【スタッフ】
原作・脚本・監督:塚原重義
キャラクターデザイン:皆川一徳
特技監督:maxcaffy
操画監督:アカツキチョータ
美術設定:ぽち 美術監督:大貫賢太郎
音響監督:木村絵里子 音響効果:中野勝博
音響制作:東北新社 音楽:アカツキチョータ
主題歌:チャラン・ポ・ランタン「内緒の唄」
アニメーション制作:チームOneOne
配給:東京テアトル ツインエンジン
製作:クラガリ映畫協會