Netflixオリジナルアニメシリーズ『エデン』入江泰浩監督インタビュー ストーリーだけでなく、この世界の歴史まで緻密に映像化

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2021年5月27日より配信が始まる、Netflix オリジナルアニメシリーズ『エデン』。本作は、ロボットしかいない自然豊かな世界<エデン>を舞台に、2体のロボットに愛され育てられたサラが世界に隠された謎に立ち向かうSFファンタジーだ。

今回は、本作で監督を務めた入江泰浩監督にインタビューを実施した。過去に『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』『灼熱の卓球娘』など多彩なアニメを手掛けてきた同氏は、ロボットを中心としたSF作品をいかにして作り上げたのか、さまざまな質問をぶつけてきた。

世界で起こった物語の一部を切り取る…他の作品にはないアプローチとは

――今回、Netflixオリジナルアニメシリーズの『エデン』で監督を務めることになった経緯から教えてもらえますか。

『エデン』の共同プロデューサーの長谷川さんから、「ジャスティン(『エデン』プロデューサーのジャスティン・リーチ氏)が監督を探している」と声をかけてもらったのがきっかけです。その時に参考としてジャスティンが記したエデンの世界を解説した膨大なテキスト資料をもらいまして、とてもおもしろいを感じたので参加しようと決断しました。

――入江監督はこれまで、コミックなど原作があるケースが多かったと思います。完全新作の今回は作り方に違いはありましたか?

自分にとってはジャスティンが用意した資料こそが原作、という感覚だったので、作り方はこれまでと変わりませんでした。その一方で、視聴者の方からすればまったく未知の作品であることも間違いありません。誰も知らない作品をどのように伝えていくのか、より楽しませるためにはどうしたらいいのかを考えるのは、本作ならではの作業でした。

――アプローチのベースには、最初に渡された資料の存在があったと。

はい。資料にはストーリーやキャラクターだけでなく、その世界の歴史背景まですべて書かれていたので驚かされました。歴史を一から作り上げていくというのは、私が今まで経験したことがなかったので。どこを切り取ってもいろいろな物語があって、今回の『エデン』ではその一部を切り取ったに過ぎません。他の部分でも作品として成立したと思いますし、そのクオリティには驚かされました。

――脚本の域を超えた資料というのは、作品を視聴した人にとっても興味深いものになりそうですね。

例えば建物だけを見ても、どの時代にどういった経緯で建設され、廃棄され、また新しい施設が建ったのか、その経緯がすべて書かれているんです。キャラクターの感情に基づいたストーリーではなく、世界で起こった物語の一部を切り取るアプローチはとても新鮮でしたし、私自身も興味深かったですね。

――資料があったとはいえ、SFの世界観をゼロから映像化するのは大きな挑戦だったと思います。

セリフで設定を説明するのは限界があると思いましたし、説明だけで尺が終わってしまっては仕方がありません。言語化しなくても背景で、「きっと過去にこんな出来事があったんだな」と想像させる必要がありますし、映像化する上で強く意識したところです。

――今回はNetflixでの配信という形ですが、TVアニメとの違い、難しさはなにか感じましたか?

作り方という意味ではこれまでのTVアニメとまったく同じやり方でした。脚本やシナリオ、アニメーターへの指示の出し方など、自分がもっとも得意としているフォーマットでできたので、そこは良かった点のひとつですね。

難しさより、Netflixだからこそ楽しみにしている点があります。私が以前監督をした『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』は2009年当時に日本とほぼ同じタイミングで海外でも放送・配信されました。そのときは海外のファンからも熱気の高い感想を多くいただいて、本当に嬉しかったんです。今回も当時のように、世界同時に海外の視聴者から感想をもらえるかもしれない。そう思うと今からワクワクしますね。

――ちなみに、クレジットを見ると海外のスタッフも多く名を連ねています。アニメの作り方における文化の違い、メリットはありましたか?

文化の違いは殆ど感じませんでした。その中で強く感じたのは、制作に携わっていただいた台湾のCG制作会社・CGCGが持つクオリティの高さです。世界にはこんなに優秀なアニメーターが存在するのかと、嬉しい驚きのほうが遥かに強かったですね。

――全編3DCGで描かれているのも、本作の大きな特徴だと思います。

3DCGをメインにしたアニメは、2006年くらいにボンズで15分くらいの短編を制作して以来でした。当時は私一人でしたから長い尺を作ることは難しかったです。ですが今回、CGCGという優秀なスタジオと組めたことで、1つの作品として世に出せて嬉しいです。

――キャラクターデザインはかつて『カウボーイビバップ』などを手掛けた川元さん(川元利浩氏)が担当しています。

川元さんには基本的なストーリーやイメージボードを共有して、そこから「この世界ならどんな髪型、服装があり得るのか」を考えてもらうところから始まりました。川元さんから提示されたアイディアはとても多彩で、どれを選んでも魅力的な世界になると感じました。その中から、私やプロデューサー陣と協議して今のサラを選びました。

――キャラクターに関しては監督からオーダーを出すのではなく、川元さんのインプレッションを大切にしたと。

まさにそのとおりです。サラの服装や髪型などは、川元さんの想像力から生み出されたものです。

――キャラクターという意味では、声優の演技に対するディレクションはいかがでしたか?

ディレクションとしては、私からなにかを伝えるというより、声優さんからの質問に答える形でした。例えばロボットを演じた伊藤健太郎さんや氷上恭子さん、そして新垣樽助さん、敵側のゼロの山寺宏一さんからは、「どのくらいロボットらしくしたらいいのか、人間の喋り方に寄ったほうがいいのか」といった質問がありました。

――ロボットの喋り方については、具体的にどのような方向性を持っていましたか?

伊藤さんと氷上さんが演じるロボットは、主人公である人間のサラと密にコミュニケーションをとることで、徐々に人間に似た喋り方へと変化していきます。最初は無機質さを意識しつつ、サラとの会話を重ねる中で感情が込もったような言葉を使い始める、といった演技は意識してもらいました。新垣さんのロボットは人間に対しての興味具合がまた特殊なので、それが生かされるように工夫して頂きました。
ゼロの山寺さんはいくつかの謎を抱えているキャラクターなので、そのあたりも考慮して頂きつつ、という感じです。

――実際に視聴してみると、喋り方だけでサラとの生活の長さが分かるようになっていました。

そうですね。これは物語の終盤、ロボットたちにある事件が起きて、状況が変化します。その時に大きなギャップを感じてもらうためにも、必要不可欠なことでした。

――今回は先にボイスを収録するプレスコで行ったとのことですが、その理由は?

3DCGという表現方法の場合、まずは声を収録して、それをガイドにCGを組み立てたほうが細かい感情まで描きやすい事情があります。特に高野麻里佳さんには最初の仮収録から参加していただき、声はもちろん表情も映像で残し、CG作成の参考にしました。
その後、CGが完成した段階であらためて本収録をさせていただくという、二段構えの収録体制になっていました。

――ちなみに、本作では大小様々なロボットが登場しますが、動き方で気をつけた点は?

巨大ロボットに関しては決して俊敏ではない重厚さが重要になってきますし、戦いを目的としていない農業ロボットだと、どこかどんくさい感じが表現できるように意識しました。それと警備ロボットだとよりシャープな動きにして、無機質に仕事を遂行する様子を表現しています。作品に出てくるロボットはすべてに役割があって、それをアニメーションの差として表現することが重要だったのです。

――最後に配信に向けて、メッセージをお願いします。

25分の4話構成という、とても見やすい作品になっていると思います。1話ずつ気が向いたときに見てもいいですし、4話まとめてみるのも面白いはずです。SFや人間ドラマなど多くのテーマを持った作品ですが、まずは気軽に楽しめる娯楽として作りました。一度見てもらえれば楽しんでいただける自信もあります。ぜひ多くの方に見てもらいたいですね。

――ありがとうございました。

Netflixオリジナルアニメシリーズ『エデン』
5月27日(木)より全世界独占配信

《STORY》
ロボットだけが暮らす世界「エデン」。農業用ロボット E92 と A37 はある日、サラという人間の赤ちゃんが入ったカプセルを偶然発見し眠りから目覚めさせてしまう。人が悪とされている世界でサラが危険だと考えた 2 体は、エデンの外で密かに育てていく。成長したサラは、ある日遠くから自分を呼ぶ声に気づく。それはあのロボットしかいないはずの「エデン」からだった─。

【スタッフ】
監督:入江泰浩(「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」)
キャラクターデザイン:川元利浩(「カウボーイビバップ」)
脚本:うえのきみこ(「王室教師ハイネ」「クレヨンしんちゃんオラの引越し物語 サボテン大襲撃」)
コンセプトデザイン:クリストフ・フェレラ(「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」クリーチャーデザイン)
アートディレクター:クローバー・シェ(「上海バットマン」)
音楽:ケビン・ペンキン(「メイドインアビス」「盾の勇者の成り上がり」)
/プロデューサー:ジャスティン・リーチ(「イノセンス」)
アニメーション制作:CGCG

【キャスト】
サラ:高野麻里佳
E92:伊藤健太郎
A37:氷上恭子
ゼロ:山寺宏一